続・殺戮のジャンゴ -地獄の賞金首-

シナリオ音楽演出システム総合評価オススメ度
84虚淵玄ファン:★★★★
普通の人:★★★

ゲームシナリオとしては4年ぶりとなる虚淵玄氏の新作。
全ニトロファンの期待を背負い、制作発表がなされたのが今年(07年)の3月。
そして提示されたジャンル、「SF+マカロニウエスタン」、しかも主人公は女。しかも悪女。
これは、ヤバイ。
極めつき・重度のニトロファンである私でさえそう思った。
SFもウエスタンも非常にマニア嗜好の強いジャンルだし、何より、主人公が男でないエロゲというのは、通常のプレイヤーには感情移入しにくい。
特に、脳天パーで精神年齢小学生以下な、目だけがやたらとデカくて、ブローくらいしろよとツッコミたくなるほど髪の毛の収まりが悪い美少女と、どーでもいい日常をダラダラ過ごすのがエロゲーと勘違いしてる輩にとっては。
こりゃたぶん売れないだろうな。私は買うけど。
そう覚悟を決めた今年の春。

案の定、「ニトロ史上、最悪の予約率」(クリア後に見れるライナーノーツより)だったらしく。
うわー、業界のユーザー層ってのは分かりやすいもんだな、と思わず苦笑したものだ。
だが、あえて言おう。

虚淵玄は天才だと。

私が購入したのは「皆殺しパック」(定価9,240円 公式通販割引で8,180円)だったのだが、正直、このコストパフォーマンスの悪さはありえない。
総プレイ時間、5時間。1時間あたりの単価、1,636円。映画より高いよ。
それでもあえて言おう。

虚淵ファンならプレイ必至だと。

もうね、全編匂いまくりなのです。虚淵節が。
悪業に悪びれない。悪党であることに何の気負いもない。
「腹が減ったら奪えばいい。ムカつく野郎は殺ればいい」で、「ないモンは、ある所からかっぱらってくればいいんだよ」(いずれも作品本文より引用)という、実に分かりやすいキャラたちの人生哲学。
ゲーム序盤から、徒党を組んでいた仲間がバッタバッタと撃ち殺されます。そこには何の悲哀もなく、ただ事実があるだけ。
人間が死ぬことに関して、ウザったい逡巡も、殴りつけたくなる堂々巡りも一切なし。殺すか、殺されるかのみ。
殺られたら殺りかえせ。犯られたら犯りかえせ。盗られたら盗りかえせ。
この殺伐とした、けれどシンプルであっけらかんとした世界観を、実に魅力的に、何も考えることなく、ただ純粋に楽しませてくれる
こんな芸当、虚淵玄以外に誰ができるか。

絵はメーカーから独立し、フリーとなったお馴染みNiθ氏。
肉体の描写やキャラの描き分け、人外キャラにも定評がある氏だが、今作のコンセプトには、特にベストマッチ。
悪女は皆ムチムチのボイーン、衣装はこれでもかとボディラインを強調し、相変わらずのにし~皺も健在。扇情的なことこの上ない。
男キャラの筋肉っぷりもナイス。一歩間違えばクリーチャーになりかねない亜人(馬頭とか豚頭とか獅子頭とか触手とか)のキャラデザも相当奮っている。
グラフィックチームの仕事はもう言うに及ばずで、完璧。
ただ、モブシーンが32ビット機のポリゴンみたいなどうでもいいキャラだったのはちょっと減点。
たぶん、「わざとらしいB級くささ」を出すための演出だというのは理解できるが、どうしても安っぽさが否めない。
せっかく高レベルのグラフィッカーを多数要しているのだから、モブくらい描いてもいいのではと思ってしまう。
それ以外では、武器や蒸気機関車、建物等、お得意の3Dとの融合もバッチリ。世界観に華を添えている。

演出はもうハンパでないくらいよく動く。
動きすぎて、スペックの低いマシンだとおそらく相当つらいことになると思われる。
作中、銃撃戦になる箇所では、マウス連打(実は押しっぱなしでもOK)によって、3Dグラフィックで描かれた建物内を探索することになるのだが、これなど、ロースペックマシンだと下手すりゃフリーズする危険性大なのでは。
とにかく、砂埃が舞い上がったり、拡大縮小したりと、動きのないシーンの方が少ないんじゃないかと思えるくらいだ。
ド派手な演出が、このどこまでもB級くさい(※褒め言葉)世界観を大いに盛り上げていると思う。

