Bullet Butlers

シナリオ音楽演出システム総合評価オススメ度
84前作プレイ済:★★★
前作未プレイ:★★★★

今どき珍しいくらい、実に王道のファンタジーAVG。
そして、「執事」というものにハンパでないこだわりを感じさせる展開で、まさにタイトルに偽りなし。
ちなみにもちろん私は、戦う執事は大好物です。
ただ、良くも悪くも、王道であるがゆえに意外性には欠け、前作「あやかしびと」ほどの高揚感はなかった。
全体的には非常に良くまとまっていて、大抵の人が楽しめるエンターテインメントであるのは間違いないのだが。
どうしても前作の影がちらついてしまい、自分でも意外だが、のめりこむ、というほどではなかったのが残念。

絵は前作と同様、中央東口氏。
以前からは女性キャラの作風が少しだけ変わったようだが、相変わらずイッちゃってる殺人鬼とか抜群に上手い。
(※褒めてます)
また、渋い爺様とか亜人とか、とにかく通常のエロゲでは要しないはずのキャラが大変によろしい。
背景も、世界観を壊さないようきちんと配慮されたもので、好感が持てた。
両方とも塗りも丁寧で、質には問題がなかったのだが、物語の尺の割に使い回しが散見されたことが残念。
特に、戦闘シーンのバリエーションがやや少なく、できれば別の一枚絵を用意してほしかった箇所もあった。

システムは前作より大幅に改善され、大変好印象。ユーザーの声にちゃんと耳を傾けているのだな、と感心した。
何と言ってもボリュームのある作品なので、既読スキップが超強力なのがうれしい。
キー一つで一瞬にして未読部分に飛ぶので、スキップしている間に待たせられるといったイライラもない。
これは今後、主流になるべきシステムだと思う。もちろん、制作側はフラグ管理が大変にはなるだろうが。
バックログにきちんとルビが表示されるのも良い。特に今作はかなりルビを多用しているので、ログを辿ったときにルビがないと何じゃこりゃ、ということになりかねないので。
ただ、戻れる量も多く、音声再生にも対応しているのはいいのだが、表示のされ方が今一つ。
メッセージボックス内に表示されたものがそのままログとして表示されるので、奇妙にスペースが空いていて若干読みにくい。
手間を考えると仕方がないのかもしれないが、文に重きを置くAVGとして、これは改善の余地あり。

音楽は、前作同様可もなく不可もなく。
所々、おっと思わせる曲もあるのだが、無音の箇所も多く、同じような曲も多く、大した印象に残る感じではない。
ただ、SEの出来はなかなか良かった。
キャストは前回同様やりすぎ
声優ファンなら、制作サイドはいったい何を考えてるんだとツッコミたくなるほどの超豪華キャスト。
このキャストを起用して、本当にこの価格で売ってペイするのか疑わしくなるほどだ。
中の人ファンなら、TVよりこっちの方が喋るセリフも時間も長いだけ、お得な気分になれることうけあい。
むしろ、これだけのキャストを用意する番組自体がないよ。
一部、前作とも被ってますが、多くは皆実力派、ビッグネーム揃いで、もちろんキャスティングもばっちり。

演出はこれまたド派手。
アニメはないけれど、カットインやスクロール、拡大縮小と各種エフェクトを存分に駆使しており、迫力ある戦闘シーンの見応えは充分。
また、へたれ絵も用意されているが、今回は舞台が硬質な設定を持つ異世界であるため、少し浮いている印象を受けた。
前作は舞台が日本、そして学園物であったので、そこまでの違和感を感じずに楽しめたのだが。

シナリオはとにかく、「惜しい」の一言。
これだけの魅力的な世界観、広げればもっと広げられたであろう風呂敷を、無理に途中で畳んでしまった印象が否めない。
剣と魔法(と銃)のファンタジーだったら、最後は魔王が復活し、仲間と共に世界の命運を決する戦いに挑む展開に決まってる! と勝手に意気込んでいただけに、壮大な内輪もめで収まってしまい、思わぬ肩すかしを食らった気分だ。
時間がないのか、開発費がないのか、その他諸々の事情によるものかは分からないが、この設定なら、DVD2枚組のボリュームにだって耐えうる仕様であるだけに、残念で仕方がない。
おそらく、東出氏が小説で出してたらもっとボリュームがあったと思う。

