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Bullet Butlers

シナリオ音楽演出システム総合評価オススメ度
84前作プレイ済:★★★
前作未プレイ:★★★★

今どき珍しいくらい、実に王道のファンタジーAVG。
そして、「執事」というものにハンパでないこだわりを感じさせる展開で、まさにタイトルに偽りなし。
ちなみにもちろん私は、戦う執事は大好物です。
ただ、良くも悪くも、王道であるがゆえに意外性には欠け、前作「あやかしびと」ほどの高揚感はなかった。
全体的には非常に良くまとまっていて、大抵の人が楽しめるエンターテインメントであるのは間違いないのだが。
どうしても前作の影がちらついてしまい、自分でも意外だが、のめりこむ、というほどではなかったのが残念。

絵は前作と同様、中央東口氏。
以前からは女性キャラの作風が少しだけ変わったようだが、相変わらずイッちゃってる殺人鬼とか抜群に上手い。
(※褒めてます)
また、渋い爺様とか亜人とか、とにかく通常のエロゲでは要しないはずのキャラが大変によろしい。
背景も、世界観を壊さないようきちんと配慮されたもので、好感が持てた。
両方とも塗りも丁寧で、質には問題がなかったのだが、物語の尺の割に使い回しが散見されたことが残念。
特に、戦闘シーンのバリエーションがやや少なく、できれば別の一枚絵を用意してほしかった箇所もあった。

システムは前作より大幅に改善され、大変好印象。ユーザーの声にちゃんと耳を傾けているのだな、と感心した。
何と言ってもボリュームのある作品なので、既読スキップが超強力なのがうれしい。
キー一つで一瞬にして未読部分に飛ぶので、スキップしている間に待たせられるといったイライラもない。
これは今後、主流になるべきシステムだと思う。もちろん、制作側はフラグ管理が大変にはなるだろうが。
バックログにきちんとルビが表示されるのも良い。特に今作はかなりルビを多用しているので、ログを辿ったときにルビがないと何じゃこりゃ、ということになりかねないので。
ただ、戻れる量も多く、音声再生にも対応しているのはいいのだが、表示のされ方が今一つ。
メッセージボックス内に表示されたものがそのままログとして表示されるので、奇妙にスペースが空いていて若干読みにくい。
手間を考えると仕方がないのかもしれないが、文に重きを置くAVGとして、これは改善の余地あり。

音楽は、前作同様可もなく不可もなく。
所々、おっと思わせる曲もあるのだが、無音の箇所も多く、同じような曲も多く、大した印象に残る感じではない。
ただ、SEの出来はなかなか良かった。
キャストは前回同様やりすぎ
声優ファンなら、制作サイドはいったい何を考えてるんだとツッコミたくなるほどの超豪華キャスト。
このキャストを起用して、本当にこの価格で売ってペイするのか疑わしくなるほどだ。
中の人ファンなら、TVよりこっちの方が喋るセリフも時間も長いだけ、お得な気分になれることうけあい。
むしろ、これだけのキャストを用意する番組自体がないよ。
一部、前作とも被ってますが、多くは皆実力派、ビッグネーム揃いで、もちろんキャスティングもばっちり。

演出はこれまたド派手。
アニメはないけれど、カットインやスクロール、拡大縮小と各種エフェクトを存分に駆使しており、迫力ある戦闘シーンの見応えは充分。
また、へたれ絵も用意されているが、今回は舞台が硬質な設定を持つ異世界であるため、少し浮いている印象を受けた。
前作は舞台が日本、そして学園物であったので、そこまでの違和感を感じずに楽しめたのだが。

シナリオはとにかく、「惜しい」の一言。
これだけの魅力的な世界観、広げればもっと広げられたであろう風呂敷を、無理に途中で畳んでしまった印象が否めない。
剣と魔法(と銃)のファンタジーだったら、最後は魔王が復活し、仲間と共に世界の命運を決する戦いに挑む展開に決まってる! と勝手に意気込んでいただけに、壮大な内輪もめで収まってしまい、思わぬ肩すかしを食らった気分だ。
時間がないのか、開発費がないのか、その他諸々の事情によるものかは分からないが、この設定なら、DVD2枚組のボリュームにだって耐えうる仕様であるだけに、残念で仕方がない。
おそらく、東出氏が小説で出してたらもっとボリュームがあったと思う。

