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ファントム Phantom of Inferno(DVD版)

シナリオ音楽演出システム総合評価オススメ度
90★★★★★

レビューの前に一言。

「決してPS2(もしくは等速オンリーのDVDプレイヤー)でプレイしてはいかん!!!」

はっきり言って、本筋に対して関係ないところで印象悪くします。
再生速度を替えられないと、地獄のようなプレイ環境になること間違いなし。
それほどまでに、なぜかこのソフト、スローペースです。

物語自体は緊迫した、スピード感と哀切溢れる秀作。
記憶を失くし、過去を忘れ、生きる意味を問いながら手を血に染め続ける登場人物たち。
マフィアの頂点に立たんとする組織、「インフェルノ」。
そして、組織の暗殺者で最高位の者に与えられる称号「ファントム」。
主人公は、その「ファントム」としての生き方を余儀なくされたアイン、ツヴァイ、ドライ。
それをとりまく組織の幹部や対立する人間、渦巻く陰謀、これでもかと登場する重火器等、品揃えは一級品。

何と言っても、冗長な部分や無駄が少ない
緩急ある展開や周到な伏線、印象的な場面設定や音楽等、せっかく築き上げた世界観を壊さないよう、細部にも気を使っている。
特に感心したのが後半に宗教の持つ「救い」の作用を絡めたこと。
比類なき暗殺者としてその名を轟かせた「初代ファントム」であるアインが、宗教に関心を持ち、教会に出入りし、祈りを捧げ、賛美歌を歌う。
この一見相反する行為が物語の悲壮感を一層高め、結果、このゲーム一番の見せ場と言っても過言ではない、

アイン(初代ファントム)とドライ(3代目ファントム)の教会での一騎打ち

に発展する。

「暗殺者」としての呪縛から逃れられない苦しみ。
「人」として救われたい気持ち。
「愛する人」を救いたい気持ち。

人は、己一人の力で立つしかなく、自身は決して贖えない罪を背負っていることを嫌というほど知っているアインが、それでも神への祈りを捧げずにはいられない気持ちを忖度し、プレイヤーはそれに心を引きずられる。
「暗殺者」「組織」「血と硝煙」「陰謀と抗争」「純愛」と、並べただけではありがちな各パーツが、「宗教」の持つファクターを一枚噛ませてやるだけで、これだけの演出効果を導き出す。
ここだけ取り上げても、絶対的にやるべき要素満載。

私は3章のヒロイン美緒は正ヒロインと思っていないので除外するが(ひでえ)、

アインと迎える、彼女が自分のアイデンティティの拠り所を取り戻す感動的なラストも、
ドライと迎える、ある種突き抜けた感のあるラストも、
賛否両論別れる、クロウディアのエンディング2種も、

どれも納得できる出来だった。
敢えて言うなら、アインのラストは別格だろう。
なんせ1章から「草原」の伏線を張って用意してあるんだから。

ちなみに、クロウディアはああいう展開になるだろうってことはよく分かってた。
だって私も(一応)女だもん(笑)
エゴイスティックこそ女の本性ですよ、世の男性諸君。
組織の幹部になるほどの実力を持つ女ならなおさら。
ただ、頂点に登りつめたときに、失ったものに思いを馳せるかそうでないかが、「悪女」と「計算高い女」の違いなんじゃないのかな。
クロウディアは悪女にはなりきれない、そういう部分が魅力的な女なんだと私は思いますが。
そりゃ、こういう女は18禁ゲーのキャラ造形としては受けないわな。私は好きです。

冒頭の緊張感から、学校でのラストバトルに至るまで、全編中だるみや破綻がなく、怒濤の展開を繰り広げます。
ドラマティックでスケールが大きく、まさに珠玉のエンターテインメント
映画的なノリが好きで、ストーリー重視派の方、ぜひプレイを。

月姫

シナリオ音楽演出システム総合評価オススメ度
1096

これは、すごいゲームだ。
何がすごいって、これが商業ベースで作られたんじゃないってことが。
同人ベースでここまでやられちゃ、はっきり言ってゲームメーカー形なし。
何せ、私が今までプレイしたゲームの中でも、かなり図抜けている。
惜しむらくはシステム周辺が弱いこと、音楽、CGのボリュームが少ないこと。誤字が多すぎること。
が、それを補って余りあるテキスト量。キャラ造形。作品作りに対する意気込みが全然違う。

