長靴をはいたデコ

シナリオ音楽演出システム総合評価オススメ度
67パロディに寛容なら
★★★

「デジタライズド・ゲームブック」と銘打った処女作、「蠅声の王」で業界に特異な地位を築いたLost Script。
今作は同システムを継承した第二弾となる。
だが、公式サイトの作品概要では本来ゲームブックと相性が良いはずのファンタジー的世界観とはまったく方向を違えており、いったいどんな手法でくるのかとまるで予想もできない状態だったのだが。

ああ、なるほど。
あえてメジャー路線から一本路地裏に入っちゃう作品ばかり作っている(※褒めてます)大槻涼樹氏らしい作品だと。
前作だって相当ニッチな作品だと思ってたのに、よりにもよってそれのはるか上を行ってしまっている今作、何というか非常に評価が難しい。
あらかじめ言っておくと私は普通に楽しめた。途中で飽きることもなかったしちゃんと面白かった。
しかし決して他人には勧めない(それがどんなに私と趣味が合う人にでも)し、良作・力作と認定することはできない。
それどころか、これを定価で買っていたらおそらく許さなかっただろうと思う。
(ちなみにげっちゅ屋で30%オフで購入しました)
定価で買うにはあまりにも粗がありすぎ、危険も大きすぎる。

絵とシナリオはパートによって2人の原画家に振り分けられる。
デコパートは原画が前作でもお馴染みのVanilla氏、脚本がうつろあくた氏。
ホストパートは原画が吉澤友章氏、脚本が大槻涼樹氏。
二つの物語が並行して進む今作では、メリハリをつける意味でもそれぞれ書き手を分けたことは正解。
だが率直に言って、原画はそれぞれ逆を担当した方がいいと思った。
わざとらしいアニメっぽさ(要するに「聖闘○星矢」っぽさ)を出そうとしているのだろうが、吉澤氏のこのキャラデザではあまりに濃すぎて腐女子は萌えないような気がする。
前作で思わぬところ(腐女子層)から人気が出たもんだから狙いどころは悪くなかったのだが、むしろ女性キャラの方が魅力的に描ける原画家だと思うので、どうもミスキャスト感が否めない。
各CGは製作が押していたせいかイマイチな出来のものが多いし、背景の時間差分すらない。
わざわざフルスクリーン推奨にしてまでビジュアル面を押し出しているようだが、可変ウインドウなんぞ珍しくも何ともない。
縦長のCGだったら、PC98時代から搭載してるとこはしてたぞ。
それよりだったら、1枚でも多く気合いの入ったCG(or差分)を用意してもらえた方がうれしいと思うが。

音楽はまあまあ。曲数は少ないが、どれも作品に合っているし問題ない。
が、明らかにOP「陽だまりのつくり方」より「ホスト☆聖夜」と「ドンペリ・ロマンティック」が奮っている。
前作でボーカル曲に関する不満を漏らしたが、今回は作品の尺のわりにずいぶんと大盤振る舞いをしてきたな、と感心。
ところで上記2曲を歌ってる、「CHERRY PINK BOYS」って誰よ?

演出は地味め。派手であればいいというものではないが、ここまで何もないとさすがにいささか寂しくなる。
作品の構成自体が大がかりな演出になっているのではあるが、ユーザーの目につきやすいキャッチーな売りに乏しいのだ。
何度も前のシナリオを繰り返すことのできるデコ編に比べ、ホスト編はそれができない等、後で仕掛けが判明してから膝を打つタイプの、渋い(有り体に言えば分かりづらい)演出に光るものはあるのだが。
つまり、(超ネタバレ!→)前者は「螺線(スパイラル)」、後者は「螺旋(へリックス)」であることを示している。それにしたって、公式サイトの作品紹介ですでにこれを記載しちゃってるとは、何という度胸のあるネタバレ。
でもこんなの、気付く人じゃないと気付けないと思う。そういう意味でも非常にニッチ。
本来なら、明らかに力を入れているはずのホストパートにOPムービーを入れるとか、そういう分かりやすい演出が必要なはず。
そういった、どこもかしこも中途半端・ユーザーおいてきぼりな感が漂い、突き抜けた面白さに繋がらない。
ぶっちゃけ、プロモーションである公式HPの更新が一番面白かった。悲しいことに。

