Fate/stay night
| シナリオ | 絵 | 音楽 | 演出 | システム | 総合評価 | オススメ度 |
| 8 | 9 | 8 | 10 | 8 | 91 | ★★★★★ |
「月姫」で私を頭のてっぺんからつま先まで汚染した、TYPE-MOONの商業化作品第1弾。
あれだけ名実共に揃った作品を最初に出してしまうと、後は転落するだけ、というプレッシャーがあったと思うが、よくぞそれを払拭してくれた、と惜しみない賛辞を送りたい。
相変わらず膨大かつ緻密な設定に加え、格段に進化したエフェクトが、かつてない演出効果を生み出した作品。
そして、発売まで抑えに抑えた情報が、驚きと共に次々と顕わになる快感は、時間を忘れてプレイに没頭させるに十分。
とにかく今回はこの演出が凄まじかった。
文章によるアクションシーンは、ともすれば冗長になってしまいがちだが、今回は迫力あるSEに加えて、立ち絵・イベントCGすらもバリバリ動き、剣戟の火花、宝具使用時の効果等、とにかく派手で見応えたっぷり。
「伝奇活劇ビジュアルノベル」と謳っているだけあって、活劇に相当力を入れた作りになっている。
相応にそれなりのスペックを要求されるが、多少マシン性能を上げる羽目になるとしても、ここまでやってくれるのなら投資価値は十分。
また、前作より格段に進歩したCGも、「奈須シナリオには武内絵」としみじみ思わせるベストマッチぶり。
イベントCGの数は、ゲーム全体のボリュームからすればやや少なめの感があるが、そのどれもが非常に印象的。
絵自体も柔らかみがあってクセが少なく、思わずツッコミを入れたくなる変な人体や、ありえない髪型、変な服もないし、構図がとても利いている。
アーチャーと共にビルから飛び降りる凛、夜明けを迎えるセイバー、白い森でのバーサーカーとイリヤ、アーチャーの心象風景、と気に入った絵を挙げるとキリがない。
立ち絵のバリエーションはかなり多く、キャラはとても表情豊か。
これがまたよく動いて、テキストには出てこない微妙な心境の変化までフォローするようになっている。
音楽は雰囲気に合っているが、これぞ! というインパクトに欠けるのもまた確か。
曲数も少なめで、これは「月姫」のときもそうだったのだが、無音の箇所がかなりある。
やはり雰囲気を盛り上げるために音楽は不可欠だと思うので、演出の邪魔にならない程度に付けるべきだ。
ちなみに私は「ノベルに声は不要」派なので、ボイスなしはまったく問題ない。
というより、これだけ尺の長い物語を、わざわざ声付きでやったら絶対に飽きると思うので、これは正しい選択だと思う。
さて、問題のシステム。
残念ながら、フリーズするバグと、プロテクトの誤動作問題が発生しているのでこれは大きな減点。
商業メーカーは、こういうところを細かくフォローしていかなければいけないので、まだ人的に充実とはいえない新規メーカーとしては大変だとは思うが、ゲームができる、できないという問題は何にも勝る大前提なので、早急に対応するべき。
幸い、私のマシンでは問題なく起動したので良かったのですが。(でも2回例外エラーで落ちた)
コンフィグ面ではかなりのカスタマイズができ、高スペックを要求するわりに、システム自体はかなり安定している。
さらに、前作同様、シーン全体をすっ飛ばす、高速な既読スキップのおかげで操作性は非常に良好。
各種鑑賞機能も揃ってるのに、シーン回想機能がないのが謎だが、エロにメインを置いた作品でないからなのか。
それとも単に付け忘れなのか。
個人的には、エロシーンに限らず、CGクリックで各種シーンを回想できれば良かったかな、と思う。
バトルはかなり燃え萌えだったので、後からまた見たいということが多かったし。
タイガースタンプクリックしたら、バッドエンド見れる、とかね。
バッドエンドが40種類もあるんだから、それぐらいしてくれてもバチは当たらないと思うのだが。
シナリオは相変わらず素晴らしい。
テーマの持たせ方、場面の盛り上げ方、ネタ自体はありがちだが、それを完全に消化し、かつオリジナリティ溢れる展開に仕上げていく手腕、独自解釈というレベルの遙か上空を行く表記、表現方法はさすがの一言。
特に今回は、まさにゲームに向いたシナリオで、音楽、絵、エフェクトとの相乗効果が非常に高かった。
よりストーリーを際だたせるためにルート制限があるのが辛いが、そのどれもがほとんど共通ルートなく、独立したまったく違う物語となっている。そのボリュームたるや、1ルート、平均12,3時間はかかるレベルの大作。
