機神飛翔デモンベイン

シナリオ音楽演出システム総合評価オススメ度
基本部分 8
ACT部分-2
82★★★

※この作品は非18禁ですが、「斬魔大聖デモンベイン」の続編にあたるため、こちらに分類しました。
ちなみに、前作のプレイは必須。最低でもアルトゥルーEDをクリアしていないと、内容が理解できません。

「斬魔大聖デモンベイン」=「機神咆吼デモンベイン」の続編にあたる今作。
前作のアルトゥルーED後の世界観を継承し、デモンベインをプレイヤーが実際に動かせるということで、鳴り物入りで登場したわけだが。
フルポリンゴンモデルをリアルタイムで動かす作品のため、当然、相当のマシンスペックを要される上、18禁ではなく、一般作品として発売、と判明した時点から、嫌な予感は拭い去れずにいた。
正直言って、ニトロ作品って、メーカー自身が思っているほどには、変わったシステムを搭載した作品の評価は高くないと思っていたので。

案の定、嫌な予感は大当たり。
シナリオに関してはさすがの出来栄え。燃えも萌えも笑いもふんだんに盛り込まれた、前作に恥じないレベルのものを出してきたのに対し、最大の売りであったはずの格闘パートはもうボロボロ。
はっきり言って、格闘要素は全部取り除いて、4~5千円台のファンディスクか外伝として売り出してほしかった。
それならば、手放しで良作と褒められたのに。
とにかく、操作性とレスポンスの悪さが、納得しがたい難易度の高さを引き起こしている。私は最初、ノーマルで始めたが、すぐに断念してイージーにチェンジした。
ノーマルではおそらく、いつまで経ってもクリアできない。

そもそも、基本的なACTとしてのバランスがまるでなっていない。デバッガー陣が異常にACTスキルが高いのか、それとも
一般レベルを誤解しているのかは定かではないが、このバランスでは、慣れる前に嫌になってしまう。
そりゃあ、私はACTはどちらかと言えば苦手分野だ。ただ、ゲーマーとして年季は入っているので、決して上手くはないが、
ド下手クソというわけでもない。
一般的に難易度が高いと言われる作品だって、それなりにクリアしてきている。
だが、そんな経験値などまるで役に立たない、極悪な操作性とバランス。
何より、3D格闘ゲームだというのに、相手との距離感がかなり掴みづらい
おかげで攻撃は当たらないし、回避できたつもりでも、そうでないこともしばしば。
キャラの動き自体は実になめらかで、処理落ちもなく、家庭用PCでこれだけ動かせれば合格というラインを大きく凌駕している。
しかし、肝心のキーレスポンスが鈍く、コマンドもやたらと細かく煩雑に分けられているため、ACTの醍醐味である爽快感を
まるで味わえない。
結果的に、戦闘に負ける→コンティニュー→シナリオが進まない、という、悪しきスパイラルに陥ってしまう。
ゲーム性以外の点では、どの要素もほとんど文句のつけようがないレベルに仕上がっているため、この点が惜しまれてならない。

これは、「ニトロウォーズ」や「戒厳聖都」を遊んでみて感じたのだが(いずれも「サバト鍋」収録)、ひょっとしてこのメーカー、
プレイヤーの忍耐力や能力を過信してるのではと思う。
手触りといい、難易度といい、どれもこれも決して一般向きとは言えないレベルなのに、それを改善するパッチなども出てこないし、これくらいなら普通にクリアできる、と思われているのではないだろうか。
この温度差が、今作にも如実に反映されてしまったため、実に残念な結果に終わってしまったのだが。
(※なお、現在公式サイトでバランス調整パッチ配布中)

