腐り姫-euthanasia-

シナリオ音楽演出システム総合評価オススメ度
90★★★★

インモラル・ホラーAVGの名を冠し、その名に恥じない秀作。
エロゲーであることを忘れないエロの高さ、年齢制限を逆手に取ったシナリオ、素晴らしくレベルの高い音楽。
おそらく、この限界MAXな背徳性ゆえにものすごく人を選ぶであろう作品だが、私は最高にツボを突かれた。

鬼畜じゃない、インモラル。
幾度も、幾年月も時を渡る者の孤独。悲哀。葛藤。人を愛するが故の狂気。懊悩。情欲。
ゆるゆると訪れる破滅を予感しながらも、それを食い止めることのできない歯がゆさ。
そして、死すら――あるいは奈落へ墜ちることすら快感に思えてくる毒性の強い物語。

これマジでソフ倫通ったんですか!?

と疑いたくなるような、倫理観ギリギリの設定(←ネタバレ危険! 別窓で開きます)の上で繰り広げられる、
妖しく、美しく、はかなく、恐ろしい物語。

簡潔で読みやすく、4日間を幾度も繰り返すループ構造のゲームでありながらリズムを損なわないテキスト。
ほとんどの文章が一回のウインドウ表示時、きちんと読点で区切られており、句点による次ウインドウへの持ち越しがない。
ボリュームが肥大化しているのにも関わらず、文章に関しては垂れ流しの冗長なゲームが多い昨今で、こういった細やかな気配りはとても好感が持てる。
このため、プレイヤーはほぼストレスを感じることなく世界観にのめり込み、次々と提示され、または明かされてゆく謎に翻弄されつつ、何度でもループを重ねてしまう。
再プレイ時も、選択肢が一つ二つ変わる程度ではなく、がらりとシナリオが変わってしまったり、とにかく飽きさせない。

本作のもう一人の主人公、蔵女――腐り姫の、

「誘おう……何処までも」

のセリフと共に、プレイヤーに提示される、トリップ感抜群の境界線があいまいな世界。
導入部から一回のループまでがまさに目くるめく展開で、何が現実で、何が虚構なのか、気を付けてはいても知らないうちにこの世界観にいともたやすく精神汚染されてしまう。

存在の希薄な自我と、時折蘇る忌まわしい過去に怯える、記憶喪失の主人公。
報われぬ思いを抱える人の心に忍び寄り、それを満たしてやる代わりに肉体と精神を「腐らせて」しまう腐り姫。
主人公にそれぞれ複雑な思惑を抱きつつ、その間隙を突かれて腐っていく周囲の人々。
彼らは次々に「満たされ」、「赤い雪」となって散っていく。
そして、世界には赤い雪――「破滅」が降り積もり、一つのループの幕は下りる。

時にあどけなく、時に妖艶に忍び寄る腐り姫の手練手管に怯え、深まる謎に翻弄されながら墜ちていく恐怖を味わい、赤い雪に包まれて滅びを目の当たりにするループの一つ一つに凄惨な色気がつきまとう。

これぞ18禁のゲーム。これぞ年齢制限。

淫靡で退廃的な、これ以上ないくらい「インモラル」な世界観。
これをさらに盛り上げる、あまりにもレベルの高いBGM。
これは本当に素晴らしい。音楽モードだけで金を取ってもいいくらいの出来映え。
「とがの楔」や「たそがれ月」、「湿原」などのピアノを基調とした、もの悲しく格調高い旋律が、ストーリーだけではどうしようもなくタブー臭の強くなるこの作品に、ある種の「品」を与えている。
音楽が鳴っただけでゾクゾクさせられるゲームは久しぶりだ。
秀逸、と言う他ないだろう。

一部ボイスを起用しており、声優陣のレベルも高い。
特に、蔵女役の方に関してはハンパじゃない巧さを感じた。
この不気味かつ妖艶な、強烈なインパクトを持つキャラを、ここまで演じきることができるとは。
「盲点」やおまけシナリオへもすべて絡んでいるので、まさに八面六臂の活躍ぶりだが、そこでのはっちゃけぶりと、本編とのギャップに唖然となるはず。