私としては、全世界に散る”末裔たる者”とその執事たちが入り乱れてすったもんだという展開を期待していたのですよ。
「バトラーズ」というくらいなのだから。
それに、個人的趣味で申し訳ないが、老獪な初老執事が大活躍しなかったのが悔しくて×100(以下略)
執事と言ったら初老! 片眼鏡! 燕尾服! それが三種の神器なのにウワァァァァ!(バカですいません)

閑話休題。

もちろん今作には、そんな個人的趣味を補って余りある多数の魅力的キャラが存在する。特に男が。
東出氏は本当にキャラ造形とキャラ立てが抜群に巧い。いらないキャラ、どうでもいいキャラというのがおらず、それぞれにきっちりと活躍の場を与え、それを描ききるという点では、希有の才能を持っている。
特に、ガラの格好良さは異常。リザードマンなのに!
私は通常、人外キャラは非常に苦手、もちろん論外なのだが、それでもここまで格好いいと思わせる力がすごい。
もっとも、剣と魔法と銃と、ゴブリンだのドワーフだのエルフだのが普通に文化的生活を過ごしている日常とがミックスされた、とんでもない世界観を、違和感なく描いている時点でかなり非凡なのだが。

シリアスと掛け合いの緩急のつけ方も相変わらず巧みだし、無理矢理笑わされている感じがなくて、自然に楽しめる。
何より、肝心の執事がもうそれはきっちりと執事していて、最近の、「流行だから一応執事ってことにしときましたー」みたいないい加減さが微塵もなく、その徹底ぶりがとてもうれしい。
そういった作品自体の雰囲気は抜群だし、キャラたちが皆魅力的なこともあり、プレイ中、退屈や中だるみすることはないのだが、それでも、傑作であった前作とどうしても比べてしまい、あの破壊力には届かないのだよなあと我に返ってしまうのが残念でならない。

特にバトルが、使えば命を削ると分かっている「悪鬼喰」を多用しすぎている感があり、どうも重みに欠けるのだ。
だから、何も知らない最初と、総力を尽くすラストバトルこそ燃えるものの、中盤はピンチらしいピンチとして受け取ることができず、また、ピンチを気力で乗りきるといった、ある種体育会系的なノリにも辟易。
そりゃ、何の伏線もなしに特殊能力が発動とか、ご都合な展開だとうんざりするが、毎度が毎度、「イヤボーン」ならぬ「ご主人様ボーン」では、最後に勝つのは主人公に決まってる。
これでは、いかなバトルシーンを用意しても緊迫感が薄れてしまうというもの。
もっと、銃撃戦の中にも頭脳戦とか、バリエーションをつけてほしかった。
なまじ、古代竜VS欠落者のドラゴンブレス対決とか、不死者VSドラゴンブレスとか、拳銃使い同士の早撃ち対決とか、ラストバトルの燃え度がハンパでなかっただけに、そこが返す返すも残念。

各エピソードの処理の仕方にはどれもそつがなく、各敵役にきちんとスポットが当てられ、破綻なく着地しているのだが。
全体的にこぢんまりとしすぎていて、突き抜けた爽快感というものが薄い。
予定調和には予定調和なりの美しさや良さがあるのは分かる。コードを守るというのが実は意外に難しいことも分かる。
だが基本、フィクションというのは「何でもあり」だ。プレイヤーを騙し通せるのなら、何をやったって構わない。
だから、もっとひとつの街だけでなく、あらゆるところで暴れまくってほしかった。
これだけ広大な舞台を持ち、それを使える設定なのだから。

だが、各ラストの、負けた敵の扱い方は非常に胸に残った。ある意味、各キャラのエピローグより燃える。
特に(ネタバレ危険→)シドとアルフレッド。虚無から解放された二人が、今度こそ本当の主従の関係を取り戻すというエピソード。
やむをえない事情を背負い、本来ならば戦いたくなかった相手だからこそに許される救い。
トゥルールート、大団円に相応しいエピソードであると思う。