システムの足回りは前作とほぼ同様。だが、スキップ未搭載というのはありえない。今どきどんな作品なのかと。
同一のセーブデータでない限り、アイテム・辞典等の継承がされないのもマイナス。
これ、人によってはバグだと思うのでは。
1000近いパラグラフの管理だけで相当な手間であるというのは分かるが、どうもいまいち、ユーザーに快適にプレイしてほしいという気構えが見えてこない。
作品とは単に面白ければいいってもんじゃない。ユーザーにとっては決して安くない金と、二度と戻らない時間を消費してプレイしてるんだから。

さて、メインであるゲームブックのシステムだが。
本作最大の売りが、今作最大の問題点になってしまいました。猛省を促します。
デバッグ中、これはヤバイと思わなかったのか。だとしたら、制作者はユーザーと感覚が完全にズレてるぞ。

このシナリオではゲームブック方式は弊害でしかなく、かえって作品をダメにしている。

直接パラグラフを入力することでいつでもどのエピソードへも飛べる、「ルート制限・フラグ管理」の利かないこのシステムでは、シナリオがぶつ切りになってしまい物語の連続性が失われてしまう。
だが、このシナリオはその連続性と並行性にこそ意味がある仕掛け。それがシステムという高位の存在によってぶった切られてしまってはもうどうしようもないのですが。
だから、前作のようなダンジョン探索型・バトル重視の、ストーリーよりパズル性・臨場感を重視した作品ならいざ知らず、シナリオ自体に仕掛けを盛り込んでしまった物語重視型の今作にはゲームブック方式は向いていないのだ。
せっかく前作で耳目を集めたゲームシステムを搭載しているにも係わらず、今作のみならず前作のユーザーをも切り捨てる覚悟の作り。
何でおとなしく続編にしてくれなかったんだ。冒険するにもほどがある。

また、構造自体は非常に面白いシナリオであったものの、随所に溢れまくるパロディがそれを素直に評価させてくれない。
私は車田ネタもパロディも好きだし、大いに笑った箇所もあるのでまだいいが、正直言って度を超していると思う。
これと同じ構造のシナリオを、完全オリジナルの、笑いを極力排したネタでやられてたらかなりの好印象だっただろうに、遊び心が過ぎたせいで、単なるトンデモ展開としか思えなくなってしまったのが残念。
そして悪いことに一発ネタであるので、次からは二度と使えない。

「笑い」を武器にするということは、己が真剣な局面でさえも笑いとして捉えられてしまう危険性を秘めている。
そして笑いは、度が過ぎれば鼻についてうざいものでしかなくなってしまう。
その危うさを承知の上での冒険であるなら仕方がないが、今作に関しては、火遊びしていて家が全焼、というレベルな気がするのですが。

複数のシナリオライターで物語を構成すれば、各担当パートごとに齟齬が生じたり筆力の違いが気になったりするものだが、今作はどちらも均整が取れていてそこは非常にありがたかった。
ライターごとに落差がある作品というのは本当にトホホなので。
ただ、筆力は拮抗しているが、詰めの甘さも拮抗してるのは大問題。
最後があまりにも駆け足すぎ。細部の処理が適当すぎ。
デコ編は全体的に起伏に乏しく、事件が起こっても淡々としすぎる印象。(これは演出かもしれないが)
ホスト編は常に起伏に富んではいるが、文中で同じ表現を使いすぎているのが目につく。「とまれ」多用しすぎだよ。

以上、非常に手厳しいことばかり書いたが、二作目に期待していただけに落胆も大きかったというのが事実。
本来なら一発屋かどうかを見定められる重要な立ち位置であるはずの今作で、こんな体を張った暴挙に出た度胸は買おうとも思ったが。
ただ、1作ごとに存続がかかっているはずの体力に余地のないメーカーが、こんな危険を冒してはいけない。
確かに、このニッチな作風を好むユーザーしかついていかないタイプのメーカーではあろうが、一見さんお断りの雰囲気を出すのは10年早いと言わせてもらおう。
以降のユーザーを選別するという意味では正しいチョイスだと思うが、そんな余裕かましてる場合か? と余計な心配をしてしまう。
少なくとも公式サイトを見る限り、そんな余力はこれっぽっちも残されてなさそうな印象を受けるのだが。

悪ふざけとも言えるレベルのパロディに対して、笑いながらツッコミを入れられる寛容な心をお持ちの方向け。
あと、車田正美作品の知識がないとそもそも何がパロディなのかすら分からないと思うので、プレイ前に読破推奨
そういった面でも非常にプレイヤーを選ぶタイプの作品。

……最後に(ネタバレ危険→)坂を登ってる途中で終わるのはマジでやりすぎだと思うんだ。未完!

