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あやかしびと

シナリオ音楽演出システム総合評価オススメ度
87★★★★

SSの書き手として非常に有名な、東出祐一郎氏がシナリオを務めた今作。
元々、氏の作品が大好きな私としては、期待の一本だったわけですが。
昨今の作品には珍しいくらい、きっちりとコードを守った良質の学園伝奇AVG。
物語自体は、決してただのハッピーエンドではなく、それなりに犠牲を伴う展開であるというのに、誰にでも分かる形で伏線を完全に消化しているのと、着地場所がかなり良いため、EDにはとてつもない清涼感があり、プレイして良かったと思える快作。
はっきり言って、シナリオにはほとんど文句はない。限りなく9点に近い8点。
一部でこなれてない部分があったり、同じ段落中でも表現が重複していたり、そういう細かいミスが散見されるので8点としたが、それはほとんど瑣末な問題。

シナリオ以外は全体的にそつのない作りであるものの、システムがやや劣る。
実装機能はAVGをやるにあたって何一つ過不足がないし、とりたてて手酷いバグもないのだが、とにかくレスポンスが微妙にもっさりしていて、操作感は今ひとつ。
戦闘時のエフェクトなどはもたつきもなく、画面演出上は問題がないのだが、一度見たEDを飛ばせなかったり、細かいところで使い勝手が良くないのが残念。

音楽はごく普通。作中のBGMは、最近の傾向より、少しレトロっぽい曲調だが、作品にはマッチしている。
だが、取り立てて良い悪いということがなく、あまり記憶に残らない、平凡な印象なのが残念。
OPEDはボーカル曲だが、これもあまりパッとしない。
OPは、作中で展開されるであろう熱い闘いを予感させる仕上がりなためまだいいのだが、せっかくすっきりとしたEDを迎えても、肝心のED曲が重厚すぎて、最後の最後で大ジャンプに重しをされてしまったような印象を受ける。
というわけで、音楽面ではあまり高評価はできないのだが、音声面はすごすぎる
もう、登場人物の片っ端から、現在第一線で活躍中の主役クラス声優陣がこれでもかとわんさか登場。
このキャスティング、異常に豪華すぎてかえって焦ります。今回、事前情報まったくなしにプレイしたもんだから、虎太郎と九鬼が登場した際は、思わず息が止まりかけました。
エロゲをやらない声優オタクが聞いたら、悔しさと興奮で卒倒すること間違いなしの超豪華キャスト。
当然、ハズレなしです。

原画は燃えアニキと化物を描かせたら右に出るものなし、の中央東口氏。
氏はなぜこうも、私のツボをしたたかに刺激するアニキ共を量産しやがりますか。さては萌え殺す気ですか。
このゲームの最大の萌えポイントは、この絵にあるといっても過言ではない。
(ただし、伝奇バトル萌え者限定)

メ・ガ・ネ! メ・ガ・ネ! 坊・主! 坊・主! 隻・眼! 隻・眼!

すいません、取り乱しました。
とまぁ、作中にかなりのキャラが出てくるが、いずれも被ることなく、それぞれ大変魅力的に描かれていて、安心してゲームを楽しめる。
ああ、アホ毛のない原画は素敵だなぁ。

演出面もなかなか頑張っている。
最近流行りのカットインの多用、バトルの際のエフェクトなども格好よくまとめてあるし、ギャグパートでのへたれ絵も、ぴょこぴょこ動いたり、表情が変わったりして楽しくかわいい。
見せ方はかなり研究しているな、という印象を受けた。

さて、冒頭で高評価をしたシナリオ。
とにかく、日常パートの描き方が非常に巧い。いつまでもダラダラと描写を続けたり、毎日が同じことの繰り返しではなく、小さいけれど様々なエピソードが用意されている。
そして、そこでは登場人物ほとんどすべてにスポットが当てられる。
それも、取って付けたようなものではなく、その人物の個性や能力を生かした見せ場であるため、キャラそれぞれが強烈に印象に残り、物語を大きく盛り上げるのに一役買っている。
何よりも、皆クセの強いキャラなのに、ちっとも嫌らしさがなく、そんな彼らが織り成す空間はとても心地が良い。

