群青の空を越えて

シナリオ音楽演出システム総合評価オススメ度
81萌えは無用の方に
★★★★

きっかけは、発売前に公式サイトに掲載されていた制作ウラ話。(今も読めます)

「バカヤロウ、萌えゲーなんかに負けるかよ。ユーザーが萌えるのは正当な楽しみ方だけど、クリエーターが萌えに頼るようになったら単なる無能者の手抜きなんだよ」

いい加減、萌え先導の業界の風潮に倦んでいたところにこの言葉。そんな気炎を上げるクリエイターが、まだいることがすごくうれしくなり、応援も兼ねて勇んで特攻。

ジャンルは「本格未来架空航空戦記ADV」。作者の言葉には「グリペン」を使った話が書きたかった、とあるが、空中でのドッグファイトや戦術的な展開よりも、むしろ戦争という現実に翻弄される人間たちの群像劇がメイン。
作者はかなりの航空機マニアのようだし、ドッグファイトがメインなのかな、と思っていたので、いざプレイしてみたらいささか拍子抜けしたのも確か。
これでも「エリア88」に燃えた世代ですんで。
その代わり、戦略・権謀術数要素はてんこ盛り。目に見えるドンパチよりずっとシリアスで重く、「戦争」、しかも「負け戦」であることを忘れないシビアな展開は、派手さには欠けるが、ずっと心に重くのしかかってくる。
実際、政治・経済問題を多く盛り込み、それをある程度は理解しておかないと面白さが3分の1くらいは減少してしまう困った作りなので、取っつきはかなり悪い
気軽に楽しく浮世の憂さを忘れたいという人には全然向きません。そういうお手軽作品が多く求められ、市場に溢れているこのフィールドにおいて、実に異彩を放つ方向性、はっきり言ってたまりません
第一、負けることがほとんど確定しているんだもの。勝利のカタルシスなんてへったくれもありゃしないのです。
そんなわけで、覚悟を決めた人のみがトライすればよろしいかと思います。

絵は可もなく不可もなく。シリアスな物語にふさわしく、突拍子もないデザインもなく比較的安定しているのだが、テキストとCGで齟齬が生じるケースが多い。
立ち絵では普段着を着ていたはずなのに、同時間上のイベントCGでは制服姿になってたり、文中では長袖のはずがCGでは半袖だったり。
些細な点であるのは承知しているが、一度気になりだすと、とにかく目についてしょうがない。
もう少し、擦り合わせに気を使ってほしかった。
また、物語の尺のわりにはイベントCGが少なめ。私の感覚がズレているのかもしれんが、ここはCGだろう、というところもトランジションでごまかされてしまったり、量的にはあまり満足できなかった。
EDのスタッフロール上で、まだ見ていないルートのネタバレCGが表示されてしまうのも困りもの。
ちゃんと制限かけてください。

売りであるのかは分からんが、場面場面で挿入される飛行シーンのムービーなども、地味だし今ひとつの出来。
ひょっとしたらすごくリアルな動きとか、こだわって作られたものなのかもしれないが、残念ながら当方、航空機に関しては素人で違いがよく分からないし、挿入どころのタイミングも絶妙とは言い難い。
この辺の、細かい演出が平たく言えば「ダサい」のであり、業界では最近、演出にはめざましいものを感じる作品が多いだけに、余計に野暮ったい印象を受けてしまった。

この点は音楽も同様で、このシーンでその曲使うかぁ? というポイントのズレが耳につく。
こういう感想は、本当に個人個人の感性によるものなので、あくまで私見であるが。
ただ、やはりあまり主張しない曲が多く、進行の妨げにこそならないが、盛り上がりには欠ける。
OP・EDは出来が良いのだが、作中でのBGMは曲のバリエーションも少なく、いつも同じ音楽がかかっているような印象を受ける。
せっかくのゲームという媒体、もう少し絵と音が生み出す力、その効果を信じて力を入れてみてもよかったのでは。

