menteur

シナリオ音楽演出システム総合評価オススメ度
1010101010100滂沱の涙必至
★★★★★

女性向け作品では新進気鋭のメーカーである、貴腐人ソフトの弟ブランド、腐ェロモンソフト第一弾。
今まで、兄ブランドから派生した妹ブランドが設立される例はあったが、逆のバージョンは業界初ではなかろうか。
ちなみに今作はフランス語のタイトルで、読み方、意味はパッケージやマニュアルには書いていない。
一番始めに速攻ググった無教養の私をお許しください。
それにしても、なかなか洒落たタイトルではないか。と期待した私の予感は史上最強に大当たりした。

まずは絵。これが実に素晴らしい。
見た者の度肝を抜く、まったく未知数の造形で描かれたキャラたちは、以降、「超人類系」として業界に新たなジャンルを確立すること間違いなし。
骨格ベースで新たなオリジナリティを創造するとは、とても並大抵の絵師にできる技ではない。
確実に関節が通っていない曲がり方の腕、纏足ならぬ纏手を施されたかのような小さく丸まった手、もはや「触角」と言って差し支えない、突き出た頭髪etc。
羅列すればきりがないが、どれも「人体」という狭い枠組みなどいともたやすく飛び越えている。
最初は驚きの方が先に立つのだが、慣れてくればくるほど麻薬のように魅せられてしまう。
この絵を立体化することははなはだ困難であり、二次創作・造形師泣かせだな、と言わざるをえまい。
また、塗りも実に素晴らしく、特に原色を多用したポップでキッチュな画面は、1時間ごとに画面から離れて目を休めなければ大変なことになる、と思い知らせてくれる。
普段から興に乗れば数時間ぶっ続けで目を酷使しがちな我々エロゲーマーにとって、目は最も重要な器官であり、それにまできちんと配慮したロハスでデトックスなアロマなこと間違いなし。

音楽ももちろんパーフェクト。そして非常に実験的である。
何せ、音楽モードにはBGMにきちんと曲名がつけられているのだが、作中ではまったくの無音状態。
だが、この作品の売りの一つは「BGMはMHK交響楽団によるフルオーケストラ録音」であり、実際、某エロゲ情報誌にはそのときの模様が写真で載っていたため(下写真参照)、これはバグなのか? とあちこちいじったりもした。
BGM録音中
念のため、音楽モードで再生してみたらコメントが出てきて、「貴方のクリック音やHDDの稼働音、自身の『ハァハァ』といった様々な音がこのBGMとなります」とある。

何たる大いなる仕掛け! 思わずスタンディングオベーションを送ってしまった。

明らかにジョン・ケージの「4分33秒」に触発されたのであろうこのBGMは、曲名を「50時間28秒」というのだが、これってひょっとして、制作サイドが想定する総プレイ時間のことなのだろうか。
ちなみに今作、キャストも主題歌も超一流アーティストばかりだったのだが、作中、一切音が出ないのは、その存在すらもこのBGMに包含しているからに他ならない。
演奏時間だけで捉えるならば、現代音楽の著名な実験作の一つを軽く超える偉業を達成してしまったと言える。

システムはこれまた斬新。
いにしえの8ビット機に触発されたのか、今作では、「セーブしてもデータが保存されないことがある」という不確定要素たっぷりの「KINS」セット下の端子部分にを吹きかければるかもしれないよステム)を採用し、これにより、「今回は大丈夫かな?」と、作品本来以外でのミニゲーム気分を楽しむことができる。
攻略対象が多く、プレイはかなり手こずる作品なのだが、このシステムを搭載したおかげで常に緊張感を孕んだ状態を保つことが可能。
また、「GAYS」像一枚でえてーザーの想像力に働きかけるステム)も搭載し、その、決して動かない小説の挿画のような効果には否が応にも脳内変換を働かせずにはいられない。
総プレイ50時間中、プレイヤーがどこまで妄想力を保つことができるか試される、不敵な挑戦に満ちたシステムと言える。

