蠅声の王
| シナリオ | 絵 | 音楽 | 演出 | システム | 総合評価 | オススメ度 |
| 8 | 8 | 8 | 8 | 8 | 82 | ★★★ |
かつて隆盛を誇ったゲームブックを、あえてもう一度デジタルメディアを使って再現しようと試みた意欲作。
新ブランドならではの試みや、ゲームブックという媒体への愛が感じられて、私は非常に楽しめた。
ただし、ものすごくプレイヤーを選ぶ作品です。最近の、インストールさえしてしまえば、あとは手放しでクリア可能なような至れり尽くせりのシステムを良とする人には向きません。
複数のページに指を挟みまくり、手元にはメモ、鉛筆、消しゴム、さらには電卓をも用意して、ダイスと紙と文字が織りなす
冒険に敢然と立ち向かった人、もしくはこれから立ち向かおうとする人向け。
能動的にゲームを楽しもうとする姿勢がなければ、このゲームの面白さのキモは分からないと思うので。
新規参入なだけあって、まだまだマンパワーが不足しているらしく、絵と音楽、プログラムは外注。
だが、どれも非常に良いバランスでまとまっており、雰囲気はバッチリ。
特に絵は、どちらかというと硬質の文体のため、色気が不足しがちな今作において、それを補って余りあるエロさがあり、女性原画家にありがちな、ヒョロヒョロの体つきをした男もいないし、とても良い出来。
差分CGもかなりの数が用意されており、質量ともに充分。視覚的な満足度はかなり高かった。
音楽は、実にバラエティに富んだ作り。
喰屍鬼(グール)が跋扈する不気味な城の中では、いつ襲われるか分からないドキドキを煽るような緊迫感たっぷりの曲を。
戦闘時には迷宮の探索による鬱屈を晴らすかのような、ビートの利いたアップテンポの曲を。
全体的に抑えた曲調が多いのだが、どれもシーンにはマッチしており、納得のいく仕上がり。
ただ一つ不満なのは、これだけのボーカリストが参加しておきながら、ボーカル曲らしいボーカル曲が少ないこと。
EDと挿入歌の数曲だけ。しかもその挿入歌は歌詞が造語で、確かに雰囲気は出ているのだが、歌と言うよりはコーラスの
雰囲気が近いため、何だか肩すかしな感じを受けた。
宣伝材料にもボーカリストの名前は上がっているし、皆、すでに固定ファンがついているようなメジャーな歌い手だ。
作品の方向性を考えると、その選択は決して間違っていないのだが、惜しかったなぁと思う。
さて、プレイヤーによっては賛否両論があるであろうシステム。
とりあえず、足回りは標準的。もたつきもないし、落ちたりバグったりすることもない。
環境によっては落ちるらしいが、すでにパッチが配布されているので問題はないだろう。
では、何が賛否の対象になるのかというと、自由度がありすぎる、実に漢気溢れるゲームシステム。
ゲームブックというものをまったく知らない人のために説明すると、通常、プレイヤーはダイスを振ることによって、その値が指し示す次のシーンへと移動する。
これは戦闘も同様で、ダイスの目によって与えられるダメージが決まっており、その管理は基本的にプレイヤー任せ。
だが、アナログメディアであればこそのズルはし放題。
戦闘には問答無用で勝ったことにしちゃったり、先のシーンをちょろっと覗いて、危ないところがないか確認してみたり。
まさかデジタルメディアではそこまで再現するわけなかろう、ハッハッハ。なーんて思わなきよう。
このゲーム、(プレイヤーが)やりたい放題ですから。
確かにダイスは振れる。でも、その値に従わなくとも、何のペナルティもない。
ついでに、他のシーンには飛べないようになっていたり、そういう制限を設けているところもない。
極端な例を出せば、序盤でうろちょろしていたのに、次の瞬間にはEDシーンを拝むことも可能。
戦闘だって、振ったダイスの値が自動的に記録されたりすることもない。だから、たとえクソ目が出たとしても、脳内でなかったことにすることが可能。それどころか、「勝利した場合」の次シーンへ移動も可能。
公式ルールに則って、ダイスを振り続けるもよし。
ズルしてとにかく先に進むもよし。