先ほども少し書いたが、ゲーム性さえ除けば、他の要素はメーカーの名に恥じないさすがの仕上がり。
グラフィックは質量共に申し分なく、お得意の3DCGも、実に違和感なく溶け込んでいる。
所々挿入されるムービーも高いクオリティを維持しており、特に、格闘パートでの必殺技を決める際の演出は、ド派手で見ごたえも充分。
「デモンベイン」といえば多数のボーカル曲が存在するが、それを要所要所のシーンで惜しみなく投入し、さらにお馴染みの
BGMに加え、雰囲気バッチリの新曲ももちろん登場して、嫌が応にも盛り上がる。
基本的な足回りはいつも通りで、ゲームを進める上で、まったく支障がない。

シナリオは当然、前作に引き続き鋼屋ジン氏。
自ら生み出した作品世界を少しも損なうことなく、さらなる飛躍を感じさせるものであり、大変満足。
ルビを多用した、相変わらずの畳みかけ表記が、やはり人によっては好き嫌いが分かれるだろうが、それでも、ここまで王道的な構造をした物語を、ちっとも飽きさせずに一気呵成にエンディングへと持ち込む手腕はすごい。
また、前作でもそうだったが、広げた風呂敷の畳み方が実に鮮やかで、今作のEDも、「真・デモンベイントゥルーエンド」とでも言うべきものとなっており、前作プレイヤーは必見。
「荒唐無稽」や「ご都合主義」という批判を、物語自体のネタとして取り込んでしまうという力技を駆使し、さらには、メディア
ミックス展開された小説の内容をも包含し、相当無茶をしてるのに無理がない。
続編としての位置付けや展開に、有無を言わせず、疑問を抱かせないのだ。
また今作は、前作ほどの中だるみがなく、かといって性急過ぎることもなく、シナリオ自体は実に無駄のない、スマートで洗練されたものに仕上がっていると思う。

だから、本来なら中編ほどもないこの話を、単品で一作品にしてしまおうという企画自体が無理なのだ。
「デモンベイン」はニトロの代表作の一つであり、メーカーにとってもある程度のペイを見込める貴重な作品のはずだ。
それを、こういう売り方で評判を下げてしまうのは非常にもったいない。
もしコンシューマーに移植するのであれば、格闘パートは最初から見直しを図った方がいいと思う。

前作が非常に良作だったからこそ残念だったし、ここ最近のニトロの低迷ぶりを、「デモベ」なら何とかしてくれるんじゃないだろうかと思っていたから、そして、格闘パート以外は期待以上の出来だったから、余計に惜しいと思う。
「デモンベイン」の世界観がたまらなく好きな人、鋼屋ジン氏のファンにはお勧め。
本当ならこのシナリオ、前作プレイ者には問答無用でやってほしいのだが、格闘パートがそれを阻むため、「短い、高い、
めんどくさい」を克服する覚悟を決めた人のみ。

群青の空を越えて

シナリオ音楽演出システム総合評価オススメ度
81萌えは無用の方に
★★★★

きっかけは、発売前に公式サイトに掲載されていた制作ウラ話。(今も読めます)

「バカヤロウ、萌えゲーなんかに負けるかよ。ユーザーが萌えるのは正当な楽しみ方だけど、クリエーターが萌えに頼るようになったら単なる無能者の手抜きなんだよ」

いい加減、萌え先導の業界の風潮に倦んでいたところにこの言葉。そんな気炎を上げるクリエイターが、まだいることがすごくうれしくなり、応援も兼ねて勇んで特攻。

ジャンルは「本格未来架空航空戦記ADV」。作者の言葉には「グリペン」を使った話が書きたかった、とあるが、空中でのドッグファイトや戦術的な展開よりも、むしろ戦争という現実に翻弄される人間たちの群像劇がメイン。
作者はかなりの航空機マニアのようだし、ドッグファイトがメインなのかな、と思っていたので、いざプレイしてみたらいささか拍子抜けしたのも確か。
これでも「エリア88」に燃えた世代ですんで。
その代わり、戦略・権謀術数要素はてんこ盛り。目に見えるドンパチよりずっとシリアスで重く、「戦争」、しかも「負け戦」であることを忘れないシビアな展開は、派手さには欠けるが、ずっと心に重くのしかかってくる。
実際、政治・経済問題を多く盛り込み、それをある程度は理解しておかないと面白さが3分の1くらいは減少してしまう困った作りなので、取っつきはかなり悪い
気軽に楽しく浮世の憂さを忘れたいという人には全然向きません。そういうお手軽作品が多く求められ、市場に溢れているこのフィールドにおいて、実に異彩を放つ方向性、はっきり言ってたまりません
第一、負けることがほとんど確定しているんだもの。勝利のカタルシスなんてへったくれもありゃしないのです。
そんなわけで、覚悟を決めた人のみがトライすればよろしいかと思います。

