沙耶の唄
| シナリオ | 絵 | 音楽 | 演出 | システム | 総合評価 | オススメ度 |
| 8 | 8 | 8 | 8 | 9 | 82 | ★★★ |
ニトロの屋台骨、虚淵玄+中央東口コンビの最新作。
業界の各情報誌に、
「過去の作風である『漢祭り・火薬弾薬祭り・日本刀カンフー祭り』を深く反省し、野郎キャラよりも大勢のおなごキャラを出す」
と、18禁ゲームメーカーとしては至極当たり前なのだが、ニトロファンには驚愕の野心溢るる声明文を発表し、いったいどんな作品に仕上がってくるのかと戦々恐々としていたら。
ゲーム起動開始と同時に爆笑。
何せオプションに、「グロ(画像)をそのまま表示」「フォーカスをぼかす」「明度を落とす」なんて選択があるし。
そうか、そうきたのか、ニトロ。単なるおなご祭りなんてするわけないとは思ってたよ。
さすが私の愛するメーカーだぜ!( ^ー゚)b
というわけでこのゲーム、イントロ部からいきなりグロ画像です。
それも、思いっきりスプラッタでこれでもかというくらいに緻密に描き込まれた臓物様が。
しかも、描写も微に入り細をうがち、それを引きずる音まで再現しちゃってくれてるので、この手の作風がダメな人はおとなしく回れ右した方が無難。
最初っからグロ全開でいくためにすぐ見慣れてしまい、慣れるとさほどでもないのだが。
CGはお馴染み中央東口氏。
元々異形の生物を描くのが格段に上手かった氏だが、やはり作品を重ねるに従って普通の人間を描くのも相当レベルアップしたのが伺える。
タイトルにもなっている、キーパーソンである沙耶の無邪気なかわいらしさは文句の付けようのない出来だし、抑えた色調のシックな画風は、作品の雰囲気に抜群にマッチしている。
また、高レベルな音楽でも知られるニトロだが、今回は突出した楽曲こそないものの、どれもホラー作品に相応しい不安感を煽るような曲調で、画面との相乗効果もきちんと計算されている。
もちろん、一部に有名キャストを起用したキャラボイスもハマっており、全体的にそつのない作り。
低価格作品でありながら、常時相当のレベルのものを見せつけるニトロらしく、システムにもまったく手を抜いていない。
特に、ホイールで文章を送れるのがとても便利。
私のようにものすごい勢いで文章を送る人間にとっては、クリックよりこっちの方が断然楽で早いので、これはかなりありがたい機能だった。
もちろんバックログもホイールで見れるが、残念ながら音声再生までには対応していない。
さて、肝心のシナリオ。
実は、初プレイ時には「面白いけど、虚淵氏だし当たり前。まっこんなもんだよね」と思ってました。
それがとても失礼な感想であることに気付かずに。
気付いたのは、ゲームをアンインストールして、レビューに何書こうかなぁと内容を反芻しつつぼんやり考え始めてから。
確かにプレイ時間が短すぎて食い足りない気持ちが強かったし、伏線が生かしきれなかった部分もある。
短編よりは中編くらいにすればよかったかなぁとも思う。
でも、その内容はただのスプラッタホラーじゃなかった。
あの救いのないラスト、その意図はプレイヤーによって受け取り方が千差万別だとは思うけど。
あれは、認識障害を抱えている主人公視点だからこそああいう悲しげで綺麗な美しい景色が見えるのであって、それがもし普通の一般人だったら、どんなにおぞましい狂気の世界が見えてくるのか。
そして、沙耶が異形の生物であることを知ってしまったのにもかかわらず、変わらず沙耶を愛し続ける主人公。
それは、自らが異常であることを知りつつも彼岸を越えてしまったということだ。
この一種のパラダイムシフトにプレイ時気付けなかったことが大変悔しく、その破壊力に気付いたときは後の祭り。
ああもう、これだから私はバカだ。
そこには、必ず救いが起きてしまう、ご都合主義の感動物に対する強烈なアンチテーゼが感じられる。
この、誰が見てもハッピーじゃないのに、究極に幸福であるエンド。
何て絶望的な美しさだろう。
何て邪悪なメルヘンなんだろう。
何て醜悪な純愛なんだろう。
もう、さすが虚淵玄と言うしかない。現時点で間違いなく業界最高レベルのライターの一人。
下手をすると陳腐そのものになってしまうネタをここまで散りばめておきながら、ホラーの恐怖と萌え、燃え、決して相容れない種との恋愛に起因する悲哀や寂寥を、ここまで絶妙の配置でバランス良く出してくるのは並大抵の手腕ではない。
ある意味人をかなり選ぶ作品だが、対価効果以上の余韻が残るので、スプラッタに抵抗ない人はぜひ。
旧作虚淵ファンで未プレイの人も、氏の新境地を味わえるのでぜひ。
ところで虚淵氏へ。
次はぜひともまた「漢祭り」の長編を出していただきたいと思ってるのですが。