システムは毎度同じのニトロ仕様。
相変わらず、過不足はないのだが、今一つ使いづらい。
ロード時に若干間があるし、起動時に毎回ディスクを要するのも手間だ。初回起動時だけにならないものか。
今作は短かったからいいものの、長時間プレイを強いられる作品では、もはやこのレベルのシステムでは我慢しがたいと思う。
次作までに切なる改善を望む。

音楽担当も毎度のZIZZ。
しかしこの集団、実に幅が広い。
またもや、こんな特異な舞台設定をしてくるニトロに、しっかりと合ったものを用意してくる。
また、主題歌を担当するワタナベカズヒロ氏の声と、西部劇の曲調とが絶妙にマッチ。
劇中の、いとうかなこ氏が歌うカントリー風の歌も素晴らしい。
ことニトロに関しては、音楽の失敗というのは考え難いかも。

さて、虚淵玄ですよ、お客さん。
鬼哭街沙耶の唄白貌の伝道師Fate-Zeroと、「どシリアス救いなしエンド」ロードを爆進してきた氏だが、こんな作品も書けるんだと、その器用さには舌を巻かずにはいられない。
たかだか総プレイ5~6時間の間に、状況はめまぐるしく変化し、さっきの敵は今の友、とも言うべき凄まじい立ち位置の変化が何度も訪れる。
今の今まで殺し合いをしていた相手と、次の瞬間には共闘するのだから、その変化がスリリングで目が離せない。
逆を返せば、すぐにでも寝首をかかれるということもあるわけだから、キャラたちの腹の読み合いにドキドキしっぱなし。
復讐と裏切りはマカロニウエスタンの醍醐味であるから、当然の展開ではあるのだが、その忠実な再現っぷりがもう楽しくて思わずニヤニヤしてしまう。

いつもの、無駄を省いた硬質の文体ながら、今までにはなかった下品なギャグや、絶妙なバカさ加減、苦手と言われていたエロシーンをあえて笑いに転化してしまう手法も面白い。
バッドエンド後に示される、「ガンマン十戒」などのシャレも気が利いていて非常に笑える。(しかもちゃんと10個ある)
かと思えば、もちろん震えるほどに格好いい燃える話も用意されており、もはやこのライターには死角はないのかと思ってしまう。
強盗にレイプ、大量殺人に騙し合い、そんな悪行のオンパレードだが、どれもこれもうまい具合に陰湿さを取っ払ってあり、それを魅力的に、とっておきのフィクションとして昇華しているので、罪悪感や不快感といったものがない。
実に良質のピカレスク・ロマンであり、娯楽作品としてこれ以上の評価があるだろうか。

電子機器の使用ができず、レトロな銃器に頼るしかない舞台設定に、思いっきりSFな設定を盛り込んでいるのだが、それに関してこの先どうなるのか、そして、銀河連盟や軍部との関係はどう転がっていくのか、もうこの続きはないのだと分かっていても、夢想せずにはいられない。
ただ、革命物やマカロニウエスタンのスタイルを踏襲するならば、この先に待ち受けるのは決してハッピーエンドではないことだけは分かっているのが、虚淵玄の意地の悪いところ。
考えれば考えるほど、いつも通りの救いなしラストに突入してしまうことはもはや明白(※1)なのだが、そこをあえて描かず、すっきりと爽やかなエンドに見せかけているあたりが巧妙で、ほくそ笑んでしまう。
(※1:なぜかと思う人は、(ネタバレ危険→)スイートウォーターにはレアメタルが眠っていること、銀河連盟に属する財団はその存在を知っていること、軍の上層部もそれを知っていると思われることを考えると明白。
採掘するにはプロトゾアンを滅しなければならないが、もしプロトゾアンと戦えば、地表生物は生存不可のダメージを食らうだろうということは作中明言されている。
ついでに、プロトゾアンと共存しようとする革命軍の命など、おそらくレアメタルより軽いと思われるので、銀河連盟が電子機器を持って介入してくれば革命軍の壊滅は必至

