月光のカルネヴァーレ

シナリオ音楽演出システム総合評価オススメ度
80★★★

購入後、半年以上放置してからようやくプレイ。
それほどまで、ここ最近のニトロ作品には、「是が非でもやりたい」と思わせる力が欠けていたわけですが。
もたもたしていたら「ジャンゴ」が発売してしまい、いくら何でもこれはまずいと焦ってプレイ開始。
で、蓋を開けてみたら、意外や意外、きちんと面白かった。良作とまではないけれど、力作。
むしろ、万事に及第点すぎて、いつもの、
「さすがニトロ! 他のメーカーができないことを平然とやってのけるッ! そこに痺れる憧れるゥ!」
という荒唐無稽さはないものの。
むしろ、ニトロ初心者に勧められるような、ブランドのカラーをきっちりと踏襲した作品であると思う。

絵・音楽・演出は、毎度のことながらどれも実にそつのない作り。
ビジュアル面は、異国情緒溢れる背景と可憐な女性キャラ、渋くて猛々しい男性キャラ、CGと、それぞれが非常にハイレベルな融合を遂げていて、特に彩色は素晴らしく、光の表現がものすごく美しかった。
また、武器や不気味な人形のCGも奮っており、専門の3Dチームの力を存分に発揮している。
枚数自体は物語の尺のわりに若干少なめかとも思うが、それぞれの質が相当のものであるので、特に不満は感じなかった。

ただ、演出に関しては、同時期に開発していたはずの「Lamento」がバリバリに動きのあるものであったため、今作もそうであろうと思っていたら、ごく正統的なAVGスタイルだったのには拍子抜け。
ライターの文章力が高いのならそれでも力押しでどうにかなるだろうが、もはや動的演出の強化は業界の標準だ。
決して全体的に下手というわけではないが、戦闘シーンでは特に間延びした印象が強いため、できればこれを動きで補ってほしかった。

音声は、もはややりすぎだ。
ニトロ作品に出演する声優陣に慣れてしまうと、自分内デフォルト値が上がってしまう恐れがある。
それほどハイレベルなベテラン声優を、とんでもねー役でゴリゴリ起用しちゃってます。よろしよろし。
他も、キャスティングの妙を感じさせる実に巧みな選出で、物語を大いに盛り上げていると思う。
中の人スキーなら、それだけで買っても損はしないかもしれない。全キャラにわたって、かなりセリフが多いので。
あと、保村氏のキレキャラの巧さと、ダヴィデのイッちゃってる演技は異常。
保村氏、「あやかしびと」みたいな影の薄い主人公より、こっちの方が断然合ってるし光ってるよ。
(そういや、「あやかしびと」でもブラック主人公の方が格段に良かった)

音楽はいつものZIZZ。
主題歌は上野洋子氏。てっきり、お馴染みのいとうかなこ氏かワタナベカズヒロ氏がやるもんだとばかり思っていたので思わずビックリ。しかもビッグネームだし。
が、これが大正解。元々、半音移行のコード進行を多用し、エキセントリックで幻想的な曲調を得意とする上野氏と、この世界観とがしっくりくる。
もちろん、エンディングを手がける上記二氏と、挿入歌の小野正利氏のそれぞれの個性に合った歌も素晴らしい。
ただ、今回BGMで一部違和感のあるものが。
BGM自体の質ではなく、Hシーンに日常生活のBGMを持ってきたり、使用箇所に問題があったと思う。
いつもの圧倒的な曲数と選曲センスを誇るニトロらしくない。

システムはいつものニトロ仕様だが、さすがにそろそろ改良の余地があるかも。
一度に見れるバックログがやけに少なかったり、戻るのにわざわざマウスを動かしてEXITを押さなければいけなかったり。
右クリック解除くらいは、別に難しい制御でもなんでもないのでは。
それに、右クリックを押してからメニューが表示されるまで微妙な間があり、とにかくもっさりしている。
何にリソースを使っているのか素人には分からないが、エロゲの世界も日進月歩。
根本的な足回りを見直さなければ、このままでは他メーカーにどんどん水を開けられていくだけだと思う。

さて、「思ったよりは」ずっと面白いし、筋立ても真っ当だったシナリオ。
ニトロお得意の、人と人外と武器とが入り乱れ、複数の思惑が錯綜する群像劇だ。
どの陣営も、目的と立ち位置がはっきりと書かれており、それがブレたり説明不足だったりすることはないので、ストーリーは非常に追いやすい
また、エピソードもバランス良く割り振られてあって、どれかに偏るということもなく、かなり練り込まれていると感じた。
多数のキャラが登場するが、それぞれが作中できちんと役割を果たし、群像劇にありがちな、「このキャラいらない」といった蛇足感もないので、以上の点では極めて優秀な作品であると言える。
むしろ、一番いらないのは主人公だ

こいつたぶん、ニトロの歴代主人公中、最高のヘタレ。
かつてオルマ・ロッサというマフィア組織内で、冷静沈着で最強の暗殺者だったという謳い文句のわりには、さほど強さも感じないし、何をするにもはっきりしない。
恋人を失い、親友に裏切られ、自暴自棄になっているからという設定を差し引いても、物語の主人公はこれじゃダメだ。
少なくとも、ニトロのような、ユーザーが「燃え」を大いに期待するメーカーである以上は。
ストーリーの途中でどん底に落ちるような展開があり、一時的にヘタレになるのはいい。それは演出のうちだ。
だがコイツ、やることなすこと中途半端で、ホントにヒロインたちに惹かれているのかすら疑問に感じるほど感情の起伏にも乏しく、お世辞にもプレイヤーが「格好いい」とは思えないキャラなのだ。