対して、フルボイスであるのは大成功と言って差し支えない出来であり、声優陣はかなりの熱演。
あちらこちらで名前を見かける実力派が多く参加しているだけあって、その演技には隙がなく、ミスキャストもないので、いつもはボイスすっ飛ばし派の私も、ついつい聞き入ってしまった。
(おかげでクリア予定時間が大幅に延びた)
普通のゲームやアニメなら登場しないであろう難解な用語が頻出し、おまけに航空用語は英語だし、収録は並大抵の苦労ではなかったに違いない。プロって素晴らしい。
しかし、一部シナリオにもネタとして登場するが、BL系で大人気のあんな人やこんな人を盛り込んで、いったい何をやらす気ですか! モニタ前で吹くかと思ったよ。

システムは普通。ただし、グラボの相性が悪いと悲惨らしいので、パッチを忘れずに。
私も最初、メニューが表示されないという珍現象が起き、このゲームはどうやってスタートするのか? としばらく悩んだ。
実装している機能には過不足なく、各種回想モード、ホイールバックログ・音声再生にも対応しているのだが、どうもいまいちレスポンスが悪く、半テンポ遅れるような気が。(推奨スペックは余裕で凌駕してます)
ボリュームがあり、シナリオに集中したい作品なので、足回りは軽快であってほしい。
また、見せ場と思しき特殊なイベント下では、セリフの表示スピードが支配されてしまうのも難。
ここぞ、と意気込む気持ちは分かるのだが、ユーザーとしては自分のペースを乱されるほうが癪に障る。
むしろ、別の演出によってユーザーの目を釘付けにするべきなのでは。

以上のように、全体的にどうもパッとせず、いまひとつな凡作なのかと思いきや、困ったことに(?)シナリオが全然いまひとつではないんですわ。

さすがに言うだけのことはある。「萌え」をまるで排除し、あくまでも物語の力で勝負しようとした姿勢は潔い。
これだけ各メディアの発達が著しい中で、未だにペンの力を信じたその方法は、愚直なまでに真正面からの挑戦。
大軍の中に一騎突っ込むようなもの。

たった一人の学者の学説とアジテーションが、様々な利権と絡んで、やがて日本分裂と戦争に発展する、という設定は、かなりのトンデモであることは確かなのだが、それを足場とした物語が、疑問を許さぬ勢いで大真面目に展開するもんだから、何だかいつの間にか押し切られてしまうのも確か。
「主人公がグリペンに乗る物語を書きたかった」と製作者自らが語るように、そのためだけにこれだけの大風呂敷を広げたのはいっそ見事でもある。
美辞麗句で愛を語るゲームは数あれど、「女が一番じゃない」と断言してのけるエロゲーは初めてです。
でもちゃんとエロいんだな、これが。

一つの事象を多角的な視点で捉え、それをザッピングというシステムに無理なく置き換えた手法はナイス。
複数の視点が入り乱れることによる混乱を避けるために、メッセージウインドウにキャラチップを表示させたのも気が利いている。
最終ルートではそれまで敵だった側の視点で物語が語られ、単純な二元論に陥るのを防いでいるし、テーマに向き合おうとする姿勢は、とても単なるゲームの一作品とは思えないほど真摯だ。
異世界を舞台にするのではなく、あくまでも日本と諸外国、という身近な場所を設定した勇気も評価。
誰しもが知り尽くした世界の上に、新たな設定を敷くのは並大抵の苦労ではない。
荒唐無稽すぎるからこそ、フィクションとして楽しめるという側面もある。
じゃないと、生々しくてやってられないだろう。

そこでは、人が当然のように死んでいく。すぐ前の場面では重要な役を担っていたキャラですら、次の場面では、ただ「○○が死んだ」とだけ表示され、淡々とした死を余儀なくされるそれは、あまりにもあっけなさすぎて怖い。
だが、そうまでして失いつくし、あがきつくしても、いずれのルートでも待ち受けるのは敗戦(停戦)というのが、このシナリオのすごいところだろうか。

私は、あえてこういう手法にしたことを評価したいと思う。
どんなに誰が泣き叫んでも、残酷な事実は覆しようがない容赦の無さも好きだ。
今まで、多数のパイロットを死地に送り込んできた管制官である若菜が、自分の死に向き合ったとき、決して自分を特別扱いせずに毅然とその事実を受け止める厳しさと強さ。
そういったものが詰め込まれた今作、ゲームとして作りの甘いところは多々あれど、普通のエロゲにはないものを多々持っていることもまた確かであり、それはとても大切なものだと思う。