正直言って、あまりにもコストパフォーマンスが悪すぎ、そしてあまりにもネタが特異すぎるので、とても一般エロゲーマーにはお勧めできかねる。
普通のニトロファンにすら勧めづらいくらいだ。
これはもう、筋金入りの虚淵ファン、もしくはこの全編に漂うB級くささにトキメキを覚える、お脳をやられてそうな人向け。
私はもう大好きです。こういうのを平気で出してきちゃったりするのがニトロのニトロたる所以。
例え売れなかろうが、好きなことを好きなようにやっちゃえるのがこの業界のいいところだよ。
利益は他の作品で出せばいい、という大手メーカーならではの体力と自信、それでも作品の作り込みはきっちりとする姿勢に漢を見た。

「さすがニトロ! 他のメーカーができないことを平然とやってのけるッ! そこに痺れる憧れるゥ!」

この精神を失わない限り、私は買い続けます。たぶん。

月光のカルネヴァーレ

シナリオ音楽演出システム総合評価オススメ度
80★★★

購入後、半年以上放置してからようやくプレイ。
それほどまで、ここ最近のニトロ作品には、「是が非でもやりたい」と思わせる力が欠けていたわけですが。
もたもたしていたら「ジャンゴ」が発売してしまい、いくら何でもこれはまずいと焦ってプレイ開始。
で、蓋を開けてみたら、意外や意外、きちんと面白かった。良作とまではないけれど、力作。
むしろ、万事に及第点すぎて、いつもの、
「さすがニトロ! 他のメーカーができないことを平然とやってのけるッ! そこに痺れる憧れるゥ!」
という荒唐無稽さはないものの。
むしろ、ニトロ初心者に勧められるような、ブランドのカラーをきっちりと踏襲した作品であると思う。

絵・音楽・演出は、毎度のことながらどれも実にそつのない作り。
ビジュアル面は、異国情緒溢れる背景と可憐な女性キャラ、渋くて猛々しい男性キャラ、CGと、それぞれが非常にハイレベルな融合を遂げていて、特に彩色は素晴らしく、光の表現がものすごく美しかった。
また、武器や不気味な人形のCGも奮っており、専門の3Dチームの力を存分に発揮している。
枚数自体は物語の尺のわりに若干少なめかとも思うが、それぞれの質が相当のものであるので、特に不満は感じなかった。

ただ、演出に関しては、同時期に開発していたはずの「Lamento」がバリバリに動きのあるものであったため、今作もそうであろうと思っていたら、ごく正統的なAVGスタイルだったのには拍子抜け。
ライターの文章力が高いのならそれでも力押しでどうにかなるだろうが、もはや動的演出の強化は業界の標準だ。
決して全体的に下手というわけではないが、戦闘シーンでは特に間延びした印象が強いため、できればこれを動きで補ってほしかった。

音声は、もはややりすぎだ。
ニトロ作品に出演する声優陣に慣れてしまうと、自分内デフォルト値が上がってしまう恐れがある。
それほどハイレベルなベテラン声優を、とんでもねー役でゴリゴリ起用しちゃってます。よろしよろし。
他も、キャスティングの妙を感じさせる実に巧みな選出で、物語を大いに盛り上げていると思う。
中の人スキーなら、それだけで買っても損はしないかもしれない。全キャラにわたって、かなりセリフが多いので。
あと、保村氏のキレキャラの巧さと、ダヴィデのイッちゃってる演技は異常。
保村氏、「あやかしびと」みたいな影の薄い主人公より、こっちの方が断然合ってるし光ってるよ。
(そういや、「あやかしびと」でもブラック主人公の方が格段に良かった)

音楽はいつものZIZZ。
主題歌は上野洋子氏。てっきり、お馴染みのいとうかなこ氏かワタナベカズヒロ氏がやるもんだとばかり思っていたので思わずビックリ。しかもビッグネームだし。
が、これが大正解。元々、半音移行のコード進行を多用し、エキセントリックで幻想的な曲調を得意とする上野氏と、この世界観とがしっくりくる。
もちろん、エンディングを手がける上記二氏と、挿入歌の小野正利氏のそれぞれの個性に合った歌も素晴らしい。
ただ、今回BGMで一部違和感のあるものが。
BGM自体の質ではなく、Hシーンに日常生活のBGMを持ってきたり、使用箇所に問題があったと思う。
いつもの圧倒的な曲数と選曲センスを誇るニトロらしくない。