肝心の攻略可能キャラは、黒髪ロングで戦う巫女さん(兼先輩)、プラチナブロンドのクールな戦闘美少女、見た目はロリで実は年上、でも無垢な人外、自らを殺して戦いに身を投じた軍服ねーさん。
死角がないよ、この布陣。何てスキがない。
展開も、この手の作風が好きな人ならたまらないシチュエーションばかりを、確実にピンポイント爆撃してきやがります。
マスター、このミサイルはファティマコントロールです、当たりますッ!(C)ファイブスター物語
ああそうだよ、斬り合いも撃ち合いもカーチェイスも復讐も大好きなんだッ!
東出祐一郎、恐ろしい子……!

プレイ時間だってそれなりに長いし、普通ならたるみがちな日常生活の描写も多いのに、途中、ダレをほとんど感じさせない、絶妙のさじ加減。
ギャグとシリアスの配分が、綿密な計算の元にきっちりと機能している。この構成力・調整力こそがプロの技、と素直に感心した次第です。
どちらかというとこの業界、ハイテンション突き抜けギャグ系が多く、実際そっちの方がウケやすいのに、決してそっちに流れることなく、あくまでも物語の雰囲気を壊さない、それでいてきっちりと笑いのツボを押さえたテキストは、かなりテンポ良く、ストレスをほとんど感じずにサクサク進むことができる。

シナリオの数少ない難点を挙げるならば、入れなくていいところにエロを入れてしまったことがまず一つ。
エロゲーだから、その姿勢はある意味正しいとは思うし、サービス精神も見上げたもんだとは思うが、いくら何でも、敵地に突入してまで3Pとかしないでください。あまりにも緊張感がなさすぎるよ。
しかも、当人たちは主人公除いて戦闘のプロ。そんな油断がどんな事態を招くかは分かりきったことなのでは。

そしてもう一つは、もういちゃもんの類なので軽く聞き流してほしいのだが、あまりにもきれいにオチすぎていて、逆に驚天動地の衝撃というのがないこと。
ネタとキャラを余すところなくきっちり使い、実に手堅くまとめている。それが確かに全体的なバランスが保たれた、高レベルの作品という評価につながったのだから、その選択は間違いではなかったのだが、どうしても落ち着きすぎちゃってる感が否めない。
良い意味での、「そんなアホな!」というツッコミどころがなく、伝奇物の魅力である、ド派手な荒唐無稽さを楽しむ余地が少ないのが残念。

また、ラストバトルをムービーにしてしまったのが痛い。文章の表示スピードが遅すぎて、スピード感や緊迫感がガタ落ち。
決戦という最大の山場では、決してプレイヤーの熱を冷ましてはいけないのに、コントロールを奪われてしまうことで、我に返らざるをえない。
それによって、有無を言わせぬ勢い、というものが削がれてしまったため、最後だというのにイマイチ乗り切れなかった。
しかも、(ネタバレ危険!)主人公も敵も、すでに人としての面影をほとんど残していない形状と化しているため、それまでの感情移入がどうしても途絶えてしまう。
RPGのラスボスなどではお馴染みの手法だが、私個人の好みが、「人の姿でありながら、人としての力を超えた者」なので、見た目が変わってしまうのは違うだろー、
と思ってしまうのだ。
絶望的な状況を打破するため、禁断の領域に踏み込むというのは大好きなシチュエーションであるだけに、余計にそれが
悔やまれる。

以上、色々と小うるさいことを言ったが、かなり多くの様々な要素をここまで盛り込んだのに、それらを破綻することなく、一つのカラーにまとめ上げたパワーは素晴らしい。
ただ、ほんの少々惜しむらくは、すべてにおいて冷静すぎた。シナリオは暴走しすぎれば興ざめだが、燃え系においては、多少突っ走るくらいがいいのだろうということ。
中には、冷静な筆致だが、それでも熱くてシビれる物語を生み出せる虚渕玄という稀有なライターもいるわけだが、これは確実にその系譜をリスペクトし、そこに連なる作品だと思う。

最初から最後まで非常に気持ちよく楽しめる、良質のエンタテインメント。快作、というのに相応しいと思います。
学園伝奇AVGという単語に身悶えできる人はぜひ。決して損のない一本です。