絵は可もなく不可もなく。シリアスな物語にふさわしく、突拍子もないデザインもなく比較的安定しているのだが、テキストとCGで齟齬が生じるケースが多い。
立ち絵では普段着を着ていたはずなのに、同時間上のイベントCGでは制服姿になってたり、文中では長袖のはずがCGでは半袖だったり。
些細な点であるのは承知しているが、一度気になりだすと、とにかく目についてしょうがない。
もう少し、擦り合わせに気を使ってほしかった。
また、物語の尺のわりにはイベントCGが少なめ。私の感覚がズレているのかもしれんが、ここはCGだろう、というところもトランジションでごまかされてしまったり、量的にはあまり満足できなかった。
EDのスタッフロール上で、まだ見ていないルートのネタバレCGが表示されてしまうのも困りもの。
ちゃんと制限かけてください。

売りであるのかは分からんが、場面場面で挿入される飛行シーンのムービーなども、地味だし今ひとつの出来。
ひょっとしたらすごくリアルな動きとか、こだわって作られたものなのかもしれないが、残念ながら当方、航空機に関しては素人で違いがよく分からないし、挿入どころのタイミングも絶妙とは言い難い。
この辺の、細かい演出が平たく言えば「ダサい」のであり、業界では最近、演出にはめざましいものを感じる作品が多いだけに、余計に野暮ったい印象を受けてしまった。

この点は音楽も同様で、このシーンでその曲使うかぁ? というポイントのズレが耳につく。
こういう感想は、本当に個人個人の感性によるものなので、あくまで私見であるが。
ただ、やはりあまり主張しない曲が多く、進行の妨げにこそならないが、盛り上がりには欠ける。
OP・EDは出来が良いのだが、作中でのBGMは曲のバリエーションも少なく、いつも同じ音楽がかかっているような印象を受ける。
せっかくのゲームという媒体、もう少し絵と音が生み出す力、その効果を信じて力を入れてみてもよかったのでは。

対して、フルボイスであるのは大成功と言って差し支えない出来であり、声優陣はかなりの熱演。
あちらこちらで名前を見かける実力派が多く参加しているだけあって、その演技には隙がなく、ミスキャストもないので、いつもはボイスすっ飛ばし派の私も、ついつい聞き入ってしまった。
(おかげでクリア予定時間が大幅に延びた)
普通のゲームやアニメなら登場しないであろう難解な用語が頻出し、おまけに航空用語は英語だし、収録は並大抵の苦労ではなかったに違いない。プロって素晴らしい。
しかし、一部シナリオにもネタとして登場するが、BL系で大人気のあんな人やこんな人を盛り込んで、いったい何をやらす気ですか! モニタ前で吹くかと思ったよ。

システムは普通。ただし、グラボの相性が悪いと悲惨らしいので、パッチを忘れずに。
私も最初、メニューが表示されないという珍現象が起き、このゲームはどうやってスタートするのか? としばらく悩んだ。
実装している機能には過不足なく、各種回想モード、ホイールバックログ・音声再生にも対応しているのだが、どうもいまいちレスポンスが悪く、半テンポ遅れるような気が。(推奨スペックは余裕で凌駕してます)
ボリュームがあり、シナリオに集中したい作品なので、足回りは軽快であってほしい。
また、見せ場と思しき特殊なイベント下では、セリフの表示スピードが支配されてしまうのも難。
ここぞ、と意気込む気持ちは分かるのだが、ユーザーとしては自分のペースを乱されるほうが癪に障る。
むしろ、別の演出によってユーザーの目を釘付けにするべきなのでは。

