Forest
| シナリオ | 絵 | 音楽 | 演出 | システム | 総合評価 | オススメ度 |
| 9 | 8 | 9 | 9 | 8 | 87 | 覚悟があるなら ★★★★ |
名作、「腐り姫」の製作スタッフによるライアーソフト第11弾。
私にとっての「腐り姫」は、マイベストエロゲートップ5に入るほどに文句なしの名作だったため、今作も発表当時から気にはなっていたが、あまりにも遊び手を選ぶという評に二の足を踏んだのと、他の膨大な積みゲーを片付けるのに忙しく、しばらく放ったらかしになっていた。
ところが、「いいからやれ」「とにかくやれ」「すぐやれ」という意見が非常に多く、それほど望まれるならと覚悟を決めたとたん、ちょうどメーカーサイトでのダウンロード販売が開始に。
こういうのも悪魔の導きと申せましょうか。
さて、もうどこのレビューサイトでも言及されていることだが、あえて言います。
この作品、ありえないほどに受け手を選びます。合う人にとってはべらぼうに琴線に触れる作風なのだが、合わない人は5分でリタイアする可能性大。
それほどまでに冒頭から不条理でナンセンスな展開。もちろんプレイヤーに対するフォローというものは一切なし。
むしろ、「ついてこれないならこなくていいよ」という、エンターテインメントにあるまじき傲岸不遜ささえ感じさせる。
だが、その気位の高さがある種の様式美を生んでもいて、それが心地良いとすら思える。
正直、エロゲとしてはまったくと言っていいほど実用性に欠けるが、それでもこのフィールドじゃないと出てこなかったであろう作品。
システムはおおむね良好。かつて、初版に修正ディスクを同梱するという離れ業さえやってのけたライアーとは思えないほどバグもなく、各機能もスムーズ。
2年前の作品のためか、ホイールでのバックログ閲覧に対応していないのが少々気になったが、それくらいか。
絵は非常にクセがある。シナリオ同様、かなり好き嫌いが別れる作風。
ただ、現実世界を浸食して突如現れる「森」や、妖精や異形の生物がこれでもかと登場するシュールな世界観の今作では、この一風変わったデザインや色彩などが、作品を構成する上でかなり重要な要素となっていると思う。
私自身はちょっと子供くさすぎてあまり好きな絵柄ではないのだが、この作品にはこの絵でなくては、とも思う。
特に登場人物たちの衣装は、まさに舞台衣装とも言うべき奇抜さなのだが、これが実に作品とマッチしている。
また、頻出する人外のキャラクターたちにはテクスチャー処理が施されており、奇をてらったデザインやリアルさを持ち込むより、ずっと気が利いていてなおかつ高い効果を上げている。
背景は写真取り込みだが、現実のものなのに奇妙に現実感を喪失した雰囲気が出ていて面白い。
音楽はもう本当に素晴らしい。「腐り姫」のときも思ったが、このレベルはハンパでない。
中途半端なボーカル曲などは使用せず、コミカルからシリアスまで、作品世界へのマッチングを徹底的に意識した仕事が、この強烈な世界を彩る重要な要素の一つとなっている。
耳触り良く、作品を盛り上げて邪魔をせず、かといって忘れてしまうような印象の薄さではなく。
BGMというかなり限定された制約を受け、しかもどんな既存作品とも違う独自の世界観を持つ作品に対し、こうまで質の高い楽曲を制作した音屋さんたちの仕事にプライドを感じる。
キャスティングも非常に巧い。始めはどのキャラも何だか大仰でわざとらしい演技だと思っていたのだが、実はそれが演出だということに気付いてからは、どんどんキャラクターが生き生きしてくる。
そこにはミスマッチということがまったくなく、特にキャラの二面性の表現が図抜けている。
普通の作品で求められる自然さとかかわいらしさの他に、特殊な節回しや演劇のような演技を求められる作品であるだけに、収録時の苦労は並大抵でなかったに違いない。
その音声を実に効果的に利用した演出も光った。
セリフの一部はメッセージボックス内にテキストが表示されない。だが暗転した画面のバックで流れるセリフは実に印象的
で、否が応にもプレイヤーの想像力をかき立てる。
実は最初、いきなり画面が黒くなったので「もしやバグか!?」と疑った。ライアーさんごめんなさい。でも過去の所業が悪いと思うの。
主人公のセリフがテキストが表示されるのを待って会話相手の音声が再生され、あたかも主人公(プレイヤー)とキャラが
リアルに会話しているかのような仕掛けもある。
この場合も会話相手のテキストが表示されないので、またまた「バグか!?」と疑った。ライアーさんごめんなさい。
でも以下略。