エンドレスセレナーデ

シナリオ音楽演出システム総合評価オススメ度
73★★★

大して期待してなかったのだが、意外に出来が良くてお得感のあったソフト。
(失礼千万ですな……)
急激に二転三転するメインシナリオは結構読ませるし、サブヒロインの扱い方もなかなか。
ただし、既読スキップが判定をスルーすることが多々あり、再プレイが面倒。

結構力作を出して頑張ってるじゃん、と思ったら、いつの間にかメーカーが無くなってました。南無。

遺作

シナリオ音楽演出システム総合評価オススメ度
80★★★★

がっちりした謎解きが楽しめる、本格AVG。
が、とにかくフラグ立てが厳しいので、ボケッとプレイしていると、すぐさま遺作氏によって女の子連れ去られます。
ゲームとしてのキモの部分が嫌らしいくらいにしっかりしていて、侮ってると確実に痛い目に遭うこと間違いなし。
鬼畜や猟奇、とまではいかないが、そういう風味のダークなAVGをやってみたいならオススメ。

うたわれるもの

シナリオ音楽演出システム総合評価オススメ度
85★★★★

「こみっくパーティー」で放心、「まじかるアンティーク」で呆然、「誰彼」で私に絶望を見せつけ、「もうだめだ」と思っていた瀕死のゲームメーカーLeafが、起死回生の一発を放ってくれました。
良作です。エロが薄いこと、難易度が低すぎること、分岐がないこと以外はほぼ文句なし。
よくぞここまで立ち直ってくれた。
かつて気に入っていたメーカーなので、その復活の兆しが見えるこの作品には好意的な評価ができるというもの。

絵、音楽に関しては特に言うことは何もない。さすがの出来映え。
実は私、人外キャラ嫌いなんですが、この作品に関してはそれ自体がストーリーのキモであるし、何より作画がとてつもない綺麗さだったので、マイナスの印象は受けなかった。
チップキャラのなめらかな動きや立ち絵のバリエーションも多く、ことCGに関しては他メーカーを圧倒する仕事ぶりは健在
ただ、イベントCGが少なすぎる。
「このシーンおいしいよなぁ」と思う場面でも、ただ暗転して終わるケースが多かった気が。
せっかくのイベントなんだから、ここ一番、というところで気張ってほしかった。
(まあ、スタッフは死んだかもしれんが……)
音楽は少々曲数が少ないが、シーンの雰囲気を壊さない作風で、ちゃんと仕事を果たしている。

シナリオに関しては、終盤~ラストまでが少々急ぎすぎた。
肝心の謎の部分を「すったかたー」と通り過ぎてしまった感がある。一応きちんと説明はされているので疑問点は残らないのだが、もうちょっと引っ張ってもいいかも……と思わずにはいられなかった。
それだけ、この世界観にひたることができた、ということであるけれども。

散りばめた伏線をすべて回収しようとする努力や、何気ない伏線の張り方には感心した。
まさか、序盤の木登り→落下エピソードがラストに絡んでこようとは……。
単なる作画上の飾りだと思っていた髪飾りに、そんな意味があろうとは……。

派手に意外性があるわけでもなく、奇天烈なキャラ造形をしてるわけでもないが、とにかく丁寧な作り
かなりな数のキャラが出てくるが、一部を重用しすぎてバランスを崩したり、他をないがしろにしたりすることなく、それぞれに印象深いエピソードを用意し、それを主軸に絡めてくる手腕はかなりのもの。
また、緩急のテンポが絶妙で、戦闘を終えた後には必ずちょっと笑えるイベントを数多く用意してあったり、異世界伝奇物という特殊なフィールドでプレイヤーがとまどいや疎外感を覚える前に、流れにうまく乗せてしまうテクニックは賞賛に価する。

また、一歩間違えば殺伐で陰惨な雰囲気を醸し出しそうな「戦国時代」を舞台にしておきながら、このAVGパートでの「笑い」がそうなるのを防いでおり、ゲームとしての雰囲気がとてもいい
プレイしていても、ちっとも嫌な気分にならないのだ。
テーマには種の存続や人としての尊厳、国同士の攻防による理不尽さなど重っ苦しいものがてんこ盛りだというのに。
どこかしら暖かく懐かしい雰囲気と、自分を信頼してくれる心強い仲間たちが繰り広げる、時には笑い、時には涙するエピソードの数々が、一気にラストまでへと導いてくれる牽引力となっている。