以上のように、全体的にどうもパッとせず、いまひとつな凡作なのかと思いきや、困ったことに(?)シナリオが全然いまひとつではないんですわ。

さすがに言うだけのことはある。「萌え」をまるで排除し、あくまでも物語の力で勝負しようとした姿勢は潔い。
これだけ各メディアの発達が著しい中で、未だにペンの力を信じたその方法は、愚直なまでに真正面からの挑戦。
大軍の中に一騎突っ込むようなもの。

たった一人の学者の学説とアジテーションが、様々な利権と絡んで、やがて日本分裂と戦争に発展する、という設定は、かなりのトンデモであることは確かなのだが、それを足場とした物語が、疑問を許さぬ勢いで大真面目に展開するもんだから、何だかいつの間にか押し切られてしまうのも確か。
「主人公がグリペンに乗る物語を書きたかった」と製作者自らが語るように、そのためだけにこれだけの大風呂敷を広げたのはいっそ見事でもある。
美辞麗句で愛を語るゲームは数あれど、「女が一番じゃない」と断言してのけるエロゲーは初めてです。
でもちゃんとエロいんだな、これが。

一つの事象を多角的な視点で捉え、それをザッピングというシステムに無理なく置き換えた手法はナイス。
複数の視点が入り乱れることによる混乱を避けるために、メッセージウインドウにキャラチップを表示させたのも気が利いている。
最終ルートではそれまで敵だった側の視点で物語が語られ、単純な二元論に陥るのを防いでいるし、テーマに向き合おうとする姿勢は、とても単なるゲームの一作品とは思えないほど真摯だ。
異世界を舞台にするのではなく、あくまでも日本と諸外国、という身近な場所を設定した勇気も評価。
誰しもが知り尽くした世界の上に、新たな設定を敷くのは並大抵の苦労ではない。
荒唐無稽すぎるからこそ、フィクションとして楽しめるという側面もある。
じゃないと、生々しくてやってられないだろう。

そこでは、人が当然のように死んでいく。すぐ前の場面では重要な役を担っていたキャラですら、次の場面では、ただ「○○が死んだ」とだけ表示され、淡々とした死を余儀なくされるそれは、あまりにもあっけなさすぎて怖い。
だが、そうまでして失いつくし、あがきつくしても、いずれのルートでも待ち受けるのは敗戦(停戦)というのが、このシナリオのすごいところだろうか。

私は、あえてこういう手法にしたことを評価したいと思う。
どんなに誰が泣き叫んでも、残酷な事実は覆しようがない容赦の無さも好きだ。
今まで、多数のパイロットを死地に送り込んできた管制官である若菜が、自分の死に向き合ったとき、決して自分を特別扱いせずに毅然とその事実を受け止める厳しさと強さ。
そういったものが詰め込まれた今作、ゲームとして作りの甘いところは多々あれど、普通のエロゲにはないものを多々持っていることもまた確かであり、それはとても大切なものだと思う。

ラスト、作中に何度も問いかけられた命題を再度提示されて物語は閉じられる。
「自分たちはなぜ戦ってきたのか」、と。
そこに明確な結末を与えなかったのは、プレイヤーそれぞれに想像の余地を残すための手法であるが、あえて言うならば、指揮官すらも傷つき倒れ、防衛線がズタズタになっているであろう激しい戦いの最中、という状況が、決してこの先に待っているのが楽天的で明るい未来、もしくは劇的な状況の好転ではないだろうことは想像に難くない。
どこまでもシビアで容赦のない演出。奇跡などは起こらない。すべては現実に起因し、質量で劣れば負けるし、個々人がどんなに努力してあがいても、より大きな国情や経済の絡んだ思惑からは逃れられない。
その、決して日和見をしない、作品に対する揺るぎない姿勢は賞賛に値する。
もちろん、読み手によっては、すべてが丸く収まったわーいハッピーと夢想することも可能だ。
(作品の本質を理解していないような気はするが)

