続・殺戮のジャンゴ -地獄の賞金首-
| シナリオ | 絵 | 音楽 | 演出 | システム | 総合評価 | オススメ度 |
| 8 | 9 | 8 | 9 | 8 | 84 | 虚淵玄ファン:★★★★ |
| 普通の人:★★★ |
ゲームシナリオとしては4年ぶりとなる虚淵玄氏の新作。
全ニトロファンの期待を背負い、制作発表がなされたのが今年(07年)の3月。
そして提示されたジャンル、「SF+マカロニウエスタン」、しかも主人公は女。しかも悪女。
これは、ヤバイ。
極めつき・重度のニトロファンである私でさえそう思った。
SFもウエスタンも非常にマニア嗜好の強いジャンルだし、何より、主人公が男でないエロゲというのは、通常のプレイヤーには感情移入しにくい。
特に、脳天パーで精神年齢小学生以下な、目だけがやたらとデカくて、ブローくらいしろよとツッコミたくなるほど髪の毛の収まりが悪い美少女と、どーでもいい日常をダラダラ過ごすのがエロゲーと勘違いしてる輩にとっては。
こりゃたぶん売れないだろうな。私は買うけど。
そう覚悟を決めた今年の春。
案の定、「ニトロ史上、最悪の予約率」(クリア後に見れるライナーノーツより)だったらしく。
うわー、業界のユーザー層ってのは分かりやすいもんだな、と思わず苦笑したものだ。
だが、あえて言おう。
虚淵玄は天才だと。
私が購入したのは「皆殺しパック」(定価9,240円 公式通販割引で8,180円)だったのだが、正直、このコストパフォーマンスの悪さはありえない。
総プレイ時間、5時間。1時間あたりの単価、1,636円。映画より高いよ。
それでもあえて言おう。
虚淵ファンならプレイ必至だと。
もうね、全編匂いまくりなのです。虚淵節が。
悪業に悪びれない。悪党であることに何の気負いもない。
「腹が減ったら奪えばいい。ムカつく野郎は殺ればいい」で、「ないモンは、ある所からかっぱらってくればいいんだよ」(いずれも作品本文より引用)という、実に分かりやすいキャラたちの人生哲学。
ゲーム序盤から、徒党を組んでいた仲間がバッタバッタと撃ち殺されます。そこには何の悲哀もなく、ただ事実があるだけ。
人間が死ぬことに関して、ウザったい逡巡も、殴りつけたくなる堂々巡りも一切なし。殺すか、殺されるかのみ。
殺られたら殺りかえせ。犯られたら犯りかえせ。盗られたら盗りかえせ。
この殺伐とした、けれどシンプルであっけらかんとした世界観を、実に魅力的に、何も考えることなく、ただ純粋に楽しませてくれる。
こんな芸当、虚淵玄以外に誰ができるか。
絵はメーカーから独立し、フリーとなったお馴染みNiθ氏。
肉体の描写やキャラの描き分け、人外キャラにも定評がある氏だが、今作のコンセプトには、特にベストマッチ。
悪女は皆ムチムチのボイーン、衣装はこれでもかとボディラインを強調し、相変わらずのにし~皺も健在。扇情的なことこの上ない。
男キャラの筋肉っぷりもナイス。一歩間違えばクリーチャーになりかねない亜人(馬頭とか豚頭とか獅子頭とか触手とか)のキャラデザも相当奮っている。
グラフィックチームの仕事はもう言うに及ばずで、完璧。
ただ、モブシーンが32ビット機のポリゴンみたいなどうでもいいキャラだったのはちょっと減点。
たぶん、「わざとらしいB級くささ」を出すための演出だというのは理解できるが、どうしても安っぽさが否めない。
せっかく高レベルのグラフィッカーを多数要しているのだから、モブくらい描いてもいいのではと思ってしまう。
それ以外では、武器や蒸気機関車、建物等、お得意の3Dとの融合もバッチリ。世界観に華を添えている。
演出はもうハンパでないくらいよく動く。
動きすぎて、スペックの低いマシンだとおそらく相当つらいことになると思われる。
作中、銃撃戦になる箇所では、マウス連打(実は押しっぱなしでもOK)によって、3Dグラフィックで描かれた建物内を探索することになるのだが、これなど、ロースペックマシンだと下手すりゃフリーズする危険性大なのでは。
とにかく、砂埃が舞い上がったり、拡大縮小したりと、動きのないシーンの方が少ないんじゃないかと思えるくらいだ。
ド派手な演出が、このどこまでもB級くさい(※褒め言葉)世界観を大いに盛り上げていると思う。
システムは毎度同じのニトロ仕様。
相変わらず、過不足はないのだが、今一つ使いづらい。
ロード時に若干間があるし、起動時に毎回ディスクを要するのも手間だ。初回起動時だけにならないものか。