その「笑い」の部分も、無理矢理ギャグを言ったり、理不尽な展開に持ち込む奇形的な笑わせ方でなく、あくまでも話の流れ上やキャラの性格を活かした、モニターの前で「プッ」と吹き出す程度の自然さで誘導していて、乗せられていても気分がいい。
(とか言ってたら、このシナリオライターって「BE-YOND」の人だったのね……納得)

ラストの扱いについては賛否両論あるらしいですが、私はあれで満足。
ユズハもちゃんと亡くなってるし(設定上そうなんだから仕方がない。生きてたら興ざめだ)、ひょっとしてハクオロが帰ってきたのかな? と暗示させる程度に抑えてるところが、この話の空気を壊さないでいるような気がしたので。

このゲームの最大の問題点は、何と言ってもその難易度。

めっちゃ簡単すぎ

あのですね、18歳以上のゲーマーならば目をつぶっていてもできますぜ、このSLGパートは。
攻略もへったくれもなし。早い話、全員を攻撃力重視で育て、やられる前に大将をタコ殴りにすればおしまい。
おまけに連撃システムなんてあるもんだから、ますますバランスの崩れること崩れること。
自軍強すぎのため、「ユニットが潰されるかも……」といった、通常のSLGに感じられる緊張感は皆無。
地形効果や騎兵と弓兵、歩兵との相性なんてのがあるからこそSLGは面白いわけで。
まあ、これ自体がイベントの一環、と言えなくもないので、あえて目をつぶりますが。
せっかく、勝利条件は色々とバリエーションを取り入れ、途中のイベントによって変わったり、と工夫を凝らしているのだから、もっともっと戦略性を強めてもよかったと思う。

あとは、魅力的な女性キャラが多数いるので、分岐エンディングも見てみたかった。
ストーリーを魅せるためにはこの手法がベストだ、というのは分かってるんですが、これはちと残念。
その分、エンディングでその後の展開を見せてくれたのはありがたかった。皆、納得できる行く末だったので。

どうもコンシューマーを狙っているような気もするが、戦略パートを改良すれば、十二分に通用する出来映えだと思います。
私はこれ、「エロゲー未体験者」にお勧めの「ファースト18禁ゲーム」に向いていると思う。
ストーリーも魅力あるし、エロも薄いしどノーマルだし(笑)
極めて拒絶反応の薄い、良質のゲームだと思います。
正直、手元に置いてからも半年以上放置してたことを後悔。やっぱ積みゲーはダメね。

EVE~burst error~

シナリオ音楽演出システム総合評価オススメ度
82★★★★

個人的に大好きなゲームデザイナー、剣乃ゆきひろ(現:菅野ひろゆき)氏の作品。

一言で言うなら、上質のエンターテインメント巨編。(コーヒーのCMみたいだ……)
恋愛、謎、スリル、陰謀、アクション、感動、とB級映画的な楽しさが満載。

これは、AVGファンなら絶対に外せない一本だと思う。ゲーム性とシナリオとの融合の仕方が絶妙。
どちらかの要素に片寄るでもなく、微妙なバランスを維持している。

その顕著な例が、ゲーム中盤に出てくるハッキングのシーンだろう。
シナリオ上で自由に主人公を切り替えられる「マルチサイトシステム」を巧みに使い、主人公二人が協力、という立場を設定し、両者の視点からハッキングを進めていく。
これが緊迫感があってすごく良い。
プレイヤーである自分が主人公二人の操作をしているため、切り替えるごとにそれぞれのキャラクターになったような気分で盛り上がれる。

これはゲームならではの手法だ。こういうのを「ゲーム」と呼んで、高く評価すべきなのだ。
シナリオ垂れ流しのゲームなんて、「ゲーム」ですらないんだぞ!! ……閑話休題。