蠅声の王

シナリオ音楽演出システム総合評価オススメ度
82★★★

かつて隆盛を誇ったゲームブックを、あえてもう一度デジタルメディアを使って再現しようと試みた意欲作。
新ブランドならではの試みや、ゲームブックという媒体への愛が感じられて、私は非常に楽しめた。
ただし、ものすごくプレイヤーを選ぶ作品です。最近の、インストールさえしてしまえば、あとは手放しでクリア可能なような至れり尽くせりのシステムを良とする人には向きません。
複数のページに指を挟みまくり、手元にはメモ、鉛筆、消しゴム、さらには電卓をも用意して、ダイスと紙と文字が織りなす
冒険に敢然と立ち向かった人、もしくはこれから立ち向かおうとする人向け。
能動的にゲームを楽しもうとする姿勢がなければ、このゲームの面白さのキモは分からないと思うので。

新規参入なだけあって、まだまだマンパワーが不足しているらしく、絵と音楽、プログラムは外注。
だが、どれも非常に良いバランスでまとまっており、雰囲気はバッチリ。
特に絵は、どちらかというと硬質の文体のため、色気が不足しがちな今作において、それを補って余りあるエロさがあり、女性原画家にありがちな、ヒョロヒョロの体つきをした男もいないし、とても良い出来。
差分CGもかなりの数が用意されており、質量ともに充分。視覚的な満足度はかなり高かった。

音楽は、実にバラエティに富んだ作り。
喰屍鬼(グール)が跋扈する不気味な城の中では、いつ襲われるか分からないドキドキを煽るような緊迫感たっぷりの曲を。
戦闘時には迷宮の探索による鬱屈を晴らすかのような、ビートの利いたアップテンポの曲を。
全体的に抑えた曲調が多いのだが、どれもシーンにはマッチしており、納得のいく仕上がり。
ただ一つ不満なのは、これだけのボーカリストが参加しておきながら、ボーカル曲らしいボーカル曲が少ないこと。
EDと挿入歌の数曲だけ。しかもその挿入歌は歌詞が造語で、確かに雰囲気は出ているのだが、歌と言うよりはコーラスの
雰囲気が近いため、何だか肩すかしな感じを受けた。
宣伝材料にもボーカリストの名前は上がっているし、皆、すでに固定ファンがついているようなメジャーな歌い手だ。
作品の方向性を考えると、その選択は決して間違っていないのだが、惜しかったなぁと思う。

さて、プレイヤーによっては賛否両論があるであろうシステム。
とりあえず、足回りは標準的。もたつきもないし、落ちたりバグったりすることもない。
環境によっては落ちるらしいが、すでにパッチが配布されているので問題はないだろう。
では、何が賛否の対象になるのかというと、自由度がありすぎる、実に漢気溢れるゲームシステム。

ゲームブックというものをまったく知らない人のために説明すると、通常、プレイヤーはダイスを振ることによって、その値が指し示す次のシーンへと移動する。
これは戦闘も同様で、ダイスの目によって与えられるダメージが決まっており、その管理は基本的にプレイヤー任せ。
だが、アナログメディアであればこそのズルはし放題。
戦闘には問答無用で勝ったことにしちゃったり、先のシーンをちょろっと覗いて、危ないところがないか確認してみたり。
まさかデジタルメディアではそこまで再現するわけなかろう、ハッハッハ。なーんて思わなきよう。

このゲーム、(プレイヤーが)やりたい放題ですから。

確かにダイスは振れる。でも、その値に従わなくとも、何のペナルティもない。
ついでに、他のシーンには飛べないようになっていたり、そういう制限を設けているところもない。
極端な例を出せば、序盤でうろちょろしていたのに、次の瞬間にはEDシーンを拝むことも可能。
戦闘だって、振ったダイスの値が自動的に記録されたりすることもない。だから、たとえクソ目が出たとしても、脳内でなかったことにすることが可能。それどころか、「勝利した場合」の次シーンへ移動も可能。
公式ルールに則って、ダイスを振り続けるもよし。
ズルしてとにかく先に進むもよし。
自分ルールで好きなように遊べる無茶苦茶な自由度。デジタルメディアでありながら、つまり、そういう制約をプレイヤーに課すことが可能でありながら、あえてそれを行わない潔さ
「ゲームブックの面白さ」というものを信じていなければできない、大胆な選択だと思う。