ラスト、作中に何度も問いかけられた命題を再度提示されて物語は閉じられる。
「自分たちはなぜ戦ってきたのか」、と。
そこに明確な結末を与えなかったのは、プレイヤーそれぞれに想像の余地を残すための手法であるが、あえて言うならば、指揮官すらも傷つき倒れ、防衛線がズタズタになっているであろう激しい戦いの最中、という状況が、決してこの先に待っているのが楽天的で明るい未来、もしくは劇的な状況の好転ではないだろうことは想像に難くない。
どこまでもシビアで容赦のない演出。奇跡などは起こらない。すべては現実に起因し、質量で劣れば負けるし、個々人がどんなに努力してあがいても、より大きな国情や経済の絡んだ思惑からは逃れられない。
その、決して日和見をしない、作品に対する揺るぎない姿勢は賞賛に値する。
もちろん、読み手によっては、すべてが丸く収まったわーいハッピーと夢想することも可能だ。
(作品の本質を理解していないような気はするが)

パイロットとして死ぬことにしか意味を見出せなかった主人公が、その拠りどころである飛行機乗りという手段を奪われる最終ルート。
飛べなくなって、空という逃げ場を失って、そこで初めて真実に辿り着く。
優しい皮肉に満ちた展開は、その代償に得たものを丹念に綴ることで、それは必要だったのだ、と気付かせてくれる。
この作品が、「萌え」(=ある程度の予定できるセールス数)を捨てて得たものがあったように。

やりたいことを好きなようにやる姿勢というのは、簡単なようでいて、それを貫くことはひどく難しい。
なんせ、商業作品である以上、ペイしなきゃ会社が潰れる。同人のように自分一人が泥をかぶればいいわけではなく、社員の家族にまで責任があるわけだから、あまり軽々しい真似はできない。
そして、たいていの場合、製作者が希望する形と、ユーザーの望む形というのは乖離しがちなものだ。
だから、安易な「萌え」に走らず、重厚なドラマを展開しようとした製作サイドの姿勢と、ユーザーの反応が好意的評価として一致した本作は、とても幸運なのだと思う。
もちろん、本作をプレイした人間なら、それがただの偶然やラッキーで生まれたのでないことは重々承知の上だ。
二年もの歳月を費やしたというシナリオは、完成に至るまでどれほどの推敲を重ねただろうか。
その膨大な作業量を思いやるだけで頭が下がるし、一見して受け入れられにくそうな、難解な用語やクセのある舞台、それでも恐れずに新境地を切り開いたその姿勢。
個人の作家性が色濃く残る、小説的なアプローチの異色作だと思う。

好き嫌いが非常に別れる作風なので、軍事、政経、負け戦に耐性のある方のみどうぞ。
善と悪、敵味方、そういうのがはっきりしてないと嫌、という人は避けたほうがよろしいかと思います。
私はお勧め。ゲームとしての総合点は低いけれど、こういう作風って今までになかったし、このシナリオにはそれだけの価値がある。
活字好きならさほど違和感はないと思う。

ちなみに、未プレイの方は、若菜→加奈子→美樹でやった方がよろしいですぞ。
いいですかな。忠告はしましたぞ。これが一番、鬱気分を軽減できる順番だと思うので。
なんせ順番に(ネタバレ危険!→)全滅)→(壊滅)→(敗戦)だからな。
(とんでもねー作品だなオイ)

CROSS†CHANNEL

シナリオ音楽演出システム総合評価オススメ度
85★★★★

※注! このゲームはネタバレが致命的な作品です。
そのため、今レビューで設定に言及している箇所は、全部反転させていただきます。どうかご協力を。

もう公然の秘密なので、これについては書いてしまうが、「家族計画」のライター氏の作品。
はっきり言って、私の彼との相性は、この2月にクリアしたばかりの「家族計画」にて激悪なものと化していたので、(レビューを見ていただけると一目瞭然)プレイ前はものすごく気が重かった。
その傷も癒えていなかったのに、同ライターの作品をもう一つ積んでいるなんて地獄の所業としか思えない。(積むなよ)
しかし、これまた世評が相当に高かったのと、公表されている設定がちょっと面白そうだったのも相まって、今回だけはあえて地雷を踏む覚悟で臨んだ。