パイロットとして死ぬことにしか意味を見出せなかった主人公が、その拠りどころである飛行機乗りという手段を奪われる最終ルート。
飛べなくなって、空という逃げ場を失って、そこで初めて真実に辿り着く。
優しい皮肉に満ちた展開は、その代償に得たものを丹念に綴ることで、それは必要だったのだ、と気付かせてくれる。
この作品が、「萌え」(=ある程度の予定できるセールス数)を捨てて得たものがあったように。

やりたいことを好きなようにやる姿勢というのは、簡単なようでいて、それを貫くことはひどく難しい。
なんせ、商業作品である以上、ペイしなきゃ会社が潰れる。同人のように自分一人が泥をかぶればいいわけではなく、社員の家族にまで責任があるわけだから、あまり軽々しい真似はできない。
そして、たいていの場合、製作者が希望する形と、ユーザーの望む形というのは乖離しがちなものだ。
だから、安易な「萌え」に走らず、重厚なドラマを展開しようとした製作サイドの姿勢と、ユーザーの反応が好意的評価として一致した本作は、とても幸運なのだと思う。
もちろん、本作をプレイした人間なら、それがただの偶然やラッキーで生まれたのでないことは重々承知の上だ。
二年もの歳月を費やしたというシナリオは、完成に至るまでどれほどの推敲を重ねただろうか。
その膨大な作業量を思いやるだけで頭が下がるし、一見して受け入れられにくそうな、難解な用語やクセのある舞台、それでも恐れずに新境地を切り開いたその姿勢。
個人の作家性が色濃く残る、小説的なアプローチの異色作だと思う。

好き嫌いが非常に別れる作風なので、軍事、政経、負け戦に耐性のある方のみどうぞ。
善と悪、敵味方、そういうのがはっきりしてないと嫌、という人は避けたほうがよろしいかと思います。
私はお勧め。ゲームとしての総合点は低いけれど、こういう作風って今までになかったし、このシナリオにはそれだけの価値がある。
活字好きならさほど違和感はないと思う。

ちなみに、未プレイの方は、若菜→加奈子→美樹でやった方がよろしいですぞ。
いいですかな。忠告はしましたぞ。これが一番、鬱気分を軽減できる順番だと思うので。
なんせ順番に(ネタバレ危険!→)全滅)→(壊滅)→(敗戦)だからな。
(とんでもねー作品だなオイ)

CLANNAD

シナリオ音楽演出システム総合評価オススメ度
63★★

注! このゲームは全年齢対象です。ですがKey作品ということで、あえてこちらに分類しました。
さらに注! もうお分かりでしょうが、Keyファンは回れ右。絶対立ち入り禁止区域です。苦情はスルーいたします。

……パトラッシュ、僕はもう疲れたよ。

「Fate/stay night」と共に、2004年の最高峰との呼び声も高い今作。
製作に3年もの歳月を費やし、満を持して発売されたわけだが、結果は冒頭の通り。
良くも悪くも、徹底的にkey作品。3年前と何一つ変わっていない。
だから、好きな人には堪えられない魅力があるが、私のように基本的にkey風味(特に前作のAIR)に否定的な者からすれば、結局ここからは変われないのか、と残念に思うしかない。
変わらぬテイスト、というのはファンにとって大事なことではあるけれど、進歩がないこととは基本的に違う。

絵はいつも通り、キャラ以外は大変良い。
これは、原画が樋上いたる氏である限りもうどうしようもないことなのだが、デッサンって何ですか? と言わんばかりのありえない人体展と化している。
おまけに老若男女、顔の中身がみな同じ。いたる氏には描き分けという概念は存在しないらしい。

ちょっと腰を曲げて皺をつければ老人。
等身を縮めれば子供。
肩幅を広くして、目を小さくすれば男、それ以外は女。
ついでに言わせてもらえば、キャラ全員、手が小さすぎ。それは人形の手ですか?