私としては、全世界に散る”末裔たる者”とその執事たちが入り乱れてすったもんだという展開を期待していたのですよ。
「バトラーズ」というくらいなのだから。
それに、個人的趣味で申し訳ないが、老獪な初老執事が大活躍しなかったのが悔しくて×100(以下略)
執事と言ったら初老! 片眼鏡! 燕尾服! それが三種の神器なのにウワァァァァ!(バカですいません)

閑話休題。

もちろん今作には、そんな個人的趣味を補って余りある多数の魅力的キャラが存在する。特に男が。
東出氏は本当にキャラ造形とキャラ立てが抜群に巧い。いらないキャラ、どうでもいいキャラというのがおらず、それぞれにきっちりと活躍の場を与え、それを描ききるという点では、希有の才能を持っている。
特に、ガラの格好良さは異常。リザードマンなのに!
私は通常、人外キャラは非常に苦手、もちろん論外なのだが、それでもここまで格好いいと思わせる力がすごい。
もっとも、剣と魔法と銃と、ゴブリンだのドワーフだのエルフだのが普通に文化的生活を過ごしている日常とがミックスされた、とんでもない世界観を、違和感なく描いている時点でかなり非凡なのだが。

シリアスと掛け合いの緩急のつけ方も相変わらず巧みだし、無理矢理笑わされている感じがなくて、自然に楽しめる。
何より、肝心の執事がもうそれはきっちりと執事していて、最近の、「流行だから一応執事ってことにしときましたー」みたいないい加減さが微塵もなく、その徹底ぶりがとてもうれしい。
そういった作品自体の雰囲気は抜群だし、キャラたちが皆魅力的なこともあり、プレイ中、退屈や中だるみすることはないのだが、それでも、傑作であった前作とどうしても比べてしまい、あの破壊力には届かないのだよなあと我に返ってしまうのが残念でならない。

特にバトルが、使えば命を削ると分かっている「悪鬼喰」を多用しすぎている感があり、どうも重みに欠けるのだ。
だから、何も知らない最初と、総力を尽くすラストバトルこそ燃えるものの、中盤はピンチらしいピンチとして受け取ることができず、また、ピンチを気力で乗りきるといった、ある種体育会系的なノリにも辟易。
そりゃ、何の伏線もなしに特殊能力が発動とか、ご都合な展開だとうんざりするが、毎度が毎度、「イヤボーン」ならぬ「ご主人様ボーン」では、最後に勝つのは主人公に決まってる。
これでは、いかなバトルシーンを用意しても緊迫感が薄れてしまうというもの。
もっと、銃撃戦の中にも頭脳戦とか、バリエーションをつけてほしかった。
なまじ、古代竜VS欠落者のドラゴンブレス対決とか、不死者VSドラゴンブレスとか、拳銃使い同士の早撃ち対決とか、ラストバトルの燃え度がハンパでなかっただけに、そこが返す返すも残念。

各エピソードの処理の仕方にはどれもそつがなく、各敵役にきちんとスポットが当てられ、破綻なく着地しているのだが。
全体的にこぢんまりとしすぎていて、突き抜けた爽快感というものが薄い。
予定調和には予定調和なりの美しさや良さがあるのは分かる。コードを守るというのが実は意外に難しいことも分かる。
だが基本、フィクションというのは「何でもあり」だ。プレイヤーを騙し通せるのなら、何をやったって構わない。
だから、もっとひとつの街だけでなく、あらゆるところで暴れまくってほしかった。
これだけ広大な舞台を持ち、それを使える設定なのだから。

だが、各ラストの、負けた敵の扱い方は非常に胸に残った。ある意味、各キャラのエピローグより燃える。
特に(ネタバレ危険→)シドとアルフレッド。虚無から解放された二人が、今度こそ本当の主従の関係を取り戻すというエピソード。
やむをえない事情を背負い、本来ならば戦いたくなかった相手だからこそに許される救い。
トゥルールート、大団円に相応しいエピソードであると思う。

できることなら、追加シナリオやファンディスクを熱望。続編でも可。
それだけ世界観は魅力的だった。キャラ立ちも前作に勝るとも劣らないほど良かった。執事? もう最高だ。
でも、もっと高く飛べるはずだったのに、自らを律しすぎてかえって中空飛行になってしまった。そんな感じ。
もちろん、あらゆる部分で手堅く、決して失敗作でないことは認める。むしろ、かなりなレベルで誰もが楽しめる一作なことは間違いない。
ただ、前作を知らなければ。