システムはいつものニトロ仕様だが、さすがにそろそろ改良の余地があるかも。
一度に見れるバックログがやけに少なかったり、戻るのにわざわざマウスを動かしてEXITを押さなければいけなかったり。
右クリック解除くらいは、別に難しい制御でもなんでもないのでは。
それに、右クリックを押してからメニューが表示されるまで微妙な間があり、とにかくもっさりしている。
何にリソースを使っているのか素人には分からないが、エロゲの世界も日進月歩。
根本的な足回りを見直さなければ、このままでは他メーカーにどんどん水を開けられていくだけだと思う。

さて、「思ったよりは」ずっと面白いし、筋立ても真っ当だったシナリオ。
ニトロお得意の、人と人外と武器とが入り乱れ、複数の思惑が錯綜する群像劇だ。
どの陣営も、目的と立ち位置がはっきりと書かれており、それがブレたり説明不足だったりすることはないので、ストーリーは非常に追いやすい
また、エピソードもバランス良く割り振られてあって、どれかに偏るということもなく、かなり練り込まれていると感じた。
多数のキャラが登場するが、それぞれが作中できちんと役割を果たし、群像劇にありがちな、「このキャラいらない」といった蛇足感もないので、以上の点では極めて優秀な作品であると言える。
むしろ、一番いらないのは主人公だ

こいつたぶん、ニトロの歴代主人公中、最高のヘタレ。
かつてオルマ・ロッサというマフィア組織内で、冷静沈着で最強の暗殺者だったという謳い文句のわりには、さほど強さも感じないし、何をするにもはっきりしない。
恋人を失い、親友に裏切られ、自暴自棄になっているからという設定を差し引いても、物語の主人公はこれじゃダメだ。
少なくとも、ニトロのような、ユーザーが「燃え」を大いに期待するメーカーである以上は。
ストーリーの途中でどん底に落ちるような展開があり、一時的にヘタレになるのはいい。それは演出のうちだ。
だがコイツ、やることなすこと中途半端で、ホントにヒロインたちに惹かれているのかすら疑問に感じるほど感情の起伏にも乏しく、お世辞にもプレイヤーが「格好いい」とは思えないキャラなのだ。

それなのに、やたらと戦闘シーンが多いシナリオ。
その戦い方のパターンも決まりきっており、「銀器を出され大ピンチ→力押し→味方の助けが入るor辛勝」の繰り返しのため、バトルの爽快感は乏しく、むしろ、冗長に感じてしまう。
いっそのこと、要所要所でのボスクラスのキャラとだけの戦闘にした方が、全体的には引き締まったのではないかと思う。
この悪しき戦闘シーンのおかげで、作品全体がスピード感に欠け、おかげで物語に緊迫感がない。
シナリオ自体はかなりよくできた部類で、先を読ませる力もあるのだが、どうも間延びした印象が拭えないのだ。

また、脇を固める男キャラが、皆非常に魅力的なのに対し、肝心の女性キャラは、アンナ以外、今一つ。
この辺の伝統もニトロだから、と言ってしまえば身も蓋もないのだが、どれもこれも決して悪くないキャラ立てのため、あまりにも惜しすぎる。
ルナリアとかレベッカとか、すわ、殺し愛か! と色めき立ってみれば、どれもそこまで突き抜けるでもなく、中途半端なエンドを迎えてしまう。
違うだろ! そこはもっと病まなきゃダメなんだよ!(私は危ない人間ではありません)
殺し愛なら、妹ブランドのメインライター、淵井鏑氏に聞いてこい。氏の殺し愛展開は神レベルだ。
(マジで。この人、絶対私の妄想を具現化してるに違いないってほどツボをついてくる魔人)