それなのに、やたらと戦闘シーンが多いシナリオ。
その戦い方のパターンも決まりきっており、「銀器を出され大ピンチ→力押し→味方の助けが入るor辛勝」の繰り返しのため、バトルの爽快感は乏しく、むしろ、冗長に感じてしまう。
いっそのこと、要所要所でのボスクラスのキャラとだけの戦闘にした方が、全体的には引き締まったのではないかと思う。
この悪しき戦闘シーンのおかげで、作品全体がスピード感に欠け、おかげで物語に緊迫感がない。
シナリオ自体はかなりよくできた部類で、先を読ませる力もあるのだが、どうも間延びした印象が拭えないのだ。

また、脇を固める男キャラが、皆非常に魅力的なのに対し、肝心の女性キャラは、アンナ以外、今一つ。
この辺の伝統もニトロだから、と言ってしまえば身も蓋もないのだが、どれもこれも決して悪くないキャラ立てのため、あまりにも惜しすぎる。
ルナリアとかレベッカとか、すわ、殺し愛か! と色めき立ってみれば、どれもそこまで突き抜けるでもなく、中途半端なエンドを迎えてしまう。
違うだろ! そこはもっと病まなきゃダメなんだよ!(私は危ない人間ではありません)
殺し愛なら、妹ブランドのメインライター、淵井鏑氏に聞いてこい。氏の殺し愛展開は神レベルだ。
(マジで。この人、絶対私の妄想を具現化してるに違いないってほどツボをついてくる魔人)

今作でのエンディングの順位としては、アンナハッピー>ノエルノーマル>>>越えられない壁>>>ルナリア=レベッカ。
特にルナリアの扱いはもう残念の一言。これはいくら何でもありえない。
本来なら、外見も中身も、間違いなく人気沸騰、話題騒然、業界を席巻することすらできたかもしれないのに。
それが、「ルナリア? ……ああ、かわいいよね」レベルで終わらせてしまうとはどういうことだ。
どうせ壊れるのなら、完膚無きまでに壊れなきゃダメなのよ。病むなら頭がおかしくなるくらい病まなきゃダメなのよ。
(ネタバレ危険!→)シリンダが欠け、記憶を失うエンドはともかく、他の姉妹と一緒にドサ回りをするエンドのどこに幸せを見出せと?
しかもこっちがハッピーエンドだろう。ああ、もったいない、もったいない。
もっと、世界に二人きり、互いが互いしか見ておらず、そしてそれは絶対的な主従というエンドは作れなかったのか。
そもそもこの作品は、人狼と、それを殺すための人形との恋愛物なのだ。
もっとヒリヒリするような殺愛、心かきむしる葛藤を見たいと思って何が悪い。いやそれこそがユーザーの本望。
(私は決して危ない人間ではありません)

それに、全体的にエピソードの扱いが綺麗すぎた。
もっと血みどろ、もっとドロドロ、もっと情念を。
ノエルやレベッカが捉えられたら陵辱を受けて当然だし、ピウスのような非人間的な主人の元では、人形たちだってもっと苛酷な扱いを受けているはず。
ルナリアがダヴィデを毛嫌いする理由も、具体的に陰惨なエピソードを用いれば、後にその呪縛から解放された際のカタルシスをもっと味わえたかもしれないのに。

以上がシナリオで残念だった点。
挙げすぎだと思われるかもしれないが、むしろ、これしかないのだと好意的に見てほしい。
だって、それ以外はほぼ合格点だったんだもの。

とにかく、多数のキャラが絡み合う構図を、プレイヤーが混乱することなく把握できるよう、きっちりと説明しきった力量は確かなものだし、世界観は実に魅力的。
ルートごとにまったく別の展開を用意してあり、キャラのエンディングが全然被らないのも高評価。
エンディング自体も、ご都合主義が薄く、どれも手放しで喜べるようなハッピーではなく、切ないエンドが多いのも高評価。
何と言っても、セリフ回しがかなりこなれていて、ダラダラとつまらないギャグを垂れ流すエロゲが多い中、会話シーンはかなり楽しめた。
特にカルメロ。麻薬中毒のイッちゃってるキャラだが、そのアッパーなセリフの数々ときたら、戦闘シーンで退屈してしまったプレイヤーのやる気を再び起こさせるに充分。(重ねて言うが、保村氏は最高の演技だった)
ジェルマーノとアンナのやりとりも微笑ましく、ペルラの性格破綻者ぶりには戦慄。
そういった、キャラの立たせ方には非常に長けていて、また、ルートによって立ち位置が変わり、多彩な面を見せてくれるのだから、何だかんだ言いつつも、すっかりこのシナリオに魅了はされていたのですよ。
特に男キャラの漢っぷりの良さはさすがのニトロ節であり、これで主人公がもっと格好良ければ、手放しで良作と言えたのに、と返す返すも残念でならない。

全体的に、そつなく、小ぎれいにまとまっている。クラスに一人はいる良い子の典型的見本だ。
往年のニトロの破天荒さこそないものの、実に手堅く、大抵の人は楽しめる作り。
特に、伝奇物はやってみたいけど、あまりにエロがキツかったり、描写がどぎついのは嫌、という人には勧めやすい作品だと思う。
女性でも取っつきやすいエロゲの一つかもしれない。

ここのところずっと下降線だったニトロの、起死回生とまではいかないが、上昇に向けての足がかりになりうる作品。
ただ、ニトロ以外のメーカーだったら大成功に入るのだが、ニトロの魅力は、何と言ってもその突き抜けたパワーと、血がたぎり、圧倒的に燃えたつ戦闘シーンにある。
次作こそは、燃える主人公が、刀振り回したり、銃ぶっ放したり、車で追いつ追われつしたり、死んだり死なせたりする作品をやりたいです。