このシステムを支えるべきシナリオは言うまでもなくよくできている。
主人公二人は、立場も境遇もまったく違い、それぞれに抱えた事件もまるで接点がない。
が、ここからの話の絡み合い方が卓抜している。
周到な伏線、多少バレバレ(笑)だが謎の多い人物たち、一つ解決してはまた深まる謎。
そして、これらの点が線としてすべてつながったとき(松本清張ではない)、プレイヤーをあっと驚かせる仕掛けが施されている。
剣乃氏はこういう大風呂敷を広げた話のたたみ方がとても巧い
そして、何よりスピード感がある。
わざわざ貴重な時間を割いてまで、タルいゲームをやりたい奴なんていないだろうから、これはすごく大事なことだ。

登場人物について。
主人公は二人。内調の凄腕調査官まりなと、貧乏だが腕のいい探偵である小次郎。
二人とも若くして腕の立つ人物だが、アクの強い性格であるため、初めは好き嫌いが別れるかもしれない。
が、こういう人物の書き方が、実はこの物語に深みを与えている。

愛した男はスパイだったため、自分の誇りであった職務と心に消えることのない傷を負ったまりな。
自分の恋人の父で、尊敬する上司でもあった男の犯罪を暴かざるをえず、恋人と職を失った小次郎。

どちらもかなりの苦い過去を背負っているが、こういう事情が見えてくると、彼らの言動は決して故なきものではない、ということに得心がいくはず。
そして、こういう痛みを引きずりつつも、自分の道を進むことを止めない主人公たちに、嫌味のないポジティブさを感じる。

私は暗黒波動の持ち主なので、ストーリーに「明るい」だの「前向き」だの「ポジティブ」だの出てくると、「ケッうるせえよバーカ勝手にやってろ」と思う人間なのだが、この作品には、そういうのにありがちな、押しつけがましいまでのメッセージ性がない。
こういう作品は、得てして過去のことはすべて吹っ切ったかのように描かれているが、人間なんて、

そんなに簡単に過去を振り切ることなんてできないし、
常に前向きな気持ちでいられるはずもないし、

むしろヘコむ機会の方が多いだろう、とツッコミを入れたくなるわけです。
そういう、「人としての弱さと強さ」を描くってのは並大抵のことじゃないのに、それを、主軸のストーリーだけで引っ張っていけるはずのこのシナリオに、さらに盛り込んでしまう贅沢さに脱帽。

作品としての完成度はとてつもなく高い。
メッセージを発するためではなく、エンターテインメントの追求として。
一度徹すると決めたら、断固としてそれを貫く。
事実、この娯楽性の追求はかなり確信犯的なものだ。

その精神性の高さが、私が「剣乃ゲーム」を高く評価する所以であり、支持する理由のすべてと言える。
ストーリーテラー、剣乃ゆきひろの名を大きく名さしめたのは、故無きことではない、と納得の一本。

アトラク=ナクア

シナリオ音楽演出システム総合評価オススメ度
86★★★★

実は私、数ある昆虫の中で、蜘蛛が一番嫌いです。
まあそれはさておき、ストーリーやモチーフとしての蜘蛛というのは嫌いじゃない。
というより、むしろ好きだ。

蜘蛛というのはその妖しい背斑模様や、予測のつかない動きで人を翻弄するイメージがあると思うのだが、このゲームは、そういった蜘蛛から連想される淫靡な美しさを持ったストーリーで、実際かなり楽しめた。

正体は女郎蜘蛛であり、その禍々しい美しさを体現したかのような初音。
彼女は宿敵、銀を倒すために、いとも簡単に人を殺し食らう。
あるいは気に入った人物を贄として、彼女の永遠のごく一部を共有させる。
それは、ほんのひとときの戯れや慰みにすぎないものだけれども。

閉じた世界で、閉じた人間関係の中、醜いエゴや欲望といった、心の間隙を突かれる人間たち。
そこには今やたらとブームになっている癒しや救い、といった要素は欠片もない。

大好きだぁぁぁぁぁ!!!(取り乱してすいません)