今作でのエンディングの順位としては、アンナハッピー>ノエルノーマル>>>越えられない壁>>>ルナリア=レベッカ。
特にルナリアの扱いはもう残念の一言。これはいくら何でもありえない。
本来なら、外見も中身も、間違いなく人気沸騰、話題騒然、業界を席巻することすらできたかもしれないのに。
それが、「ルナリア? ……ああ、かわいいよね」レベルで終わらせてしまうとはどういうことだ。
どうせ壊れるのなら、完膚無きまでに壊れなきゃダメなのよ。病むなら頭がおかしくなるくらい病まなきゃダメなのよ。
(ネタバレ危険!→)シリンダが欠け、記憶を失うエンドはともかく、他の姉妹と一緒にドサ回りをするエンドのどこに幸せを見出せと?
しかもこっちがハッピーエンドだろう。ああ、もったいない、もったいない。
もっと、世界に二人きり、互いが互いしか見ておらず、そしてそれは絶対的な主従というエンドは作れなかったのか。
そもそもこの作品は、人狼と、それを殺すための人形との恋愛物なのだ。
もっとヒリヒリするような殺愛、心かきむしる葛藤を見たいと思って何が悪い。いやそれこそがユーザーの本望。
(私は決して危ない人間ではありません)

それに、全体的にエピソードの扱いが綺麗すぎた。
もっと血みどろ、もっとドロドロ、もっと情念を。
ノエルやレベッカが捉えられたら陵辱を受けて当然だし、ピウスのような非人間的な主人の元では、人形たちだってもっと苛酷な扱いを受けているはず。
ルナリアがダヴィデを毛嫌いする理由も、具体的に陰惨なエピソードを用いれば、後にその呪縛から解放された際のカタルシスをもっと味わえたかもしれないのに。

以上がシナリオで残念だった点。
挙げすぎだと思われるかもしれないが、むしろ、これしかないのだと好意的に見てほしい。
だって、それ以外はほぼ合格点だったんだもの。

とにかく、多数のキャラが絡み合う構図を、プレイヤーが混乱することなく把握できるよう、きっちりと説明しきった力量は確かなものだし、世界観は実に魅力的。
ルートごとにまったく別の展開を用意してあり、キャラのエンディングが全然被らないのも高評価。
エンディング自体も、ご都合主義が薄く、どれも手放しで喜べるようなハッピーではなく、切ないエンドが多いのも高評価。
何と言っても、セリフ回しがかなりこなれていて、ダラダラとつまらないギャグを垂れ流すエロゲが多い中、会話シーンはかなり楽しめた。
特にカルメロ。麻薬中毒のイッちゃってるキャラだが、そのアッパーなセリフの数々ときたら、戦闘シーンで退屈してしまったプレイヤーのやる気を再び起こさせるに充分。(重ねて言うが、保村氏は最高の演技だった)
ジェルマーノとアンナのやりとりも微笑ましく、ペルラの性格破綻者ぶりには戦慄。
そういった、キャラの立たせ方には非常に長けていて、また、ルートによって立ち位置が変わり、多彩な面を見せてくれるのだから、何だかんだ言いつつも、すっかりこのシナリオに魅了はされていたのですよ。
特に男キャラの漢っぷりの良さはさすがのニトロ節であり、これで主人公がもっと格好良ければ、手放しで良作と言えたのに、と返す返すも残念でならない。

全体的に、そつなく、小ぎれいにまとまっている。クラスに一人はいる良い子の典型的見本だ。
往年のニトロの破天荒さこそないものの、実に手堅く、大抵の人は楽しめる作り。
特に、伝奇物はやってみたいけど、あまりにエロがキツかったり、描写がどぎついのは嫌、という人には勧めやすい作品だと思う。
女性でも取っつきやすいエロゲの一つかもしれない。

ここのところずっと下降線だったニトロの、起死回生とまではいかないが、上昇に向けての足がかりになりうる作品。
ただ、ニトロ以外のメーカーだったら大成功に入るのだが、ニトロの魅力は、何と言ってもその突き抜けたパワーと、血がたぎり、圧倒的に燃えたつ戦闘シーンにある。
次作こそは、燃える主人公が、刀振り回したり、銃ぶっ放したり、車で追いつ追われつしたり、死んだり死なせたりする作品をやりたいです。

Forest

シナリオ音楽演出システム総合評価オススメ度
87覚悟があるなら
★★★★

名作、「腐り姫」の製作スタッフによるライアーソフト第11弾。
私にとっての「腐り姫」は、マイベストエロゲートップ5に入るほどに文句なしの名作だったため、今作も発表当時から気にはなっていたが、あまりにも遊び手を選ぶという評に二の足を踏んだのと、他の膨大な積みゲーを片付けるのに忙しく、しばらく放ったらかしになっていた。
ところが、「いいからやれ」「とにかくやれ」「すぐやれ」という意見が非常に多く、それほど望まれるならと覚悟を決めたとたん、ちょうどメーカーサイトでのダウンロード販売が開始に。
こういうのも悪魔の導きと申せましょうか。