今作は短かったからいいものの、長時間プレイを強いられる作品では、もはやこのレベルのシステムでは我慢しがたいと思う。
次作までに切なる改善を望む。
音楽担当も毎度のZIZZ。
しかしこの集団、実に幅が広い。
またもや、こんな特異な舞台設定をしてくるニトロに、しっかりと合ったものを用意してくる。
また、主題歌を担当するワタナベカズヒロ氏の声と、西部劇の曲調とが絶妙にマッチ。
劇中の、いとうかなこ氏が歌うカントリー風の歌も素晴らしい。
ことニトロに関しては、音楽の失敗というのは考え難いかも。
さて、虚淵玄ですよ、お客さん。
鬼哭街→沙耶の唄→白貌の伝道師→Fate-Zeroと、「どシリアス救いなしエンド」ロードを爆進してきた氏だが、こんな作品も書けるんだと、その器用さには舌を巻かずにはいられない。
たかだか総プレイ5~6時間の間に、状況はめまぐるしく変化し、さっきの敵は今の友、とも言うべき凄まじい立ち位置の変化が何度も訪れる。
今の今まで殺し合いをしていた相手と、次の瞬間には共闘するのだから、その変化がスリリングで目が離せない。
逆を返せば、すぐにでも寝首をかかれるということもあるわけだから、キャラたちの腹の読み合いにドキドキしっぱなし。
復讐と裏切りはマカロニウエスタンの醍醐味であるから、当然の展開ではあるのだが、その忠実な再現っぷりがもう楽しくて思わずニヤニヤしてしまう。
いつもの、無駄を省いた硬質の文体ながら、今までにはなかった下品なギャグや、絶妙なバカさ加減、苦手と言われていたエロシーンをあえて笑いに転化してしまう手法も面白い。
バッドエンド後に示される、「ガンマン十戒」などのシャレも気が利いていて非常に笑える。(しかもちゃんと10個ある)
かと思えば、もちろん震えるほどに格好いい燃える話も用意されており、もはやこのライターには死角はないのかと思ってしまう。
強盗にレイプ、大量殺人に騙し合い、そんな悪行のオンパレードだが、どれもこれもうまい具合に陰湿さを取っ払ってあり、それを魅力的に、とっておきのフィクションとして昇華しているので、罪悪感や不快感といったものがない。
実に良質のピカレスク・ロマンであり、娯楽作品としてこれ以上の評価があるだろうか。
電子機器の使用ができず、レトロな銃器に頼るしかない舞台設定に、思いっきりSFな設定を盛り込んでいるのだが、それに関してこの先どうなるのか、そして、銀河連盟や軍部との関係はどう転がっていくのか、もうこの続きはないのだと分かっていても、夢想せずにはいられない。
ただ、革命物やマカロニウエスタンのスタイルを踏襲するならば、この先に待ち受けるのは決してハッピーエンドではないことだけは分かっているのが、虚淵玄の意地の悪いところ。
考えれば考えるほど、いつも通りの救いなしラストに突入してしまうことはもはや明白(※1)なのだが、そこをあえて描かず、すっきりと爽やかなエンドに見せかけているあたりが巧妙で、ほくそ笑んでしまう。
(※1:なぜかと思う人は、(ネタバレ危険→)スイートウォーターにはレアメタルが眠っていること、銀河連盟に属する財団はその存在を知っていること、軍の上層部もそれを知っていると思われることを考えると明白。
採掘するにはプロトゾアンを滅しなければならないが、もしプロトゾアンと戦えば、地表生物は生存不可のダメージを食らうだろうということは作中明言されている。
ついでに、プロトゾアンと共存しようとする革命軍の命など、おそらくレアメタルより軽いと思われるので、銀河連盟が電子機器を持って介入してくれば革命軍の壊滅は必至)
正直言って、あまりにもコストパフォーマンスが悪すぎ、そしてあまりにもネタが特異すぎるので、とても一般エロゲーマーにはお勧めできかねる。
普通のニトロファンにすら勧めづらいくらいだ。
これはもう、筋金入りの虚淵ファン、もしくはこの全編に漂うB級くささにトキメキを覚える、お脳をやられてそうな人向け。
私はもう大好きです。こういうのを平気で出してきちゃったりするのがニトロのニトロたる所以。
例え売れなかろうが、好きなことを好きなようにやっちゃえるのがこの業界のいいところだよ。
利益は他の作品で出せばいい、という大手メーカーならではの体力と自信、それでも作品の作り込みはきっちりとする姿勢に漢を見た。
「さすがニトロ! 他のメーカーができないことを平然とやってのけるッ! そこに痺れる憧れるゥ!」
この精神を失わない限り、私は買い続けます。たぶん。