……もしもし、それで金もらってるんだよね? ある意味ふざけんなよ?
さらに、時代の趨勢には抗えなかったのか、とうとう触覚付きキャラが。

キシャァァァ! このアホ毛・触覚撲滅委員会(たった今発足)委員長の私は許しませんよ!
目立って異常な髪型(色は除く)を描かないのが、いたる氏の最後の美点だったのに。
そんなこんなでキャラ絵はいつも通り笑うしかないレベルなのだが、それにしたってボリュームの割にイベント絵がやけに少ない。
絵師が一人だから? 理由にならない。同じ一人でも、「カルタグラ」はゲームボリュームは半分以下だが、それでも差分なしで200枚(しかも全部高レベル。ついでに社長兼業)を実装している。
「key系」と言われるほど一大ジャンルを築いたブランドであるのに、その中身はシナリオにおんぶに抱っこな姿勢が未だに抜けていない。
ゲームは総合力。一つだけ飛び抜けていても、他が足を引っ張るようではお話にならない。

次に、key最大の財産である音楽。
正直、AIRほどのインパクトには欠けるが、これはさすがに文句の付けようがないレベル。
綺麗で品良く、時には物悲しく。純愛系の作品にはベストマッチする作風であり、はっきり言ってKeyにはもったいない。
それに、音楽の挿入タイミングが他メーカーのそれよりも図抜けてセンスが良い。
そういった演出面には光るものを持っているだけに、返す返すもシナリオの出来が惜しまれてならない。

ボイスはなしだが、この膨大なアホウワールドをいちいち声付きで再現されたら、演じる声優さんもかわいそうだし、間違いなく殺戮の宴の幕開けとなるので、なくて正解。むしろ、頼むから付けるな。
ご多分に漏れずOPムービーもあるが、その挿入箇所が問題。
演出の一環として、トゥルーエンドの鍵を握るキャラのシナリオ中にのみ流れるのだが、それならばそのキャラ専用のものと
通常バージョンと2種類用意してほしかった。
本来、演出としては見るべきものなのだろうが、肝心のムービーの中身が何だかそぐわないため、気分の盛り上がり方が半端で終わってしまうのだ。
何だか今作は、時間がかかったわりに、どれもこれも中途半端な感が否めない箇所が多々あるような気が。

それでは、皆様お楽しみ(?)のシナリオコーナーへと突入させていただきます。
例によって、かなりネタバレも含まれますので、よろしく。私はこの作品に対する気遣いは捨てました。
だって、バレて困るような斬新なネタなんて、何一つ盛り込まれてなかったので。

3年間のブランクの末がこれですか。
劣化した金型で作られた代物をスルーできるほど、私の目は節穴じゃないと叫びたい気分です。

メインライターである麻枝氏の落とし方というのは、AIRとその他数多の亜流作品に形骸化され尽くされ、もはや新鮮味は完全に失われていると言っていい。
なのに、それを生み出した張本人が気付いているのかいないのか、今作でもそのパターン地獄に自らずっぽりはまってしまっているおかげで、またこの手かよ、もう飽きたよと思わざるをえない。

病気禁止、子供禁止、奇跡禁止、超常現象禁止、白痴レベルのボケも禁止。

これ全部封じるだけで、すでに麻枝作品ではなくなってしまうというカラーの出方、引き出しの浅さはクリエイターとして致命的じゃないですか。
基本設定をちょっといじっただけであとは全部同じ、というシナリオ展開。ONEの頃から何一つ変わっていない。
無気力な主人公に白痴ヒロイン、退屈な日常とそこからの脱却、じわじわと侵食してくる不透明な世界。
食べ物や愛玩物でキャラの肉付けをしたり、掛け合い漫才のネタにする手法も同じ。
自分リスペクトもいい加減にしてくれ、とうんざりするしかないのですが。

はっきり言って、個別で見れば別に大した出来じゃないし、新鮮味も薄いのに、別ライターが担当したシナリオの方が数倍ましだった。
メインシナリオがつまらないって致命傷じゃないのか? エンディングへの到達を妨げようとする嫌がらせなのか?