さて、プレイヤーの間では思いっきり見事に賛否両論が別れるシナリオ。
あらかじめ言っておくと、今回はシナリオの中身については大して言及していない。否、できない。
だって、やってみなければ分からない仕様、説明のしようがない作りになってるんだから仕方がない。
なので今回は、主に作品構成についての考察となるのでご了承を。
かつて、こんなにエロゲとして用を成さないのに、エロゲのフィールドを必要とする作品ってあっただろうか。
いわゆるエロゲのマーケットというのは、コンシューマーに比べたら実に狭小ではあるけれど、その代わり手堅いペイが見
込める場でもある。
さらに、プレイヤーは18歳以上であるという事実を約束されている。
つまり、プレイヤーがある程度の知識と思考力を備えているということを前提にできるわけで、余計な説明もお子様に対するフォローもいらない、その分、作品世界を練ることができるフィールドということだ。
そうして編み上げられたのが、類がないほどに実験的なこの作品。
この限られたフィールドの、限られたプレイヤーをさらにふるいにかけるような好戦的な姿勢。
その気の強さと挑発とに思わずニヤついてしまう。
クリエイターはこれくらい自分の世界を信じていなければいけない。自身の世界にすらぐらつきを覚えているようでは、たかがエロゲオタ一人も騙せるものか。
冒頭にも書いたが、この作品にはプレイヤーが知らないことを説明してくれる親切さは皆無、むしろ「知らないお前が悪い」
と言い切ってしまうような高慢ささえ漂う。
だがその突き放しを「まことにごもっとも。私が悪うございます」と認めざるをえないほど、奇妙な説得力と有無を言わせぬ緊張感、そしてプレイヤーの足元を危うくする酩酊感に満ちている。
雑多なジャンルから様々な、特にイギリス児童文学の分野からは有名無名問わずこれでもかとネタを盛り込んであり、その
姿はさながらカオスのワンダーランド。
ともすれば衒学的で鼻につくとされてしまいがちなそれを、作品全体に漂う適度な胡散臭さやいい加減さ(※どちらも褒め
言葉です)がうまい具合に和らげていて、ただただ作品に翻弄され、踊らされるのが楽しい。
明らかに虚構だと分かっていて、なおかつそれを真剣に楽しむというファンタジーやおとぎ話のある種シニカルな作法を十二分に知り尽くし、それを手玉に取ってみせたライターの力量に脱帽。
今作では、作中のキャラが「自分が誰かの物語に内包されるキャラクター」であるということに気付くメタ構造が発生する。
下手なライターが書くとわけが分からなくなる上、反則を犯された気分になってげんなりしてしまう危うい手法(だが昨今やけに流行している)だが、それが実に違和感なく行われている。
自然にその展開へと誘導していく構成も見事なら、「何が起こっても不思議ではない」ナンセンスな世界観をプレイヤーに納得させるテクニックも見事。
それを可能たらしめているのが、実に読みやすく分かりやすい、洗練されたテキスト。
ときにリズミカルな韻を踏んだり、言葉遊びを仕掛けたり、緩急の差も絶妙でテンポよく読み進められる。
本当に力のあるライターというのは、どんな猥雑な言葉を使っても、下世話なエピソードを書いても、決して作品自体が下品にはならないのだよ。
その辺の二流三流ライターは、売れている作品の上辺の世界観だけ真似るんじゃなくて、こういう基礎力をもっと見習え。
星空めてお氏の作品には品がある。エロゲに品とか持ち出すなと言われればそれまでだが、自身が構築した世界観に
対するプライドと、たとえ業界の流れを無視してでもこの作品を作り上げるという気概。
それに絵と音楽が見事に融合し、かつてない独自の世界へと到達したと思う。
その姿は、ある種クリエイターにとって理想の形だ。私が知る限り、業界での評判はやけに高かったのを覚えている。
会社組織である以上、ペイしなければいけないのが第一だが、あえて危険を冒してでもこの作品を作り上げたことの意味。
萌え、燃え、泣きといった通り一遍のカテゴライズに当てはまらず、荒野を切り開いてそこに立とうとする姿勢。
会社として(いい意味で)暴挙に出たとしか思えない行為だが、想像力を売り物にする商売、これくらいできないでどうする
という最高の見本。
私はもう大好きです。面白い面白くないというレベルを超えて、正直震えました。
たかだかCD二枚の作品が、DVD数枚組という馬鹿みたいなボリュームの作品をいともたやすく組み伏せる、その圧倒的
な力量差を見せつけてもらったから。
クリエイターを目指す人、シナリオ重視派だが最近はどうもなぁとエロゲに食傷気味の方はぜひ。