システム周りは、搭載機能は普通。だが、微妙に使いづらい。
何をするにも画面上部にカーソルを持っていってメニューバーを出す必要があるし、既読スキップをかけるとBGMが聞こえなくなる。
おまけに、オートセーブをONにするとシナリオループが発生して先に進めなくなるという致命的なバグ。
修正ファイル必須です。
余談だが、各章ごとにセーブすることをお勧め。
じゃないと、章タイトルが分かりません。でもこのタイトルが秀逸なので、ぜひ確認するべき。

音楽はなかなか良い。どちらかというと静かな、おとなしめの旋律が多いのだが、シナリオに没頭するタイプの作品なので、
これくらいがその邪魔にならずに雰囲気を盛り上げる役割を果たせると思う。
ちなみに、ある箇所で音楽での大仕掛けがあるのだが、これに関してはシナリオの部分で後述。
主人公以外はフルボイスなのだが、男友達がやけに豪華すぎ。このキャスト、私はビビりました。
たった3人だけど、その誰もが(ボーボボ、犬夜叉、ベジータ)とかなりのビッグネームってどうなのよ!?
これのせいで、逆に女性声優陣が霞んでしまったのがちと悲しい。どうしてもこのビッグ3に比べると演技や印象の点で見劣りしてしまうのが難点と言えば難点か。キャスティング自体は悪くないと思います。

絵に関しては、薄めの色彩で特異なデザインもなく、青を基調とした、あっさりと爽やかな雰囲気。
全体的に綺麗な感じでまとめられており、ベターっとした、変な髪型や服が横行するアニメ絵が苦手なので、むしろこういった画風の方が私には馴染みやすかった。
CG枚数はちと少なめ。これはシナリオの仕掛けのために仕方がない部分もあるのだが、ここぞ、という場面ではきちんとイベント絵が用意されているし、立ち絵のときにたまに入る、イラスト状のカットインも面白い。
どうしてもシナリオのために作られた作品であるので、萌えやその他の要素を追求するのは酷というものだろう。

では、以下よりネタバレゾーンに突入させていただきます。

きた。これはきた。
はっきり言ってプロローグの終盤までは、相変わらずの笑えない上に品のないギャグと、無駄が多くテンポの悪いテキストに、「やはり『家族計画』再びか」とがっかりし、プレイし始めた自分を呪いつつ、数分単位で眠気と闘う苦行を強いられる。
もう何度途中で投げ出したい気分に駆られたことか。
こりゃあもうレビューで、メッタメタのギッタギタに「あらん限りの酷評をしちまうぞコラ」と、どす黒い情熱を燃やしかけたそのとき表示された、プロローグラストのセリフ。

「生きている人、いますか?」

一瞬でざわっとし、背筋が凍った。現時点で理由は分からないけれど、人類は死滅している。ここにいる8人を除いて。
だから。だからだからだから。人の匂いが全然しない。町にも学校にも人がいない。
夏休みだろうと、部活はあるだろうに。日中の町中は喧噪で溢れているだろうに。
BGMはあっても、ざわめきや、夏を演出するのにうってつけのセミの鳴き声のようなSEはない。
そういった、一見背景やサウンド、描写上の手抜きなんじゃないかと思われたすべてが、このたった一言の演出によって
ぴしりと一本に結ばれた鮮やかさに、眠気など吹っ飛んでいってしまった。

背筋を正して、タイトルに戻ることもなくすぐに始まった続きを始める。
最初から、プロローグとほぼ同じ展開。ってことはこれは、ループ物!?
ふふん、私はループ物にはちとうるさいぜ? 何せ、至高の作品が「YU-NO」で「DESIRE」で「腐り姫」だからな。

ごめんなさい。本当に田中ロミオ氏を見くびってました。
まさか、こんな手法を取ってくるなんて思いもよらなかったので。

このゲーム、「青春学園アドベンチャー」と銘打っておきながら、ヒロイン別の攻略ENDがない。
というよりも、EDまでプレイしても、主人公は誰とも結ばれない。
最初から最後のエンドロールが表示されるまで、タイトルに戻ることがなく、あたかも一冊の本を読むような、文字通り初回プレイにすべてをかけた綱渡り作品。
なぜならこのゲームにおいて、再プレイは諸処に張られた伏線の妙に感嘆することはできるが、初回の戦慄だけは絶対に味わえないので。
なんて危険な、そして一回限りの大バクチな仕掛けに出たんだろうと、その潔さに脱帽。
これは、一人のシナリオライターがそのライター人生上で一回しか使えない手法。もう一度やったらただのアホウ。
もちろん、他のライターがやったらただのパクリ。