幼稚で投げやり、優柔不断で思いこみが激しい、とヘタレ要素てんこ盛りの主人公。
取り柄の一つもないくせになぜかモテモテ、とエロゲエッセンスでこれでもかと味付け。いつものパターン。

超レベルの天然で会話にもほとんど脈絡がなく、コミュニケーション能力の欠如が著しいガイキチの各ヒロイン。
主人公の言うことは何でも鵜呑みにしてしまう、真性のキモオタにしか好かれないような造形。これもいつものパターン。
お前たちに知性という概念はないのか。
ギャーギャーとうざい狂言回しの友人は主人公に輪をかけたヘタレ、大人であるはずの周囲の人間はボケ爆弾。

急募! 普通の人間! 明日のkey作品を救うのは君だ!

メインライターの麻枝氏が最高のキチガイ率を誇っているのに対し、他の2名は比較的まとも。
ことみ、椋、杏、どれも基本的には普通の展開だったが、それでも麻枝シナリオに比べたらマシだ。

シナリオ展開以外に目を向けるなら、伊達に3年もの歳月をかけたわけではないらしく、細部まで神経の行き届いた、実にきっちりとした作り。
たった1ヶ所の差分テキストが発生したとしても、その後の共通パートでズレが生じる、ということがまったくない。
途方もないボリュームを持ち、分岐も多様で複雑な発生条件を内包しているのにも係らず、そういうミスが起こらないというのは賞賛に値する。
膨大なフラグを厳密に管理しなければならなかったであろう製作チームの苦労が思いやられ、狙いすぎで白けるお涙頂戴シナリオよりも、ずっと泣けた。
シナリオがすべればすべるほど、その他の点が素晴らしく見えてくるという摩訶不思議な現象が。
ただし、個人的には、日常の読み飛ばしても問題ないようなシーンで既読スキップが解除されてしまうので、賞賛半分、発狂半分といったところなのですが。

複雑ついでに言わせてもらうと、シナリオ重視のAVGとして非常に難しすぎる。

基本個別シナリオクリア → 裏シナリオ → 裏個別シナリオクリア → トゥルーエンド

という演出はシナリオ上、仕方がない。
だが、その個別ルートの発生条件が厳しく分かりにくすぎるのと、どう考えても全然必要ないようなキャラにまで個別ルートが用意されているせいで、このゲームを途中で投げ出した人はかなりいるはずだと断言する。

だって、ダラダラと数時間も面白くもない(むしろムカつく)日常生活が続く各個別ルート、みんなやりたいか?
そんなヒロインでもないような奴の話、外伝でもファンディスクでもないのに読みたいと思うか?

今作のテーマが基本的に、「町と人の物語」であるから、説得力を持たせるために、その町に住まう人をたくさん盛り込んだ方がいいと思ったのだろうが、盛り込まれたのはダルさだけでした。
サブルートとしか思えないようなものも補完しないと、ラストにたどり着けないというのは大きすぎるマイナス。
言っておくが、そんな各ルートが面白ければ何の問題もない。優れた演出だと評価できるだろう。
だが、面白くないんですわ。どれもこれも。

ああ、人間誰しも他人には分からないような悩みや問題を抱えてはいるだろうよ。
だが、それを全部感動のオチで片付けられると思うなよ。
人はな、結局は自分で自分を救わなきゃいけないんだよ。血反吐を吐いて、泥にまみれて生きるもんなんだよ。
倒れたら見知らぬ他人が手を差し伸べてくれる、いい人ばかりの世の中なんてねぇんだよ。
何でもかんでも知障のような主人公の空回りの努力で解決なんてできやしねぇんだよ。
奇跡なんて起こらねぇんだよ。もっと地に足の着いた、まっとうな人間像を描いてみせろやゴルァ!!!