さて、もうどこのレビューサイトでも言及されていることだが、あえて言います。
この作品、ありえないほどに受け手を選びます。合う人にとってはべらぼうに琴線に触れる作風なのだが、合わない人は5分でリタイアする可能性大。
それほどまでに冒頭から不条理でナンセンスな展開。もちろんプレイヤーに対するフォローというものは一切なし。
むしろ、「ついてこれないならこなくていいよ」という、エンターテインメントにあるまじき傲岸不遜ささえ感じさせる。
だが、その気位の高さがある種の様式美を生んでもいて、それが心地良いとすら思える。
正直、エロゲとしてはまったくと言っていいほど実用性に欠けるが、それでもこのフィールドじゃないと出てこなかったであろう作品。

システムはおおむね良好。かつて、初版に修正ディスクを同梱するという離れ業さえやってのけたライアーとは思えないほどバグもなく、各機能もスムーズ。
2年前の作品のためか、ホイールでのバックログ閲覧に対応していないのが少々気になったが、それくらいか。

絵は非常にクセがある。シナリオ同様、かなり好き嫌いが別れる作風。
ただ、現実世界を浸食して突如現れる「森」や、妖精や異形の生物がこれでもかと登場するシュールな世界観の今作では、この一風変わったデザインや色彩などが、作品を構成する上でかなり重要な要素となっていると思う。
私自身はちょっと子供くさすぎてあまり好きな絵柄ではないのだが、この作品にはこの絵でなくては、とも思う。
特に登場人物たちの衣装は、まさに舞台衣装とも言うべき奇抜さなのだが、これが実に作品とマッチしている。
また、頻出する人外のキャラクターたちにはテクスチャー処理が施されており、奇をてらったデザインやリアルさを持ち込むより、ずっと気が利いていてなおかつ高い効果を上げている。
背景は写真取り込みだが、現実のものなのに奇妙に現実感を喪失した雰囲気が出ていて面白い。

音楽はもう本当に素晴らしい。「腐り姫」のときも思ったが、このレベルはハンパでない。
中途半端なボーカル曲などは使用せず、コミカルからシリアスまで、作品世界へのマッチングを徹底的に意識した仕事が、この強烈な世界を彩る重要な要素の一つとなっている。
耳触り良く、作品を盛り上げて邪魔をせず、かといって忘れてしまうような印象の薄さではなく。
BGMというかなり限定された制約を受け、しかもどんな既存作品とも違う独自の世界観を持つ作品に対し、こうまで質の高い楽曲を制作した音屋さんたちの仕事にプライドを感じる。

キャスティングも非常に巧い。始めはどのキャラも何だか大仰でわざとらしい演技だと思っていたのだが、実はそれが演出だということに気付いてからは、どんどんキャラクターが生き生きしてくる。
そこにはミスマッチということがまったくなく、特にキャラの二面性の表現が図抜けている。
普通の作品で求められる自然さとかかわいらしさの他に、特殊な節回しや演劇のような演技を求められる作品であるだけに、収録時の苦労は並大抵でなかったに違いない。

その音声を実に効果的に利用した演出も光った。
セリフの一部はメッセージボックス内にテキストが表示されない。だが暗転した画面のバックで流れるセリフは実に印象的
で、否が応にもプレイヤーの想像力をかき立てる。
実は最初、いきなり画面が黒くなったので「もしやバグか!?」と疑った。ライアーさんごめんなさい。でも過去の所業が悪いと思うの。
主人公のセリフがテキストが表示されるのを待って会話相手の音声が再生され、あたかも主人公(プレイヤー)とキャラが
リアルに会話しているかのような仕掛けもある。
この場合も会話相手のテキストが表示されないので、またまた「バグか!?」と疑った。ライアーさんごめんなさい。
でも以下略。

さて、プレイヤーの間では思いっきり見事に賛否両論が別れるシナリオ。
あらかじめ言っておくと、今回はシナリオの中身については大して言及していない。否、できない。
だって、やってみなければ分からない仕様、説明のしようがない作りになってるんだから仕方がない。
なので今回は、主に作品構成についての考察となるのでご了承を。