とにかく設定が巧妙すぎる。ここまでずっぽり罠にはまってしまったのは久しぶりだ。
世界は交差している。まさに†マークのように。
一つは閉じた、もう一つは普通に進む二つの世界を、あたかも一つであるように見せかけていた序盤。
その世界のトリックが段々と明かされる中盤。
見る人によって、まったく解釈の異なる提示をされてしまった終盤。
どうやっても、この物語(というか舞台装置)に関して、考えずにはいられないようになっている。

はっきり言って、最後まで変わることのなかったこのテキストの質は、日本語が壊れすぎていて、決して私の好みとは相容れないものだったのだが、この仕掛けによって目が離せなくなってしまったのが痛し痒しという状況。
どうでもいい電波ギャグや死ぬほどバカな掛け合い漫才の合間に、実にさりげなく設定のヒントが紛れ込んでいるのでまったく気を抜けないし、かといって全部まともに取り合ってたら、忍耐が破滅する。
プレイ中、まるでオシロスコープのように波形が上下動する私の気分。これが、このテキストに乗れる人だったらどんなにシナリオにのめり込めるだろうかと、羨ましく妬ましく思ったことが幾度も。

精神的・肉体的に傷を負った人間ばかりが集まる群青学院。最初のうちは皆、特筆することもない普通の学生。
だが、人がいなくなった世界で、困惑はしても淡々と生きることができる彼らはやはり「普通」じゃないのだろう。
そして、きっちり1週間でループがかかり、それまでの記憶を失って再構成される世界。
そこで徐々に崩壊が始まる人間関係。彼らが学院に集ったのは故なきことではないのだと嫌でも分からされる、
「普通の人」との歪みやズレが表面化していく。
自分たちを爪弾いた優しくない世界と、自分の「群青色」との軋轢に傷つき、他者との関わりあいができない登場人物たち。
それが露呈していく様は、実に醜悪でやがて殺戮にまで発展するドロドロっぷり。

中でも、「普通の人間」としての言動を知覚してはいるが理解できていない主人公の凶悪ぶりは、こんなにプレイヤーの
共感を得られない人間を主人公に据えていいのだろうかと心配になってくるほど。
だが、「多重世界の観測者」としての立場を理解した中盤以降はまさに息をのむ展開で、彼らを補完し、在るべき場所へ
戻してやる主人公。
それによって、もう二度と彼らには会えなくなることを知っていながら。
交差とは、ただ一点。そこを抜け出した友人たちと主人公が交わることは今後一切ない。
ただ、主人公が発信し続けるラジオ放送「CROSS†CHANNEL」を除いて。
それが主人公の今まで失われていた人としてのコミュニケーション手段であり、世界との関わり方であった――。

何だこの、卑怯なまでに鮮やかすぎる幕切れは!

そして、そこでようやく流れるED。歌曲付きであり、ライター自身が作詞したそれは強烈にネタバレを含んでいる。
単品で聞くならわりといいかな、と言うレベルなのだが、このタイミング、この場面で流されるのはもう反則に等しい。
「テーマ曲」でありながらOPですら流れず、今までのどの場面にも流されることのなかったことへの疑問が氷解し、さらに「やられた!」気分が上昇。

それが済むと、今度は実に論議を呼んだ問題のエピローグ。
や、いいんじゃないですか。私は結構好きだな。
これって要するに、「この空がなくなるその日までは……」のその日、ってことじゃないの?

空がなくなる=ループ世界が終わる=世界そのものが滅亡=主人公もなくなる

で、ループ世界で7人を殺してしまった主人公と、その7人の魂(?)のような存在が「お別れだ」と言ってるのにも説明がつくし、「世界が終わる」(分解が始まる)ことによって、元の世界と近くなったからセミの鳴き声が聞こえた、ってことじゃダメですか?
「世界がなくなった」からの、「チャンネルが閉じた」からの突然のブラックアウトじゃないの?
いずれにしても、「みんな助かって救われた、わーいハッピー」なバカエンディングではない……はずだ。