そういう選択をしたことに、古のゲームブックファンである私としては賛辞を送りたいのだが、反面、ダイスの値やパラメータの変化が記録される、「管理モード」のようなものがあってもよかったのでは、と思う。
おそらく、それをやると、戦闘になかなか勝てない、迷宮から全然抜け出せないという、ゲームとしての難易度(&ダルさ)が飛躍的に向上してしまうから付けなかったのだろうが、せめて、パラメータの自動記録ぐらいはしてほしかった。
-7-2-3+5とか羅列してある、他人から見たら何の暗号かと思われるメモを片手に我に返ったとき、ちょっぴり、「ふー……」と己を振り返りたくなりましたので。

シナリオは、今作の特徴上、さほどボリュームがあるわけではないが、かなり魅力的な設定、キャラとなっている。
反面、その設定をフルに生かしきれているとは言い難く、そこが引っかかる。
せっかくの設定が説明されず、そこをもっと掘り下げると、AVGとしても相当楽しめるものになったのではないかと思うだけに残念でならない。
「ゲームブックの再現」という形にチャレンジした今作だからこそ仕方のない点でもあるのだろうが、舞台が限定されてしまっていて、あれ? もう終わり? という感が否めないのだ。
各キャラがそれぞれ所属する組織へ戻ってみるとか、最初は別の事件を解決するところから始まり、外から「蠅声の王」の恐怖や強大さをもっと浮き彫りにするとか、色々風呂敷を広げる手法はあるだろうと、ド素人が考えに至るくらい、色々なやりようのある深さを持つ設定だけに、もっともっとこのキャラたちと付き合いたかったというのが正直な感想。

反面、謎解きの手応えはかなりいいものを感じる。まさに往年のゲームブックレベル。
考えるのが面倒な人、ヌルゲーにどっぷり浸かった人には向かない難易度で、解けたときの爽快感はなかなか。
ヒネリの効いた問題も多く、それにはきちんと相応の報酬もあるのだから、思わずムキになって取り組んでしまう。
序盤~中盤は、廃村から城内の探索がメインであるだけに、ともすれば単調になりがちなのだが、随所に笑いの要素があったり、どこがデストラップに繋がるか分からない緊迫感があるだけに、なかなか飽きさせない。
(油断してると即死亡。「014へ行け」にそれこそ死ぬほど遭遇する羽目になる。この辺、まさにゲームブック)
また、中盤~後半は燃えるバトルや前述の謎解きも歯ごたえを増し、たたみかけるようにラストへとなだれ込む。
この辺のさじ加減は絶妙で、止めどころに困るほどに魅力的な展開であり、一気にプレイしてしまった。

以上、ゲームブック好きは思わず涙するほどしっかりとまとまっていて、この試みは一見の価値あり。
ただ、評価はするが、正直値段は高すぎる。これは、新ブランドで資金力がないだろうから仕方がないとは思うが、他メーカーなら4~5千円ラインに乗せてくる作品だ。
その方が、結果的にはもっと多くのプレイヤーに触れてもらえるような気がしただけに、販売戦略の練り直しが必要では、と思った。
余計なお世話だとは思うが。
フルボイスなわけでもないし、別にメディアがDVDでなくたってかまわなかったのでは。
CDだろうがDVDだろうが、面白い作品には容量やメディアの垣根はないので。
(マイベストエロゲーの月姫はCD、次点のYU-NOに至ってはFDだぞ)
ぶっちゃけ、特典はどれもいらないので、その分安くしてほしかった。鉛筆とかいったいどうすれば。
(私はメーカー直販で購入した)

とにかくシナリオだけを追いたい、エロだけを楽しみたいという人には不向きな作品。
そういう人はプレイしない方が、ユーザー、メーカー、双方にとって幸せであると断言する。
往年のゲームブックファンはぜひともおやんなさい。その忠実な再現ぶりに、思わず感嘆できることでしょう。