よって、どちらも未プレイの方は今作→前作とやるのがいいかもしれない。
きちんとした執事物を求め、ついでにファンタジーの世界観についていける人には大変お勧め。
相当に力量のあるライターであることは事実なので、次作はもっと、いい意味ではっちゃけてくれるとうれしいのだが。

Forest

シナリオ音楽演出システム総合評価オススメ度
87覚悟があるなら
★★★★

名作、「腐り姫」の製作スタッフによるライアーソフト第11弾。
私にとっての「腐り姫」は、マイベストエロゲートップ5に入るほどに文句なしの名作だったため、今作も発表当時から気にはなっていたが、あまりにも遊び手を選ぶという評に二の足を踏んだのと、他の膨大な積みゲーを片付けるのに忙しく、しばらく放ったらかしになっていた。
ところが、「いいからやれ」「とにかくやれ」「すぐやれ」という意見が非常に多く、それほど望まれるならと覚悟を決めたとたん、ちょうどメーカーサイトでのダウンロード販売が開始に。
こういうのも悪魔の導きと申せましょうか。

さて、もうどこのレビューサイトでも言及されていることだが、あえて言います。
この作品、ありえないほどに受け手を選びます。合う人にとってはべらぼうに琴線に触れる作風なのだが、合わない人は5分でリタイアする可能性大。
それほどまでに冒頭から不条理でナンセンスな展開。もちろんプレイヤーに対するフォローというものは一切なし。
むしろ、「ついてこれないならこなくていいよ」という、エンターテインメントにあるまじき傲岸不遜ささえ感じさせる。
だが、その気位の高さがある種の様式美を生んでもいて、それが心地良いとすら思える。
正直、エロゲとしてはまったくと言っていいほど実用性に欠けるが、それでもこのフィールドじゃないと出てこなかったであろう作品。

システムはおおむね良好。かつて、初版に修正ディスクを同梱するという離れ業さえやってのけたライアーとは思えないほどバグもなく、各機能もスムーズ。
2年前の作品のためか、ホイールでのバックログ閲覧に対応していないのが少々気になったが、それくらいか。

絵は非常にクセがある。シナリオ同様、かなり好き嫌いが別れる作風。
ただ、現実世界を浸食して突如現れる「森」や、妖精や異形の生物がこれでもかと登場するシュールな世界観の今作では、この一風変わったデザインや色彩などが、作品を構成する上でかなり重要な要素となっていると思う。
私自身はちょっと子供くさすぎてあまり好きな絵柄ではないのだが、この作品にはこの絵でなくては、とも思う。
特に登場人物たちの衣装は、まさに舞台衣装とも言うべき奇抜さなのだが、これが実に作品とマッチしている。
また、頻出する人外のキャラクターたちにはテクスチャー処理が施されており、奇をてらったデザインやリアルさを持ち込むより、ずっと気が利いていてなおかつ高い効果を上げている。
背景は写真取り込みだが、現実のものなのに奇妙に現実感を喪失した雰囲気が出ていて面白い。

音楽はもう本当に素晴らしい。「腐り姫」のときも思ったが、このレベルはハンパでない。
中途半端なボーカル曲などは使用せず、コミカルからシリアスまで、作品世界へのマッチングを徹底的に意識した仕事が、この強烈な世界を彩る重要な要素の一つとなっている。
耳触り良く、作品を盛り上げて邪魔をせず、かといって忘れてしまうような印象の薄さではなく。
BGMというかなり限定された制約を受け、しかもどんな既存作品とも違う独自の世界観を持つ作品に対し、こうまで質の高い楽曲を制作した音屋さんたちの仕事にプライドを感じる。

キャスティングも非常に巧い。始めはどのキャラも何だか大仰でわざとらしい演技だと思っていたのだが、実はそれが演出だということに気付いてからは、どんどんキャラクターが生き生きしてくる。
そこにはミスマッチということがまったくなく、特にキャラの二面性の表現が図抜けている。
普通の作品で求められる自然さとかかわいらしさの他に、特殊な節回しや演劇のような演技を求められる作品であるだけに、収録時の苦労は並大抵でなかったに違いない。