自分ルールで好きなように遊べる無茶苦茶な自由度。デジタルメディアでありながら、つまり、そういう制約をプレイヤーに課すことが可能でありながら、あえてそれを行わない潔さ。
「ゲームブックの面白さ」というものを信じていなければできない、大胆な選択だと思う。
そういう選択をしたことに、古のゲームブックファンである私としては賛辞を送りたいのだが、反面、ダイスの値やパラメータの変化が記録される、「管理モード」のようなものがあってもよかったのでは、と思う。
おそらく、それをやると、戦闘になかなか勝てない、迷宮から全然抜け出せないという、ゲームとしての難易度(&ダルさ)が飛躍的に向上してしまうから付けなかったのだろうが、せめて、パラメータの自動記録ぐらいはしてほしかった。
-7-2-3+5とか羅列してある、他人から見たら何の暗号かと思われるメモを片手に我に返ったとき、ちょっぴり、「ふー……」と己を振り返りたくなりましたので。
シナリオは、今作の特徴上、さほどボリュームがあるわけではないが、かなり魅力的な設定、キャラとなっている。
反面、その設定をフルに生かしきれているとは言い難く、そこが引っかかる。
せっかくの設定が説明されず、そこをもっと掘り下げると、AVGとしても相当楽しめるものになったのではないかと思うだけに残念でならない。
「ゲームブックの再現」という形にチャレンジした今作だからこそ仕方のない点でもあるのだろうが、舞台が限定されてしまっていて、あれ? もう終わり? という感が否めないのだ。
各キャラがそれぞれ所属する組織へ戻ってみるとか、最初は別の事件を解決するところから始まり、外から「蠅声の王」の恐怖や強大さをもっと浮き彫りにするとか、色々風呂敷を広げる手法はあるだろうと、ド素人が考えに至るくらい、色々なやりようのある深さを持つ設定だけに、もっともっとこのキャラたちと付き合いたかったというのが正直な感想。
反面、謎解きの手応えはかなりいいものを感じる。まさに往年のゲームブックレベル。
考えるのが面倒な人、ヌルゲーにどっぷり浸かった人には向かない難易度で、解けたときの爽快感はなかなか。
ヒネリの効いた問題も多く、それにはきちんと相応の報酬もあるのだから、思わずムキになって取り組んでしまう。
序盤~中盤は、廃村から城内の探索がメインであるだけに、ともすれば単調になりがちなのだが、随所に笑いの要素があったり、どこがデストラップに繋がるか分からない緊迫感があるだけに、なかなか飽きさせない。
(油断してると即死亡。「014へ行け」にそれこそ死ぬほど遭遇する羽目になる。この辺、まさにゲームブック)
また、中盤~後半は燃えるバトルや前述の謎解きも歯ごたえを増し、たたみかけるようにラストへとなだれ込む。
この辺のさじ加減は絶妙で、止めどころに困るほどに魅力的な展開であり、一気にプレイしてしまった。
以上、ゲームブック好きは思わず涙するほどしっかりとまとまっていて、この試みは一見の価値あり。
ただ、評価はするが、正直値段は高すぎる。これは、新ブランドで資金力がないだろうから仕方がないとは思うが、他メーカーなら4~5千円ラインに乗せてくる作品だ。
その方が、結果的にはもっと多くのプレイヤーに触れてもらえるような気がしただけに、販売戦略の練り直しが必要では、と思った。
余計なお世話だとは思うが。
フルボイスなわけでもないし、別にメディアがDVDでなくたってかまわなかったのでは。
CDだろうがDVDだろうが、面白い作品には容量やメディアの垣根はないので。
(マイベストエロゲーの月姫はCD、次点のYU-NOに至ってはFDだぞ)
ぶっちゃけ、特典はどれもいらないので、その分安くしてほしかった。鉛筆とかいったいどうすれば。
(私はメーカー直販で購入した)
とにかくシナリオだけを追いたい、エロだけを楽しみたいという人には不向きな作品。
そういう人はプレイしない方が、ユーザー、メーカー、双方にとって幸せであると断言する。
往年のゲームブックファンはぜひともおやんなさい。その忠実な再現ぶりに、思わず感嘆できることでしょう。