これだけ大がかりな世界で展開されるドラマ自体は意外と安っぽく、キャラにも別段魅力があるわけではない。
テーマの提示の仕方は抜群に上手いのに、そこからの論理展開が安直すぎてやはり好みじゃないし、どうしても説得力に欠ける。
ただ、元はと言えば非常に不安定な精神を持った登場人物たちでもあるので、その点を考慮すれば、普通なら気付いて当たり前の事実を終盤近くまで引っ張ってしまうのも仕方のないところか。
(この点、「家族計画」は普通の人間が気付いて当然の事実に気付いてくれないことが多すぎて私の酷評の対象になった)

どうあってもこれは構成で魅せる物語であり、そのためのストーリー展開でキャラ設定。いわば単なる小道具。
余計なことを考えず、そういう割り切り方をして捉えた方が絶対に楽しめると思う。
面白い、とかつまらない、とかそういう感想には不向き。ただ、できるなら味わってみた方がいい、としか言えない。
完全にプロットの勝利であり、

事前情報まったくなしでこのトリックを見抜くことは、まず不可能

だと断言する。
これでテキストが好みだったら、確実に神の領域に突入していただけに惜しすぎる感はあるが、これ以上ライター買いの作品が増えたら破産間違いなしなので、助かったという気も。
田中ロミオが実に予断のならないシナリオライターであることをひしひしと感じました。
秀作でも力作でもない、ただし意欲作、近来稀にみるほどの
プレイヤーをものすごく選びますので、あとは各自、勘を研ぎ澄ませてご検討を。

咎狗の血

シナリオ音楽演出システム総合評価オススメ度
83★★★

注! このゲームはボーイズラブゲームです。ホモゲーに免疫ない方は近寄らないように!
注2! 声優・エンディングに関してウルトラレベルのネタバレが含まれます。くれぐれもご注意!

とうとうやらかしてしまいました。初・ボーイズラブ(以下BL)作品。
はっきり言って、読むだけは結構読んでるのでBLという形態に特に抵抗はないのだが、それでも自分で買うというのはかなり二の足を踏んだ。
信じられないかもしれないが、今までそういった作品を1冊も所持していなかったからだ。(本当です!)

なのに何でホモゲーなんて、いきなりレベルAクラスのブツを購入するに至ったかというと、それが私の愛するメーカー、ニトロプラスの姉妹ブランドから出される作品、おまけに監修・ディレクションがあの虚淵玄氏だということで、理性のタガが一瞬にして飛んでしまったからだ。
漢祭りの第一人者がディレクションするBLゲー、これだけで脳内を爛れた妄想が駆け巡ったのは言うまでもない。

正直言って、BLゲーというジャンルはまだまだ若い業界で成熟には至らないし、良作よりも粗悪品の方が多いという評をあちこちで目にしていたので、いったいどんな代物に仕上がってくるかでかなーり不安を抱いてはいたのだが。

すんません。ニトロの底力をナメてました。さすがです。

すでにエロゲーでノウハウを確立しているだけあってシステム周りは完璧。
セーブコメント有、ホイールログ送り・バックログ対応、サウンド・シーン回想・CG鑑賞モードをもちろん兼ね備え、既読スキップや選択肢に戻るコマンドにショートカットも割り当てられていて、AVGを快適にプレイする環境は充分。
もちろんバグもないし、誤字も少ない。
CDレス起動はできないが、イメージ化は可能なのでディスクレスしたい人にも特に問題はない。

CGも、キメどころはきちんとスチルを用意しており、分量も申し分なし。
元々原画の方のセンスが好みなこともあるが、BL作品にありがちなヒョロヒョロした人体もなく、きちんと筋肉の付いた男らしい体つきの各キャラは、死のバトルゲームに参戦する、という設定に違和感のない作風。
背景や武器も、そこは親ブランドがニトロ。隙のないきっちりとした仕事。

お馴染みのZIZZ SUTDIOによる音楽もバッチリハマっていて、ハードなギターサウンドが荒廃した世界観をドラマティックに盛り上げる。
また、場面場面での音楽・SEの使い方や切り替えがかなり巧みで、今作は音楽による演出のレベルが高い。
ぶっちゃけ、今までのニトロ作品の中で、この作品の音楽が一番好きかも。(罠にはまってるぞ、私!)