かつて、こんなにエロゲとして用を成さないのに、エロゲのフィールドを必要とする作品ってあっただろうか。
いわゆるエロゲのマーケットというのは、コンシューマーに比べたら実に狭小ではあるけれど、その代わり手堅いペイが見
込める場でもある。
さらに、プレイヤーは18歳以上であるという事実を約束されている。
つまり、プレイヤーがある程度の知識と思考力を備えているということを前提にできるわけで、余計な説明もお子様に対するフォローもいらない、その分、作品世界を練ることができるフィールドということだ。
そうして編み上げられたのが、類がないほどに実験的なこの作品。
この限られたフィールドの、限られたプレイヤーをさらにふるいにかけるような好戦的な姿勢。
その気の強さと挑発とに思わずニヤついてしまう。
クリエイターはこれくらい自分の世界を信じていなければいけない。自身の世界にすらぐらつきを覚えているようでは、たかがエロゲオタ一人も騙せるものか。

冒頭にも書いたが、この作品にはプレイヤーが知らないことを説明してくれる親切さは皆無、むしろ「知らないお前が悪い」
と言い切ってしまうような高慢ささえ漂う。
だがその突き放しを「まことにごもっとも。私が悪うございます」と認めざるをえないほど、奇妙な説得力と有無を言わせぬ緊張感、そしてプレイヤーの足元を危うくする酩酊感に満ちている。
雑多なジャンルから様々な、特にイギリス児童文学の分野からは有名無名問わずこれでもかとネタを盛り込んであり、その
姿はさながらカオスのワンダーランド。
ともすれば衒学的で鼻につくとされてしまいがちなそれを、作品全体に漂う適度な胡散臭さやいい加減さ(※どちらも褒め
言葉です)がうまい具合に和らげていて、ただただ作品に翻弄され、踊らされるのが楽しい。
明らかに虚構だと分かっていて、なおかつそれを真剣に楽しむというファンタジーやおとぎ話のある種シニカルな作法を十二分に知り尽くし、それを手玉に取ってみせたライターの力量に脱帽。

今作では、作中のキャラが「自分が誰かの物語に内包されるキャラクター」であるということに気付くメタ構造が発生する。
下手なライターが書くとわけが分からなくなる上、反則を犯された気分になってげんなりしてしまう危うい手法(だが昨今やけに流行している)だが、それが実に違和感なく行われている。
自然にその展開へと誘導していく構成も見事なら、「何が起こっても不思議ではない」ナンセンスな世界観をプレイヤーに納得させるテクニックも見事。
それを可能たらしめているのが、実に読みやすく分かりやすい、洗練されたテキスト。
ときにリズミカルな韻を踏んだり、言葉遊びを仕掛けたり、緩急の差も絶妙でテンポよく読み進められる。
本当に力のあるライターというのは、どんな猥雑な言葉を使っても、下世話なエピソードを書いても、決して作品自体が下品にはならないのだよ。
その辺の二流三流ライターは、売れている作品の上辺の世界観だけ真似るんじゃなくて、こういう基礎力をもっと見習え。

星空めてお氏の作品には品がある。エロゲに品とか持ち出すなと言われればそれまでだが、自身が構築した世界観に
対するプライドと、たとえ業界の流れを無視してでもこの作品を作り上げるという気概。
それに絵と音楽が見事に融合し、かつてない独自の世界へと到達したと思う。
その姿は、ある種クリエイターにとって理想の形だ。私が知る限り、業界での評判はやけに高かったのを覚えている。
会社組織である以上、ペイしなければいけないのが第一だが、あえて危険を冒してでもこの作品を作り上げたことの意味。
萌え、燃え、泣きといった通り一遍のカテゴライズに当てはまらず、荒野を切り開いてそこに立とうとする姿勢。
会社として(いい意味で)暴挙に出たとしか思えない行為だが、想像力を売り物にする商売、これくらいできないでどうする
という最高の見本。

私はもう大好きです。面白い面白くないというレベルを超えて、正直震えました。
たかだかCD二枚の作品が、DVD数枚組という馬鹿みたいなボリュームの作品をいともたやすく組み伏せる、その圧倒的
な力量差を見せつけてもらったから。
クリエイターを目指す人、シナリオ重視派だが最近はどうもなぁとエロゲに食傷気味の方はぜひ。