と、プレイ中に何度叫びそうになったことか。

基本的に、物語に「痛み」がない。それを表現しようと頑張ってはいるのだろうが、薄っぺらで嘘くさい。
落として、落として、どん底に叩き落とされて、それで初めて怠惰な生き方をしてきた自分を反省できるのだろうに、そこまでいかずとも優しい誰かが必ず手を差し伸べてくれるため、どうせうまいことなるんだろ、ふーんあっそ、という気分になってしまい、何の感動もない。
おまけに、その感動させようとする手段が、これまたいつも通りの人の生死が関わるパターンが多すぎるため、もう本当にお腹一杯状態。
最終ルートで、自分の子供が死にそうになってるのに、それを抱えて雪の中に走り出して叫ぶ主人公ってバカ?
今、その子供に必要なのは救急車だ。お前の叫びや願いじゃねぇ。
そういう、絵にはなるだろうが現実離れした行動が多すぎて、気分が萎えっ放し。ライターは夢の中で生きてますか?

第一この最終ルート、社会人として歩み出した主人公と某ヒロインの話なのだが、この話がもう薄っペラペラ。
働きだしてたった二ヶ月かそこらで、いきなり現場監督として引き抜かれるに値するような仕事ができる人間になれるわけがない。
普通はまだ研修中のようなガキだぞ。しかも、高校時代を腑抜けで過ごした主人公だぞ。
それをいきなり、「以前とは目が変わった」だの、「お前は計数にも強い」だの、主人公、裏技でも使っていきなりクラスチェンジしましたか。それともこの職場はめくらの集団ですか?
それまでバイトもしたことのないような人間が、たった一日二日で仕事に慣れるか。んなわけねぇだろ。
あまり社会を舐めるなよ。全年齢対象だからって、ふざけたことばかり書いてると、お姉さんおしおきしちゃうよ?

あまりのパターン臭に嫌気が差し、半分眠りながらプレイしていると、とうとう病弱なヒロインと自分との間に子供が。
あーなんかこれはヒロイン死ぬくさいな。子供生んで自分は息絶えるってパターンだな、きっと。

ビンゴ。このシナリオ、ワンダフルバカ?

あー、とうとう子供持っちまったよ。ん? 子持ちで片親? ってことはここから先、それがきっかけで親父とも和解するっぽいな。

またビンゴ。このシナリオ、グレイトフルバカ?

今は元気だけど、子供はきっと母親と同じ病を抱えてるに違いないよ。で、ラストでいつもの奇跡が大安売りで発生して全部解決するんだ、きっと。

またまたビンゴ。このシナリオ、マーベラスバカ?

ありえないでしょ、こんな今どき韓流ドラマも裸足で逃げ出すようなベッタベタの展開。
ゲームシナリオ募集とかの告知に応募したら、真っ先に落選させられそうな勢いの話だよ?
私は最初ふざけてるのかと思った。大マジで作ったのか、これは。3年間、本当にがむしゃらに作った作品なのか?
何でこれで泣けるの、みんな。目を覚ましてよ、頼むよマジで。それともおかしいのは私なの? ここは猿の惑星なの?

Keyがこれを作った、ということよりも、これを受けれ入れる土壌があることの方が私には信じられない。

面白くないゲームはたくさんあれど、腹が立つゲームを作らせたら、マジでKeyは天才的だと思います。
泣く? どうやって? 血の涙を流してか?

普通の感性を持った、普通の人間を自負してる人は間違ってもやってはいけません。ふざけすぎていて死にます。
ちょっとでも「俺、オタクだし反応できそう……?」と不安があるならやってみれ。ただし、責任は持ちません。
空が青くてもポストが赤くても泣ける、という人はぜひおやり下さい。体中の水分が流れ出すぐらい泣けるでしょう。

私? 泣けたよ。マジで。あくび噛み殺してな。