「音」と言えば、今作で絶対に外されないのが、異常なまでに高レベルな各声優陣の演技。
バラして恐縮ですが、列挙すると、

  アキラ:先割れスプーン(鳥海浩輔)……主人公。パーフェクト受。
 ケイスケ:何武者(杉田智和)……主人公の幼なじみ。穏やかな人格でアキラを慕っている。
   シキ:緑川光……「イグラ」最強と噂される謎の男。超俺様人格。
   リン:鬼龍院隼人(福山潤)……明るいが時折冷たい表情を見せる二面性を持つ。
   源泉:一条和矢……街の情報屋。余裕があり面倒見のよいオヤジ。
アルビトロ:菱勝(岡野浩介)……犯罪組織ヴィスキオの幹部で「イグラ」の審判役。かなり変態。
  キリヲ:富士爆発(小西克幸)……処刑人。いかにもヤヴァイあんちゃん。
  グンジ:杉崎和哉(谷山紀章)……処刑人。気まぐれな殺人狂。
    n:Prof.紫龍(山崎たくみ)……謎の男。物語のキーパーソン。

という、「お前それは反則だろ!!」と言いたくなるような巧すぎる方々を惜しげもなく投入。
この辺がさすがニトロ。「斬魔大聖デモンベイン」で見せつけてくれたキャストの妙を垣間見た気分です。
特にケイスケ役の何武者氏。彼のエロボイスのおかげで、この作品の私的気恥ずかしさ度は300%を超えました。
彼の「アキラァ……」を聞くたびに、とにかく悶絶。
ゲーム前半の善良な人格を完璧に演じていただけあって、反転してからのサディスティックさやエロさが余計に際立ち、マジで鳥肌ものの巧さ。
はっきり言って、大好きです。ファンになりました。(だから罠にはまってるぞ、私!)
他のメンツも、変態は変態らしく、鬼畜は鬼畜らしく、鬼気迫る演技力でゲームの臨場感に一役も二役も買ってます。
(でも、n役のProf.紫龍氏が、同メーカー作品の某マッドサイエンティスト『西博士』と同じ人でビックリ。
役柄は全然違うのに、今にもギターをかき鳴らして超テンションを見せつけられる気がしてシリアスな場面で爆笑しちまいました……すんません)

さて、メインのシナリオ。
正直、設定に斬新さはさほどないものの、腐女子の萌えだけに突っ走ることなく、かといってそれを軽視もせずに手を変え品を変え、ここまでまとめ上げたのは並大抵の苦労ではなかったと思う。
それに、男性プレイヤーを非常に意識した作りだと感じた。
同性同士という異様なシチュエーションを、ハードな世界観と極限状態という非常事態に紛れ込ませ、あえて幸せピンク色のイメージを表に出さなかったのは正解。
おかげで私のようなBLゲー初心者でも非常にプレイしやすかった。

テキストが硬質のしっかりした文体であるのも取っつきやすい理由の一つ。
BL小説などでは、はっきり言って読むに耐えないレベルのものが多数あるが、今作はそれもなく、感情に走ることなく意識的に抑えた筆致が世界観を損なうことなくリアルさを出すのに一役買っている。
通常のAVG群と比較しても遜色ない出来で、安心して読み進められる。

だが、正直言って、ネタの扱い方には甘さが多く見られた。
どうしても女性向け、ということが足枷になるのは仕方がないのだが、世界観が重いわりに展開が淡々としすぎ、そして早すぎる。
描写は丁寧なのだが、何となく重みに欠け、私のように、「死のゲーム」から連想される、魂を打ち倒される鬱展開を期待するプレイヤーはかなり物足りなさを覚えるだろうということ。
むしろゲーム後半、「愛」や「信頼」といった生ぬるい感情論に傾きがちになり、そこが少し興ざめ。
せっかくの、ただ一人の頂点を決める死のバトルゲームという設定なんだから、もっとハードな殺し合い、目を覆いたくなる残酷な事実、燃えバトルなどを期待するのは当然ではないだろうか。
(あれで充分残酷だ、という腐女子の皆様ごめんなさい。殺し合い大好きっ子なもんで)