その音声を実に効果的に利用した演出も光った。
セリフの一部はメッセージボックス内にテキストが表示されない。だが暗転した画面のバックで流れるセリフは実に印象的
で、否が応にもプレイヤーの想像力をかき立てる。
実は最初、いきなり画面が黒くなったので「もしやバグか!?」と疑った。ライアーさんごめんなさい。でも過去の所業が悪いと思うの。
主人公のセリフがテキストが表示されるのを待って会話相手の音声が再生され、あたかも主人公(プレイヤー)とキャラが
リアルに会話しているかのような仕掛けもある。
この場合も会話相手のテキストが表示されないので、またまた「バグか!?」と疑った。ライアーさんごめんなさい。
でも以下略。

さて、プレイヤーの間では思いっきり見事に賛否両論が別れるシナリオ。
あらかじめ言っておくと、今回はシナリオの中身については大して言及していない。否、できない。
だって、やってみなければ分からない仕様、説明のしようがない作りになってるんだから仕方がない。
なので今回は、主に作品構成についての考察となるのでご了承を。

かつて、こんなにエロゲとして用を成さないのに、エロゲのフィールドを必要とする作品ってあっただろうか。
いわゆるエロゲのマーケットというのは、コンシューマーに比べたら実に狭小ではあるけれど、その代わり手堅いペイが見
込める場でもある。
さらに、プレイヤーは18歳以上であるという事実を約束されている。
つまり、プレイヤーがある程度の知識と思考力を備えているということを前提にできるわけで、余計な説明もお子様に対するフォローもいらない、その分、作品世界を練ることができるフィールドということだ。
そうして編み上げられたのが、類がないほどに実験的なこの作品。
この限られたフィールドの、限られたプレイヤーをさらにふるいにかけるような好戦的な姿勢。
その気の強さと挑発とに思わずニヤついてしまう。
クリエイターはこれくらい自分の世界を信じていなければいけない。自身の世界にすらぐらつきを覚えているようでは、たかがエロゲオタ一人も騙せるものか。

冒頭にも書いたが、この作品にはプレイヤーが知らないことを説明してくれる親切さは皆無、むしろ「知らないお前が悪い」
と言い切ってしまうような高慢ささえ漂う。
だがその突き放しを「まことにごもっとも。私が悪うございます」と認めざるをえないほど、奇妙な説得力と有無を言わせぬ緊張感、そしてプレイヤーの足元を危うくする酩酊感に満ちている。
雑多なジャンルから様々な、特にイギリス児童文学の分野からは有名無名問わずこれでもかとネタを盛り込んであり、その
姿はさながらカオスのワンダーランド。
ともすれば衒学的で鼻につくとされてしまいがちなそれを、作品全体に漂う適度な胡散臭さやいい加減さ(※どちらも褒め
言葉です)がうまい具合に和らげていて、ただただ作品に翻弄され、踊らされるのが楽しい。
明らかに虚構だと分かっていて、なおかつそれを真剣に楽しむというファンタジーやおとぎ話のある種シニカルな作法を十二分に知り尽くし、それを手玉に取ってみせたライターの力量に脱帽。

今作では、作中のキャラが「自分が誰かの物語に内包されるキャラクター」であるということに気付くメタ構造が発生する。
下手なライターが書くとわけが分からなくなる上、反則を犯された気分になってげんなりしてしまう危うい手法(だが昨今やけに流行している)だが、それが実に違和感なく行われている。
自然にその展開へと誘導していく構成も見事なら、「何が起こっても不思議ではない」ナンセンスな世界観をプレイヤーに納得させるテクニックも見事。
それを可能たらしめているのが、実に読みやすく分かりやすい、洗練されたテキスト。
ときにリズミカルな韻を踏んだり、言葉遊びを仕掛けたり、緩急の差も絶妙でテンポよく読み進められる。
本当に力のあるライターというのは、どんな猥雑な言葉を使っても、下世話なエピソードを書いても、決して作品自体が下品にはならないのだよ。
その辺の二流三流ライターは、売れている作品の上辺の世界観だけ真似るんじゃなくて、こういう基礎力をもっと見習え。

星空めてお氏の作品には品がある。エロゲに品とか持ち出すなと言われればそれまでだが、自身が構築した世界観に
対するプライドと、たとえ業界の流れを無視してでもこの作品を作り上げるという気概。
それに絵と音楽が見事に融合し、かつてない独自の世界へと到達したと思う。
その姿は、ある種クリエイターにとって理想の形だ。私が知る限り、業界での評判はやけに高かったのを覚えている。
会社組織である以上、ペイしなければいけないのが第一だが、あえて危険を冒してでもこの作品を作り上げたことの意味。
萌え、燃え、泣きといった通り一遍のカテゴライズに当てはまらず、荒野を切り開いてそこに立とうとする姿勢。
会社として(いい意味で)暴挙に出たとしか思えない行為だが、想像力を売り物にする商売、これくらいできないでどうする
という最高の見本。

