| シナリオ | 絵 | 音楽 | 演出 | システム | 総合評価 | オススメ度 |
| 8 | 7 | 6 | 8 | 7 | 82 | ★★★★ |
個人的に大好きなゲームデザイナー、剣乃ゆきひろ(現:菅野ひろゆき)氏の作品。
一言で言うなら、上質のエンターテインメント巨編。(コーヒーのCMみたいだ……)
恋愛、謎、スリル、陰謀、アクション、感動、とB級映画的な楽しさが満載。
これは、AVGファンなら絶対に外せない一本だと思う。ゲーム性とシナリオとの融合の仕方が絶妙。
どちらかの要素に片寄るでもなく、微妙なバランスを維持している。
その顕著な例が、ゲーム中盤に出てくるハッキングのシーンだろう。
シナリオ上で自由に主人公を切り替えられる「マルチサイトシステム」を巧みに使い、主人公二人が協力、という立場を設定し、両者の視点からハッキングを進めていく。
これが緊迫感があってすごく良い。
プレイヤーである自分が主人公二人の操作をしているため、切り替えるごとにそれぞれのキャラクターになったような気分で盛り上がれる。
これはゲームならではの手法だ。こういうのを「ゲーム」と呼んで、高く評価すべきなのだ。
シナリオ垂れ流しのゲームなんて、「ゲーム」ですらないんだぞ!! ……閑話休題。
このシステムを支えるべきシナリオは言うまでもなくよくできている。
主人公二人は、立場も境遇もまったく違い、それぞれに抱えた事件もまるで接点がない。
が、ここからの話の絡み合い方が卓抜している。
周到な伏線、多少バレバレ(笑)だが謎の多い人物たち、一つ解決してはまた深まる謎。
そして、これらの点が線としてすべてつながったとき(松本清張ではない)、プレイヤーをあっと驚かせる仕掛けが施されている。
剣乃氏はこういう大風呂敷を広げた話のたたみ方がとても巧い。
そして、何よりスピード感がある。
わざわざ貴重な時間を割いてまで、タルいゲームをやりたい奴なんていないだろうから、これはすごく大事なことだ。
登場人物について。
主人公は二人。内調の凄腕調査官まりなと、貧乏だが腕のいい探偵である小次郎。
二人とも若くして腕の立つ人物だが、アクの強い性格であるため、初めは好き嫌いが別れるかもしれない。
が、こういう人物の書き方が、実はこの物語に深みを与えている。
愛した男はスパイだったため、自分の誇りであった職務と心に消えることのない傷を負ったまりな。
自分の恋人の父で、尊敬する上司でもあった男の犯罪を暴かざるをえず、恋人と職を失った小次郎。
どちらもかなりの苦い過去を背負っているが、こういう事情が見えてくると、彼らの言動は決して故なきものではない、ということに得心がいくはず。
そして、こういう痛みを引きずりつつも、自分の道を進むことを止めない主人公たちに、嫌味のないポジティブさを感じる。
私は暗黒波動の持ち主なので、ストーリーに「明るい」だの「前向き」だの「ポジティブ」だの出てくると、「ケッうるせえよバーカ勝手にやってろ」と思う人間なのだが、この作品には、そういうのにありがちな、押しつけがましいまでのメッセージ性がない。
こういう作品は、得てして過去のことはすべて吹っ切ったかのように描かれているが、人間なんて、
そんなに簡単に過去を振り切ることなんてできないし、
常に前向きな気持ちでいられるはずもないし、
むしろヘコむ機会の方が多いだろう、とツッコミを入れたくなるわけです。
そういう、「人としての弱さと強さ」を描くってのは並大抵のことじゃないのに、それを、主軸のストーリーだけで引っ張っていけるはずのこのシナリオに、さらに盛り込んでしまう贅沢さに脱帽。
作品としての完成度はとてつもなく高い。
メッセージを発するためではなく、エンターテインメントの追求として。
一度徹すると決めたら、断固としてそれを貫く。
事実、この娯楽性の追求はかなり確信犯的なものだ。
その精神性の高さが、私が「剣乃ゲーム」を高く評価する所以であり、支持する理由のすべてと言える。
ストーリーテラー、剣乃ゆきひろの名を大きく名さしめたのは、故無きことではない、と納得の一本。