他人から与えられた救済なんてクソ食らえ、という私、もちろん救いのない話は大好きです。

一番救いのないのは、「カナコの章」。
自分を想ってくれる和久が初音に殺されそうになったとき、奏子は初音に懇願する。「殺さないで」と。
しかし、初音が和久を殺さない、というのは、和久を初音の贄にする、ということ。
それは、自由もなく、初音が飽きるまで終わりもない、和久のような人間には最も縁遠い世界。
でも、奏子は心が通じかけた和久を、どうしても死なせたくなかった。
……そして、和久は贄となった。好きな女の、究極の選択は「それでも死なれたくない」だったから。

このエゴ、この痛み、この苦悩。そして、まったく陽の差さない、澱んだ闇の世界
イケてます。ダークです。心行くまで陰惨な物語を堪能できます。

そして、終章での銀との対決。ここで立場はがらりと逆転する。随所で伏線は張ってあったのだが、これが巧妙で、まさに蜘蛛の巣にかかった感じ。
が、今まで「悪」的な立場だった初音が、伏線が明かされ、元凶が銀だと分かってからは、一転人間的な思考になってしまったのが残念。
人を逸脱した考えをすることに何の躊躇もなかった初音が(そしてそこが魅力だった)、幾人かの人間たちと触れあい、徐々に変わっていく、という設定は別にいい。
(本当は変わらない方が好みなんだけど←心底鬼畜)

が、ここでの心情の切り替えが少し早急すぎた。もう少し引っ張ってもいいかな、と思わずにはいられなかった。
これが、このゲームの数少ないマイナス要素。
あとは、ゲーム性が薄いこと(ほとんど一本道)なことくらいか。
音楽のレベルはかなり高い。メインテーマはしばらく頭から離れない。
章ごとの構成で、各人物にもスポットが当てられており、長さもちょうどよい。

ラストも美しく、はかなく、ひっそりと終わる。

永遠を終わらせた銀と初音の静寂を護るかのように。
現実と訣別し、だが心安らかに一人静かに新たな永遠を生み出そうとする奏子と共に。

閉じた世界にふさわしい、閉じた終わりだ。
構成が非常に練られていて、演出も優れている、良質のゲームだと思う。
ダークなシナリオに抵抗のない人はぜひ。

AIR

シナリオ音楽演出システム総合評価オススメ度
65★★★

「Kanon」で大ブレイクした、Key作品第二弾。が、このメーカー、相変わらず★三つしかつかないなー。
これは完全に私の嗜好のせいもあるのだが。

私は基本的に感動物が嫌いなのだが、それを除いたってこのゲーム、泣きに特化しすぎ。
泣けるシナリオを重視するあまり、文章やテンポ、18禁であるための必然性を犠牲にしているのに気付いてないのか、わざとなのか。
はっきり言ってこのメーカー、これ以上18禁で作品作らない方が得策。

さて、肝心のゲームの方は……ぶっちゃけて言うと、ヤバイ。
シナリオの出来にあまりにも差がありすぎる。
ヒロインが3人しかいないのに、各人が全然平均、拮抗していない。

メインテーマの「AIR」を浮かび上がらせるのに一人は確実に必要。が、後の二人はおまけですか?
以下、今回のシナリオに対するプレイ直後の率直な評価。冷静になれば少しは変わるかも知れないが。

観鈴:60点、佳乃:55点、美凪:30点、過去編(SUMMER):75点、AIR:50点。
総合評価:60点。
厳密に計算すると54点になるのだが、プラス6点は音楽点。

とにかく、音楽は本当に素晴らしい。すげえぜ折戸信治! さすがだ! アンタ天才や!!
各場面場面にこれ以上ないくらいマッチした美しい楽曲。印象的なメロディーライン。

音楽だけになら、90点つけてもいい。

相変わらず、オープニングなんかは本当に出来が良く、かなりの期待を高めてしまう(そしてその後玉砕する)のだが、そのテンションが持続しないのだ。
「田舎」という舞台設定のせいもあるが、とにかく冗漫。だら~っと話が進む。いや、進まない。
中盤の半ば(変な日本語。でもそういう状況)まで、まったく動きのない展開。

だるい、うざい、面倒くさい、の三拍子が見事に揃う

めくるめく展開の好きなスピード狂の私としては、はっきり言って拷問以外の何者でもなかった。

あと、「Kanon」の時にも少し気になってたのだが、キャラかぶってないか? 全員同じ路線だぞ?
つーか、こういうボケ系のキャラしかヒロインとしての存在は許されませんか?
何か、今回は無理矢理キャラ造形をした、って感じがして、ある意味痛々しい。