それだけ長大な物語を、文字通り、時が過ぎるのを忘れて没頭させる力。
前作で味わった、暴力と言えるほどの圧倒的な瞬発力こそないものの、一つ一つのエピソードが、伏線が、先に進めば進むほどに、ボディーブローのようにじわじわと効いてくる。
その「じわじわ」が、各バトルシーンにおいて、猛威を振るいだす。
必殺の武器という、ただでさえ燃えるシチュエーションに、これまたとんでもないルビだが、確実にかっこいいあて字。
「刺し穿つ死棘の槍」でゲイボルグ、「天地乖離す開闢の星」でエヌマ・エリシュだよ!? ありか、そんなん。
でも、これで燃えなきゃ漢じゃねぇ。
「月姫」もそうだったが、バトルになると異常なまでに高まるテンション。
凛ルートの後半、(以下数ヶ所ネタバレ危険!→)アーチャーが固有結界の呪文を唱えるシーンでは、全身の皮膚が粟立った。
かろうじて事前に出ていた情報に記載されていた詩が、まさか呪文だったなんて思いもつかなかったし、そもそも詩自体がセイバーのものだと信じ切っていた私にとって、これは衝撃の逆転だった。
この、あざといほどに効果的な台詞。
荒唐無稽でけれん味たっぷりだが有無をいわせない迫力のある演出。
これがあるから、TYPE-MOONのファンはやめられない。
セイバーと凛ルートに関して言うべきことは何もない。
どちらもご都合主義を排した、据わりのよいエンディングで、これ以外にはないだろう。
ただ、桜ルートだけは、聖杯戦争の顛末を描いているせいもあるが、やや長すぎた。
展開をもう少し早く、そして、バッド以外で桜を殺すというエンディングがあってもよかったと思う。
その場合、確実に(ネタバレ危険!→)士郎はアーチャー化するだろうが。
そして、この桜ルートを最後に持ってきてしまったのが痛い。
私はこの展開には全然問題ないと思うが、やはりシナリオの尺は少し削るべきだったと思う。
幼少時から他人の家で、手酷い扱いを受けてきた少女が、性格に歪みをきたさなかったらそれこそ嘘だし、その隠された内面の変化を徐々に描くことで、主人公の揺らぎや、直面した問題がよく表現されてるとも思う。
だが、長すぎるわりに、盛り上がりが後半に集中しているため、途中で中だるみしてしまう危険性がある。
やはり、早くにバトルのメインとなるはずのセイバーが退場してしまったのと、黒桜化するのが遅すぎるのが、よくない相乗効果を生んでしまっている。
これによって、メインヒロインであるはずのセイバーの影が薄くなってしまい、プレイヤーに黒セイバーの印象しか残らなくなってしまう。
彼女こそ、表題「Fate」の体現者なのだから、もう少し活躍の場があってもよかったような気が。
逆にその分、凛は相当株を上げた、と言うか、間違いなく本作のメインヒロインの座をゲット。
どのシナリオにも十二分に絡んでくるし、言動も小気味よく、重いテーマを抱えたシナリオの息苦しさを防いでいる。
もちろん私も、凛ルートが一番気に入った。
正確にはあれは、凛ルート、と言うよりは「Unlimited Blade Works」というタイトル以外の何者でもないのだが。
罪の意識から「正義の味方」であることに固執し、自分が幸せになることを顧みない、存在意義の不確かな主人公が、その呪縛から解き放たれる後半。
「ならば我が生涯に意味は不要ず」と詠唱できることがどれだけ深い意味を背負っていることか。
そして、(ネタバレ危険!→)「故に、生涯に意味はなく」と詠唱してきた英霊エミヤが、かつて失ったものを取り戻すラストシーン。
あの、「大丈夫だよ、遠坂」は反則級の破壊力を持って私を打ちのめした。
これだけ巨大かつ膨大な設定を持つ世界観を、少し伏線の取りこぼしがあるにせよ、力業でも一本にまとめ上げた力はやはり並大抵ではない。
加えて、前作では絵関係が弱かったため、シナリオが一人歩きしている印象が拭えなかったが、今回は作品としての総合力も相当ハイレベルなものとなっている。
むしろ、音と絵がなければ、ここまでの感動は生まれなかったはず。
ただ、この商業化第1作目で問題点が浮き彫りにされたのもまた事実。
製品として致命的なバグ、それに付随する人的、物的システムの層の薄さ。
これはプロとして絶対に乗り越えなければいけない壁であり、今回は経験値、ということで大目に見るが、次回こそ解決しなければいけない点だ。
伝奇・アクション・ホラーに抵抗がないならば、「これをやらずしてどれをやる」級の文句なしの一品。
商業としての値段と作品の質がガッチリと噛み合った、金の惜しくない良作です。