私はもう大好きです。面白い面白くないというレベルを超えて、正直震えました。
たかだかCD二枚の作品が、DVD数枚組という馬鹿みたいなボリュームの作品をいともたやすく組み伏せる、その圧倒的
な力量差を見せつけてもらったから。
クリエイターを目指す人、シナリオ重視派だが最近はどうもなぁとエロゲに食傷気味の方はぜひ。

PP -ピアニッシモ- 操リ人形ノ輪舞

シナリオ音楽演出システム総合評価オススメ度
59★★

いやあ、素晴らしい。
私はかなり気が短く、ストライクゾーンも狭い方なので、好みに合わない作品はこれまでも数限りなく存在したが、ダメさのあまり爆笑を誘った作品はこれが初めてだと思う。
もうね、笑うしかないのですよ。
プレイ中、レビュー用に気付いたことをメモしているのだが、まさか中盤にもならないうちに、ツッコミだけで丸々一ページ埋まってしまうなると。
侘び・寂びが昇華すると「軽み」となるわけだが、(゚Д゚)ポカーンと怒りが転じれば笑いになるということを発見しました。

そこそこの評価を得、コンシューマーにも移植された処女作、「カルタグラ」
その、とりあえずは順調な滑り出しを果たしたInnocent Greyの二作目である今作は、前作と同じく昭和初期を舞台にした「スタイリッシュミステリィAVG」。
前作の雰囲気は抜群に良かったし、何より杉菜水姫氏の原画は大好き、音楽もその道で定評のあるLittleWingが担当。
まあ、よっぽどのことがなければ安全牌かな? などとたわけた考えをしていた私はまだまだ甘ちゃんでした。
この業界、どこで何がどうなるか、なかなか読めないよね!(血涙)
まさか、前作で酷評したシナリオに輪をかけて凄まじいものが出てくるとは。
己の修行不足を痛感したよ。

とりあえず、シナリオ以外は安定の一言。
絵は相変わらず素晴らしいクオリティ。女の子はかわいいし、ボリュームも申し分ない。殺害シーンですら美しい
エロゲにありがちなけばけばしい毒々しさはなく、落ち着いた絵柄と色彩で、それが作品世界ととてもマッチしている。
立ち絵の数はさほどでもないが、表情はくるくると変わって物足りなさはあまりなかった。
当然、背景も大変美しく、細部に手抜きのない、きっちりとした仕事。

今作の売りの一つである音楽も、当然レベルが高い。
私はジャズに関しての造詣がまったくないので詳しいことは分からないのだが、どれも耳触りよく、特に挿入歌の出来は相当のもの。
こんな曲が、まだダメさ加減のさほど発露していないプロローグでかかっちゃうんだから、そりゃあ期待を持っちゃうってもんでしょう、お客さん?(そしてほどなく轟沈する羽目になったのだが)
キャストは主人公以外は問題なし。
主人公だけはどうもいまいち合っていない気がするのだが、これはセリフが陳腐すぎるからかもしれない。
ちなみに、一番合ってたのはたこ焼き屋のオヤジ。なぜこんなところに力を入れる、Innocent Grey。

システムは可もなく不可もなく。前作とまったく変わらない。
ただ、今作は描画や音声再生にもたつきがあったため、どうも鈍重な印象が拭えない。
スキップ自体は高速なのだが、共通パートが多すぎるため、結果的にずーっとスキップ状態という箇所が頻出し、あまり
速さを体感できなかったせいもある。
こういうシナリオにするのであれば、すでにいくつかのメーカーで取り入れられているシーンスキップ機能を実装すべき
ではないだろうか。
また、細かいがどうしても気になるのが、ルビがカタカナなこと。読みづらいことこの上ない。
日本語はひらがなが基本です。訓読みするものにまでカタカナを振るのは疑問。