ネタは今や「使い古し」の代名詞である吸血鬼。
そして、格式はあるが謎に満ちた旧家。いわゆる伝奇物と呼ばれるジャンルであり、非の打ち所のない「ありがち」設定だ。
しかし、それを盛り上げる緻密な設定と圧倒的なボリューム、怜悧な視点と冴えた構成。
とにかく、シナリオとテキストの力がハンパじゃない。
月姫の魅力と破壊力は、ほぼこの二つによると言っても過言でない。

知能遅れか疑いたくなるヒロインも、くだらないことにウジウジと悩みまくるヘタレな主人公も、この物語には存在しない。
エロゲーの主人公に「燃えた」のは初めてだよ。(←「萌え」じゃないよ)
全員がきちんと知性を備えており、それぞれの価値観を持って生きている。
5人のヒロイン&主人公には、それぞれに過酷な運命が待っているのだが、そこから逃げだす者はいない。
みっともなく暴れ抗う者もいない。

文体の力もあるだろうが、常軌を逸した物語設定であるにもかかわらず、そこに住む人物たちは非常に理性的だ。
皆、自分のやるべきこと、なすべきことを見極め、あるべき場所に静かに佇む。
自律のもと動く、というのは、こういうゲームでは珍しい人間像だと思う。
そしてそこが、依存心が強く、頭の弱いヒロインが多い昨今のゲーム業界の中で、ひときわ異質に見える。
こういうキャラ造形を、
「18禁」という、最も上記のヒロインタイプが好まれるフィールドでやってしまう
こと自体がすごい。
ある意味、こういうところが「同人」なのかもしれない。
だって商業ベースじゃこんな実験怖くてできないだろう。普通。

ストーリー展開は、序盤がホラー色、後半はミステリ色が強い。
伏線の張り方が巧い。注意深くテキストを読み進めると簡単にネタが割れることでも、さりげなく、そして効果的に張られた伏線によって、最後にちゃんと得心がいく作りになっている。
ネタ自体を看破するのは、ある程度の読み巧者なら簡単なことだと思うのだが、その後味を、
「ちっ、やっぱりそうだったのか。つまらん」
と思わせるのと、
「ああ、やっぱりそうだったのか。しかしこれで納得がいった」
と思わせるのでは全然違う。月姫は当然後者のタイプだ。

例えば私は、(超ネタバレ危険!→)「志貴とシキの意識の交錯」「翡翠←→琥珀の入れ替わり」なんてのはかなりの序盤から分かったが、それでも問題なく最後まで物語を楽しめた。

ちなみに、月姫の世界を存分に味わい尽くすためには、推奨ルート(アルクェイド→シエル→秋葉→翡翠→琥珀)は絶対に守るべき。
後半の盛り上がりが断然違ってくる。特に秋葉以降の遠野家ルートにおいて。

私もかなり色々なノベルタイプAVGをプレイしたが、上手下手はともかくとしても、ここまで十二分にゲームの世界観を引き立てる文章を読んだのは、月姫が初めてだ。
やや説明的すぎるきらいはあるが、簡潔に抑えた筆致で滑ったところのない硬質の文体は、この静かで冷たく澄んだ物語に深みを与えている。

各章のタイトルも秀逸。
琥珀ルートでの「カイン」なんてのは、プレイ前は意味不明以外の何者でもないのだが、章を進み、その内容を理解してタイトルを思い起こしたときに初めて衝撃が訪れる。
これ以上ないほど内容に即した、それでいて卓越したセンスを誇るネーミングには、本当に皮膚が粟立つほど戦慄した。

文字自体が持つ視覚性とイメージ喚起力、言葉の呪力(「言霊」だからね)、そういうものを知り尽くした演出。
あて字がやたらと多いのは気になるが、決してこの世界観を損なうものではない。

映像が重要視され、中でも「とりあえず見栄えのいい絵出しとけばOK」なこの業界で、最も原始的な力で、最もストレートなパンチを食らわされた衝撃。

変わったことは何一つやっていない、あまりにもオーソドックスな、だが、珠玉のゲーム。
圧倒的なコストパフォーマンスと、本当に丁寧なゲーム作りの姿勢に敬意を表し、お勧め∞。
人死にが多いストーリーに抵抗のない方、不自然なハッピーエンドなど望まない方、何を押してもどうぞ。

この世の果てで恋を唄う少女YU-NO

シナリオ音楽演出システム総合評価オススメ度
92★★★★

一番長時間プレイした18禁ソフトであり、PC-98でプレイした最後のソフト
攻略まったくなしで、メモも取らず、達成率100%になるまでに費やした時間は70時間オーバー。
かつて一体、どこにそんな余裕があったんだろうかと、我が身を疑いたくなってしまう。(若くて学生だったから)