それにしても、ド素人の勝手な評価とは言え、最高点と最低点のシナリオの差が40点以上ある、ってのはどうかと思う。
外見上、一番私の好みかと思われた美凪のシナリオが、なぜ異常に点が低いかと言うと、考えるまでもない。

キーパーソンがクソガキだからだ。(何度も言うが、私は大変な子供嫌いだ)
そして、シナリオの展開自体が陳腐だからだ。

特に、ハッピーエンドに至る展開。
今どき、あんな使い古されたネタで、しかも小道具のシャボン玉のシーンなんて、毎度殺意を抱くほどうざいくらいに繰り広げておいて(私はここを早送りした)、「それ泣け、今泣け、すぐ泣け」という姿勢が見え見え。
(母親と一緒にメシ食うシーンとかね)
で、最後に「君の妹は空で僕たちを見守ってるよ。だから二人で頑張ろう」なんて腐ったオチだろ、これ。
今どき幼稚園児だって泣かんわ。ユーザーなめんなよ。

天が許しても私が許さん

他は、というと観鈴シナリオは消化不良気味(これには理由があるのだが)だし、佳乃はどうでもいい。
美凪は上記の理由で最低。
つまり、現代編はどれも駄作。
「Kanon」否定派の私でさえ、あれは良作だったんだね、と思わざるをえない。

が、完全におまけだと思っていた「過去編」に一筋の光明はあった。
すべての発端となった、翼人と人との物語。これこれ、こういうのが見たかったのよ。
相変わらず意外性は薄いが、少数に絞ったキャラ設定で、適度に長く、展開も早く、設定もそれなりにおいしく(八百比丘尼だからね)、演出も心得ている。

何でここまでできるのが、あんなお粗末な現代編を作っちゃうんだろう?

という疑問はさておき、このシナリオはとても良かった。
すべての因縁を始めるにふさわしい、悲しく、はかなく、美しい物語。
が、思うにこのメーカー、こういう「大風呂敷広げる系」の壮大な話の組み立てが下手だ。
収束させるまでの展開が、あまりにも長すぎて無駄が多いのだ。
逆に、人の業、精神描写、に関する演出は卓越している。
「呪い」の設定なんて本当に秀逸。それに、現代編の謎が解き明かされる瞬間の快感なんてのは、結構計算されてると思うのだが。
そして、わずかな希望と、次編に余韻を残すラスト。
おお、良い話じゃん!!(過去編だけなら)
が……ここで一瞬でも気分を良くした私は甘かった。「AIR」の悲劇はこれに留まらなかったのだ。

その名もズバリ「AIR」編。頼むから、叫ばせてください。

これを書きたいがためのシナリオだったら、もっと練ってこんかい!!

長い。長すぎる。無駄に長い。面白くない。
とにかく、(ネタバレ危険!→)観鈴が死ぬまでの経過が長すぎる。とっとと逝ってくれ。いや、マジで。
じゃないと、感動できるもんもできない。
家族の絆なんて描いている場合じゃなかろう。1000年前の呪いから解き放たれる、という一番大きい命題があるじゃん。
(だから「the 1000th summer」なんだろう?)

テーマを一つに絞るべきだ。複数やろうとするからややこしくなるし、長くなる。
ただ、このラストシーンはとても好きだ。見る人によっては、バッドともハッピーともつかぬエンディング。
このラスト、私の解釈では、(ネタバレ危険!→)神奈の呪いは解け、柳也と共に転生し、違う時間軸の観鈴と往人に遭遇してることになってるのだが。
(全然違ってたらどうしよう……)

そして、そのとき呟く(ネタバレ危険!→)「僕らには、始まりを」「彼らには、過酷な日々を」このセリフを表示させたセンス、というのは抜きんでており、それはものすごい破壊力を持っている思う。

やりようによっては傑作になりうる可能性を多大に秘めていただけに、あまりにも残念すぎるゲームだ。
まあ、世間の評価はおおむね良好なようなので、これ以上は何も言うまい。
プレイしたばっか、ということで、レビューも無駄に長くなってしまったし。

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