さて、肝心のシナリオだが。
かつて、こんなに心に響く人間ドラマがあっただろうか。
もはやこれはゲームの域を完全に超えた。芸術と呼ばせてもらう。
開始後5分ですでに涙のせいでモニターがよく見えなくなった。
小説・音楽・ゲーム――今までも数多くの良い作品に触れてきたが、ここまで魂が軋みを上げるような狂おしい感情を持たされたことはなかった。
こちらがどんなデタラメを言っても、自分を一途に慕ってくれる純真無垢なヒロインに私のハートは釘付けだ。ぞっこんLOVE!
「萌え」という気持ちを痛いほど理解した気がする。

攻略やCG補完のために基本ルートを外れた選択をわざとしても、実際の主人公は常に女性キャラがいそうな場所へと勝手に足を向けてくれる
このように、主人公には「自動補正機能」が付いており、プレイヤーを常に出会いと泥沼の渦中へと誘ってくれる。
そのときの気分によって流動的にヒロインを変えてしまいがちなプレイヤーを優しく導く、大変親切な仕掛け。
そして、まったく会話が通じ合わず、常にハイテンションでエキセントリックなキャラたちの行動に振り回されているはずなのに、自然に脳がエンドルフィンを分泌し始める。
な、何だろうこれ。やけに気持ちイイ!
これが今作の売りポイントその2である、「妙な気持ちよさを感じさせる不可思議なシナリオ」か。
実は肝心のエロシーンはあっさりめでしかも主人公は早漏気味。代わりに、ここでも自身の妄想力を最大限に稼働させることを余儀なくされる。
その、プレイヤーの自家発電スキルを余すところなく引き出すシナリオに、究極のインタラクティブ性を感じる。

次から次へと襲いかかる不幸には決して負けないけなげな主人公。
初恋、別れ、再会、交通事故、意識不明3ヵ月、まさかの回復だが記憶喪失が判明、しかしある日突然復活。
だがその喜びも束の間、(超ネタバレ!→)恋人とは実は異母兄妹であることが発覚、そして死別――と、韓流ドラマも真っ青なドラマティックさのメインルート。
そして、あどけなくもミステリアスな雰囲気を持つ動物的な少女のルートでは、お伽噺のようなファンタジックな気分を味わえる。
まさか彼女が、(超ネタバレ!→)かつて自分が子供時代に助けてやったの化身だったとは! 実に斬新で新しい物語に魅了されっぱなし。
主人公にいちいち突っかかってくる小生意気な少女は、今流行のツンデレと思わせておいて、(超ネタバレ!→)実は女装好きの少年でしかも不治の病という二重苦を背負っており、エロゲでありながらBL作品の世界も味わえる、1作で二度おいしい作り。
しかも、姉ブランドのディレクションもあったのかシナリオの完成度がハンパでなく、その感動具合たるや、地球上の水不足を一挙に解決できそうなほどに涙をしぼり取るレベル。
下手をすると、メインルートよりこちらにハマってしまいそうな人が多数現れる予感。
それに、脇役も侮れない。
何一つ建設的なことは言わない上にニートだが、常に悩みを抱える主人公の相談役を務める人情家の友人や、立派な社会人のはずなのにやることがいちいち幼くてあどけない子供のような上司。
皆、「自分はこいつらよりはマシだな」という白痴っぷりで、プレイヤーの優越感を心底満足させてくれる。

文章は実に破天荒。今まで、細かい文法にこだわっていた自分が馬鹿らしくなるほどに独創的である。
その、「感感俺俺」「頭痛が痛い」すらも突き抜けた言語センスは、もはや自分が旧人類であることを痛感させられる。
だが、上記のように常識を覆すレベルのシナリオには、これくらい突出したセンスがないとマッチしないのだろうと思う。
その点では、以降、この業界に亜流がはびこるのではないかと一抹の不安が。
この作風は、決して意図的に真似できるものではなく生来のもの。火傷を負うメーカーが増えないことを祈る。

以上、すべてにおいてユーザーに強烈なインパクトを与えた今作。
その示す数値は、当レビュー初のパーフェクトであり、私の歴史はここで塗り替えられた。
あまりの衝撃度合いに、現在欠品が続き再販が待たれているが、例えオークションで高値落札してでも入手して損はない一作。

最後に、この作品最大の謎とネタバレを。

作品タイトルの「menteur」、その示す意味は(超ネタバレ!→)「嘘つき」