前作では好印象だった演出も、今回はシナリオのダメさ加減のせいで、完全に空回りしてしまっている。
見せ方はとても好みなのだが、いかんせんウインドウに表示されるメッセージがあまりにも野暮ったく、作品が謳っている
「スタイリッシュ」とは大きく乖離しすぎていて、それだけでげんなりしてしまうのだ。
AVGの主体は何と言ってもテキストにあるのだから、お願いだからライターはもっと気を使ってほしい。

さて、この怒りっぽい私ですら怒りを通り越して、思わず爆笑してしまったトンデモシナリオ。
主人公の空気っぷりは、間抜けで腑抜けでヘタレだった前作をも軽く凌駕しました。
(詳しくは「カルタグラ」レビュー参照)

もうすっごいです。この主人公、何もしません。
事件に巻き込まれてからというもの、引きこもり→酒浸り→女と寝る→どん底→引きこもりの周回コース。
口を開けば、「チッ――」「フッ――」「五月蝿えよ」のどれか。
ちなみに、これほど顔をひっぱたかれる主人公も見たことありません。
幼なじみに殴られ、怪しい組織の女幹部に殴られ、数十分に一回は殴られる効果音を聞いた気がする。
いや、こんなヘタレ、ボコボコに殴られて当然なんだが。
挙げ句の果てに、シナリオ終盤で敵のボスに立ち向かおうとしたところ、脇キャラに「お前の敵う相手じゃない」と、あっさり役立たず宣言されてお役御免に。
肝心のおいしい役どころを脇キャラにとられた挙げ句、その立ち回りをヒロインとポカーンと眺める主人公。
前代未聞の空気っぷりです。むしろ存在意義ゼロ。ていうか、いないところで勝手に話が進むんですが、このシナリオ。
これ、主人公の一人称視点はない方が物語としてまとまりがいいんじゃないのか。

おまけに今回のヒロインときたら、「明るく前向きでちょっとドジっ娘、一生懸命で健気」……ってあれ?
お前、前作で私にメッタ切りにされたヒロインとまったく同造形やないけ!
しかも、こんな頭の悪いヒロインにいともたやすくコロリとまいってしまう主人公。頭の中身まで空気か。

ミステリとして? そもそも破綻しているものを論じることなどできませんよ。
誰が頭を悩ますでもなく、フーダニット・ハウダニット・ホワイダニットのすべてが、序盤から唐突に登場してきたキャラによって全部ぺらぺらと語られてしまうのだから。
これなら、重度の反則を犯していたとはいえ、前作の方がいくらかまともなミステリだった。少なくとも体裁上は。

凶器が常人の理解の範疇を超える代物であるのはいい。それがきちんと説明されるなら。
動機が余人の与り知らぬところによるものでもいい。それによって犯人の怪物性がより鮮やかになるであろうから。
だが、この二つをミックスして、危険な化学反応を起こすのだけはやめてください。ウフフアハハ、ミステリファンなめんなよ。
まるで、物語ど真ん中に差し掛かったところで、いきなり解答編が登場する乱丁本みたいだ。

とにかくシナリオ全体に行き当たりばったり感が漂い、素材の扱いも非常にお粗末。
昭和十一年、二・二六事件が起こった年の夏というのだから、翌年には日中戦争が始まろうかという時代設定だ。
そんな頃、酒(特に洋酒)はかなり高級品であるはずなのに、それをバカスカと惜しげもなくあおりまくる人物たち。
いくら馴染み客だろうと、考えられないだろうよ。
また、ライターの脳内でのみ既知情報となっている設定が、何の前触れもなく唐突に出てきて大した説明はなされない。
おまけに、あるルートクリア後に発生する真犯人の独白ルートでは、死んでいないはずの人間が死んでることになっている。
自分で書いたシナリオぐらい、自分で管理できんものか。ましてや、別に複雑に入り組んでいるわけではなく、ほとんど
一本道の、そこから派生するエピソードがちょこちょことあるだけの構造なのに。
どう考えても都合のいい部分だけをつなぎ合わせ、思いつきで書いているとしか思えない。
だから、いきなりあさっての方向から、「実は私は――」とか「実は凶器は――」という突飛で唐突な展開がやってきて、
プレイヤーはただただ呆然。
何とかこのトンデモを理解しようと頑張っても、そんなこちらの努力を嘲笑うかのようにどんどん物語は進む。
せめてもっとキャラの掘り下げをしておくとか、伏線を張っておくとかならともかく、そういったものは一切なし。
肝心のラストをかっさらっていくキャラにしたって説明が薄く(そしてまずく)、突然現れて大立ち回りを演じ、とっとと退場
するという怒涛の意味不明展開となるため、置いてけぼりの主人公=ユーザーはポカーン。
そして、本編と真犯人の独白ルートを経て、さらに現れた最終ルート。