しかも、予備知識もなかったので、(ネタバレ危険!→)超ドクソ長い異世界編があるなんて知らず、マップを完成させた時点で「今日のうちに終わらせよう」と甘い考えを起こした結果。

深夜1時頃から始め、全てが終わった時点ですでに早朝

となっていた、という非常に苦い思い出のあるソフトだったりする。(自分が悪い)
もちろん次の日は平日で、半分意識を失いながら登校した。

まあ、そんないわく付きのソフトなのだが、裏を返せば途中で止められなかった、ということだ。

圧倒的な世界観、執念すら感じさせるほどの緻密な設定。
多少の矛盾や理屈なんて吹っ飛ばしてしまうパワーがこれにはある。
知っている人は知っているとおり、作者の剣乃ゆきひろ氏(現:菅野ひろゆき氏)のゲームには、根底にあるテーマが流れている。
今更語るべくもないが、それは「極限の愛の形」だ(と私は思っている)。

ゲームによって状況は様々に違うが、YU-NOのそれは、とても静かだ。
その静謐に満ちたエンディングを終え、タイトルの「この世の果て」の意味を理解したとき、完全に私は圧倒され、そして戦慄した。

私は激しいもの、強いものが好きだ。
音楽だって、耳に優しいスローテンポよりは攻撃的なリズムの方が好きだし、どちらかというと弱肉強食的な価値観を持っている。
だから、他人をうち倒すほどの激しい感情や価値観に触れるのも、実は嫌いじゃない。
むしろ、弱いヤツには虫酸が走るというある種ジャイアン的(いわゆるジャイアニズム)なところがある。
だからこそ、静寂が時に何よりも激しく、深く語りかけてくることに強烈なまでの衝撃を受けたのだ。

YU-NOは実はタブーの物語でもある。
ユーノ・神奈とは親子だし、神奈の母親、義母である亜由美、巫女であるセーレスとも関係する。
が、ゲーム中で、「そりゃヤバイだろ」と思ったことは全然なかった。
私に倫理観が欠如しているからだけではなく(だと思う)、そういうことは「些末な問題」にしか思わせないシナリオの力が確かにある。

作者剣乃氏のもう一つのテーマ、「タブーへの挑戦」。

私は個人的に、

「表現者がそれから生ずる責任をとるのなら、表現方法にタブーがあってはならない」

という考えなので、彼のような姿勢は特に評価したい。
実際、タブーになると途端に逃げ腰になるクリエイターが多い中で、敢然とそれに取り組み、かつ結実しているこのゲームは本当に素晴らしいと思う。
(しかし、サターン版ではどうなっていたのか全然分からん)

手放しで誉めてきたが、このゲーム、実は問題点がないわけではない。
ゲームシステムが一見複雑なのと、シナリオがあまりに長大なため、中盤一時期中だるみすること、フラグの立つ条件が一昔前のAVGにありがちなコマンド総当たりであること。
これらが、シナリオのテンポを若干落としてしまっている。

まあ、リフレクターの使い方に関しては、1,2回やってみればすぐ慣れるし、中だるみに関しては、イラつくながらも先に進みたいがために自分のスピードがアップするくらいで、特に問題はない。
時間を掛ける手間さえ惜しまなければ、決してやってみて損はないゲームだと思う。

スケールの大きい壮大な物語だけが持つ、重厚で圧倒的なカタルシス。
終えた後に、思わずため息をついてしまう感覚を味わいたい人はぜひ。

私は、ゲームでこんなに衝撃を受けたのはDQ3以来でした。
実は、あの衝撃のラストが理解できる人とそうでない人に別れるらしいが、絶対に一見の価値あり。
貴方も(貴女も)「この世の果て」を確かめてみてください。

追記……余談だが、おまけディスクの「それいけセーレス」がメモリ不足のためできなかった私。ううっ。
当時のうちのマシンは、YU-NOを入れただけでお腹いっぱいになるという超ヘボマシンだったのだ。
あのマシンも今ではすっかり現役を終え(当然だ)、2001年末の大掃除の際、とうとう部屋から撤去された。
さらにFDドライブも逝かれていたので、YU-NO(と遺作と同級生2)のコンプリートデータをよせることもできなかった。
私の70時間(プラス数十時間)を返せ。
が、そのマシンのあった場所が今ではPCゲーム置き場になっていることは内緒だ。

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