キャラ絵に関しては、多分に好き嫌いが分かれると思うタッチだが、これまた世界観にぴったりと合っている。
伝奇ホラーの暗さを保ちつつも、表情豊かに、また塗りは丁寧に仕上げられており、非常に高レベル。
背景も、少しレトロで枯れた画風が「とうかんもり」という寂れた町の設定にマッチしており、最近多い、「暖かく、素朴でのどかな田舎町」という以外の、標準的な廃れゆく田舎町の風情をよく表現できていると思う。

ところで、このゲームの演出で一風変わっているのが、この背景とバストアップCGの組み合わせ。
背景上にキャラのチップが配置され、それを眺めたまま、会話時のバストアップCGが表示される。
これにより、プレイヤーは、キャラたちがどのような位置関係で会話しているのか、容易に知ることができる。
また、このチップは、その会話中でも立ち位置を変えることもあり、会話の臨場感という演出に一役買っている。
今までのAVGと言えば、会話中のキャラは表示されっぱなし、ほとんどすべてが立ち絵というものばかりだったので、この演出はかなり新鮮だった。

さて、このゲームでの数少ない難点。
ゲームシステムが複雑すぎる。
4日間一括りでワンセット、それを幾度も繰り返す、という構造は別に構わない。
だが、一度エンディングを迎えたら、「記憶を消す」を選択しないと別エンドに到達できない、というのはいかがなものか。
シナリオ上の演出もあるとはいえ、この条件が分かりにくいため、攻略に非常に手間がかかる。
さらに、ルート制限(?)が厳しく、一行でも次ルートの文章が表示がされてしまうと、前データをロードしても、その時点に戻ることができず、強制的にそのルートのエンディングを迎えざるをえなくなっている。
このため、今作の「セーブ」という概念は、単なる休憩用か、中途終了のためのしおりでしかない。
通常のAVGと同じ感覚で進めていくと、泣きを見る羽目になるので要注意。

そして、最大の問題点が、設定を語りすぎてしまったこと。
腐り姫の能力や存在意義の説明をするために、明らかに伝奇ホラーとはミスマッチなSF要素を盛り込んでしまい、強引に着地はしているものの、ほんの少しだけ、据わりの悪い物語になってしまっている。
終盤までの閉じた世界観にどっぷりひたっていたのに、突如現れたグローバルな設定にとまどいを覚えたプレイヤーは少なくないと思う。
それほどまでに、この要素は突飛すぎた。

じわじわと確実に追いつめられて、目前にカタストロフが迫っている、という一触即発の緊張感を持った状態においては、あまりに論理的な説明がなされすぎているこの設定で、かえって興ざめしてしまう。
もっと得体の知れない、よく分からないけれど怖い、といったままの存在であってもよかった。
それこそが、「ホラー」の醍醐味であると思うので。

ただ、それを経てもたらされるエンディング3種は、どれも非常に美しい。
特に、トゥルーエンドの余韻の深さは抜きんでており、「リフレェン」というタイトルとも相まって、ものすごい破壊力を持っていると思う。

すべてを忘れ、そしてたどり着いた巡る運命の先に待っていたのは――。

これを、(ネタバレ危険!→)>「リセット」と取るか「循環」と取るかによって、その人の評価は違ってくると思うが。
それは、プレイヤー次第で違っていいと思う。(以下ネタバレ危険!)
「リセット」と取るならほんの少しの希望を、「循環」と取るならやりきれない無限の悲しみと切なさを、それぞれ味わえると思うので。
ちなみに私は「循環」の方が好き。アンハッピーエンド大好きなんで。

このラストにおける、「逃げ」ではない解釈の多様性も、今作品を味わい深くしている点の一つだと思うので、プレイヤーそれぞれの感想を大事にすればいいと思います。

ボリューム的には小品とも言える作品だが、その質においては逸品の一言。
すべてが高アベレージの、完成度の高い良質なAVG。
倫理観にしばし目をつぶれる人、ぜひプレイを。

あとな、ヒントが出る「盲点」モードは、初回プレイ時は絶対にオフにしとけよ、みんな。
オンにすれば、大変なことが起こるから。

……ぱっぱぱぱぱぱぱ、ぱっぱっ、パフ。←体験者だけのお楽しみ