超・蛇足。


実は私がこの作品のシナリオで唯一評価したのが、(ネタバレ危険→)心を通わせたばかりのヒロインが、翌朝自分の隣りで死体となっているという、いかにも残酷でけれん味に満ちたエピソードだったのだが。
最終ルートではそれさえなかったことにされました。ご臨終。チーン。
しかも、ヒロインのセリフの端々に、(ネタバレ危険→)(自身は登場人物であるのに)他ルートの存在を認識しており、そこでは自分が殺されていることまで気付いてる記述が。
トンデモも ここまでくると 超越者(一句できた)
アホかー! おこがましくも「ミステリ」を名乗るのなら、せめて最後までそのプライドぐらい貫いたれや。
ここまで無節操にどうしようもない作品、本気でありえません。ウフフアハハ、ミステリファン、本気でなめんなよ。
もう、私が笑うしかないと評した理由がお分かりいただけるだろうか。

が、これまでこうして挙げてきたすべての点に目をつぶっても、これさえ直してくれるならもうそれでいいと思えるほどの
最強最大の欠点がこの作品には存在するのです。


日本語の用法がめちゃくちゃです。小学校からやり直せ。


いやしくもシナリオライターという文筆業に類する人間が、こんな基礎すら無視した日本語表記を読ませるということは、プレイヤーに対する冒涜としか思えない。
それで特別な効果を上げているならともかく、上がっていくのは血圧と怒りゲージのみ。
すでに私のリミットゲージはとっくにブレイクして爆笑までいってしまったわけだが。

まず、何のヒネリも工夫もない、同じ表現の使い回し。酒場においては、「氷が爆ぜた」「氷が爆ぜた」「氷が爆ぜた」。
別に炭酸入りの酒を飲んでるわけでもないのに、氷爆ぜすぎだよ。ドンパッチか?
主人公のセリフは、「チッ――」「フッ――」「五月蝿えよ」。うるさいのはそれをわざわざ漢字表記で連発するお前だ。

やたらと多用されるダッシュと三点リーダ。しかもそのほとんどが、一つの文中で二つを併用している有様。
「――五月蝿えよ……」「……五月蝿えよ――」
この二つの違いを、誰か私に教えてください。国語は得意科目でしたが、作者の心情をまったく忖度できません。

そして、形式名詞、補助動詞をことごとく漢字表記としている誤用
「旨く行く」「という物は」「~して見た」「ぼった来る」等々、挙げればきりがない。
一、二箇所ならIMEの変換ミスや単なるチェック漏れで済むだろうが、すべてにおいてこの表記となると、ライターは単に無頓着というよりも、それが正しいと思って使用しているとしか考えられないのですが。

そんな表記ありえません。何で普通にひらがな使えんのだ。今どき、二次創作の書き手だってもっと気を遣ってるぞ。
今まで数々の作品をプレイしてきたが、ここまで壊滅的な日本語の使い手はいなかった。かの有名な「感感俺俺」だって、全体的にはこれよりもうちょっとマシだったよ。
もうこのライター、私の中では「キング・オブ・日本語の破壊者」決定。
ゲームも後半に入ると、次はどんな珍表記が現れるかと心待ちにしてしまうほどひどい狂いっぷりに、私が笑うしかないと
評した理由が以下略。

以上、二作目にして素晴らしいコケっぷりを披露してくれたわけだが、シナリオ以外の作品雰囲気は本当に良いので、あまり深いことを気にしない人なら特攻してもいいかもしれない。
要するに、このブランドに言いたいのは、「まともなシナリオライターを可及的速やかに登用すべし」ということだ。
せっかくの絵も音楽もこれでは台無し。この二つは業界でもトップクラスであると思うだけに、余計に惜しい。
この点を解決しないままでは、次作から確実に行き詰ることになると思うので、消えた有象無象ブランドとならぬよう、総力を
結して取り組んでください。
私はここの作品の雰囲気はかなり好みなので、できれば消えてほしくない。だからこれは真剣なお願い。
あと、あまりにも笑いすぎて心底悲しくなったので、もう笑える作品はいいです。……決して二度目があると思うなよ

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