結局、メインの設定であったはずのバトルゲーム「イグラ」は、詳細なルールの取り決めがあったにもかかわらず、ほとんどその描写がなされない。
これは、シナリオの根幹として(ネタバレ危険!→)「イグラ」は壮大な茶番劇である、という設定があるので仕方がないのだが、それでも表面上は闘うために街に入ったはずなのに、バトル風味がこうも薄くては何だかなぁという気分がぬぐい去れないのだ。
デスマッチ大好きっ子としては、もっと執拗なくらいに(「鬼哭街」なくらいに)バトルシーンを持ってきてもよかったように思う。
そこで段々シナリオの裏が見えてきて……という展開なら、もっと熱くなれたと思うのだが。

また、キャラ別ルートに入ってしまうと、他のキャラの扱いがおざなりになり、基本的なシナリオの謎すら明らかにはされない、といった破綻が発生する。
結局、裏で糸を引いていた人物が唐突に出てきて真相を語り、あとは攻略キャラと脱出・エンディング、といった共通の展開はいかにも駆け足すぎ、おかげでせっかくエンディングを迎えても、何だかすっきりしない消化不良感が残る。
どのルートでも、もう少しエピソードの補完をするべきだったと思う。

これは、世界観の説明も同様だ。
日本を二分するほどの勢力を持つCFCと日興連という組織について、シナリオ中でほとんど触れられていないのはいかがなものかと思う。
公式サイト・雑誌情報などでは説明されているが、こういったものはやはりきちんと作中で解説されるべき
ほとんどのプレイヤーは予備知識など持たないのだから、既知情報として扱われても混乱を招くだけだ。
こうした情報を作中で扱うことによって、世界や人々の精神的な荒廃具合に裏付けと説得力が与えられ、物語世界を一層深いものにできたであろうに惜しいことこの上ない。

思うに、このライター氏、まだ固さが取れていない。だが、経験を積めば大化けする可能性大
潜在的な力量はかなりある。熱意もすごく汲み取れる。何より、殺愛支配愛など、「アナタ私の脳内覗いた?」と聞きたくなるほど、私的萌えシチュエーションを生み出す才能は希有のもの。
私の好み以外にも、大多数の腐女子をほぼフォローできるくらいに多彩なシチュエーションが用意されており、かなり研究したな、とその苦労を労わずにはいられない。
人によっては萌え死ぬ可能性すらある妄想の余地のあるキャラ造形は素晴らしいの一言。
おかげさまでうかつにも今作最大のバッドエンドで萌えてしまった大バカ者がここに。

ちなみにどんなエンドかというと、(ネタバレ危険!↓)

自分に密かな想いを寄せていた、普段穏やかな性格の幼なじみだったケイスケが麻薬によって黒人格へと豹変し、
大雨の中殺し合った挙げ句に恍惚と内臓引きずり出され、それを見ながら意識が遠のく(つーか死ぬ)

というもの。本当にコレ、腐女子ゲームか?(ちなみに私は変態ではない。念のため)

その他にも、とにかく一筋縄ではいかないエンディングばかりあり、BL作品特有の極甘ラブラブエンドを期待している方々には受け入れられない可能性大。(ちなみにそういうエンドもあります)
というわけで、シキエンドは激しく賛否両論らしい。
ちなみに私はシキエンド3(↓ネタバレ危険!)で萌えましたが何か?

麻薬王となったシキと、半ば精神崩壊し、シキの愛玩物と化したアキラ。
その類い希なる受パワーをもってしてシキの留守中に部下を籠絡し、帰ってきたシキの嫉妬心を引き出して二人して愛欲に狂うというバカップルエンド。

以上、新規ブランドだけに詰めの甘いところも多かったが、それでも今現在市場に溢れているBL作品とはいきなりレベルの違うところに突如現れてしまった今作、以降の業界標準となるべき作品なんじゃなかろうか。
ブランド処女作として非常に手堅い作りで、「ニトロの姉妹ブランド」というレッテルを良く生かしたという印象。
その分、冒険はあえて避けたという感じで、ぎらつく野心こそないものの、それでも心に訴えるものがあった。
とにかくこの業界に一石を投じよう、という心意気を感じる。
志、とでも言おうか。腐女子の中の漢たちが作った、とでも言おうか。私は好きです、こういう攻め姿勢。
これならニトロキラル二作目も買おうかなと思える出来だった。
BL未体験だけどやってみたい、という男性プレイヤーにもお勧め。
さほど気持ち悪さは感じない……はずです。たぶん。(ケツ穴痛そうなのは我慢してくれ)