できることなら、追加シナリオやファンディスクを熱望。続編でも可。
それだけ世界観は魅力的だった。キャラ立ちも前作に勝るとも劣らないほど良かった。執事? もう最高だ。
でも、もっと高く飛べるはずだったのに、自らを律しすぎてかえって中空飛行になってしまった。そんな感じ。
もちろん、あらゆる部分で手堅く、決して失敗作でないことは認める。むしろ、かなりなレベルで誰もが楽しめる一作なことは間違いない。
ただ、前作を知らなければ。

よって、どちらも未プレイの方は今作→前作とやるのがいいかもしれない。
きちんとした執事物を求め、ついでにファンタジーの世界観についていける人には大変お勧め。
相当に力量のあるライターであることは事実なので、次作はもっと、いい意味ではっちゃけてくれるとうれしいのだが。

あやかしびと

シナリオ音楽演出システム総合評価オススメ度
87★★★★

SSの書き手として非常に有名な、東出祐一郎氏がシナリオを務めた今作。
元々、氏の作品が大好きな私としては、期待の一本だったわけですが。
昨今の作品には珍しいくらい、きっちりとコードを守った良質の学園伝奇AVG。
物語自体は、決してただのハッピーエンドではなく、それなりに犠牲を伴う展開であるというのに、誰にでも分かる形で伏線を完全に消化しているのと、着地場所がかなり良いため、EDにはとてつもない清涼感があり、プレイして良かったと思える快作。
はっきり言って、シナリオにはほとんど文句はない。限りなく9点に近い8点。
一部でこなれてない部分があったり、同じ段落中でも表現が重複していたり、そういう細かいミスが散見されるので8点としたが、それはほとんど瑣末な問題。

シナリオ以外は全体的にそつのない作りであるものの、システムがやや劣る。
実装機能はAVGをやるにあたって何一つ過不足がないし、とりたてて手酷いバグもないのだが、とにかくレスポンスが微妙にもっさりしていて、操作感は今ひとつ。
戦闘時のエフェクトなどはもたつきもなく、画面演出上は問題がないのだが、一度見たEDを飛ばせなかったり、細かいところで使い勝手が良くないのが残念。

音楽はごく普通。作中のBGMは、最近の傾向より、少しレトロっぽい曲調だが、作品にはマッチしている。
だが、取り立てて良い悪いということがなく、あまり記憶に残らない、平凡な印象なのが残念。
OPEDはボーカル曲だが、これもあまりパッとしない。
OPは、作中で展開されるであろう熱い闘いを予感させる仕上がりなためまだいいのだが、せっかくすっきりとしたEDを迎えても、肝心のED曲が重厚すぎて、最後の最後で大ジャンプに重しをされてしまったような印象を受ける。
というわけで、音楽面ではあまり高評価はできないのだが、音声面はすごすぎる
もう、登場人物の片っ端から、現在第一線で活躍中の主役クラス声優陣がこれでもかとわんさか登場。
このキャスティング、異常に豪華すぎてかえって焦ります。今回、事前情報まったくなしにプレイしたもんだから、虎太郎と九鬼が登場した際は、思わず息が止まりかけました。
エロゲをやらない声優オタクが聞いたら、悔しさと興奮で卒倒すること間違いなしの超豪華キャスト。
当然、ハズレなしです。

原画は燃えアニキと化物を描かせたら右に出るものなし、の中央東口氏。
氏はなぜこうも、私のツボをしたたかに刺激するアニキ共を量産しやがりますか。さては萌え殺す気ですか。
このゲームの最大の萌えポイントは、この絵にあるといっても過言ではない。
(ただし、伝奇バトル萌え者限定)

メ・ガ・ネ! メ・ガ・ネ! 坊・主! 坊・主! 隻・眼! 隻・眼!

すいません、取り乱しました。
とまぁ、作中にかなりのキャラが出てくるが、いずれも被ることなく、それぞれ大変魅力的に描かれていて、安心してゲームを楽しめる。
ああ、アホ毛のない原画は素敵だなぁ。

演出面もなかなか頑張っている。
最近流行りのカットインの多用、バトルの際のエフェクトなども格好よくまとめてあるし、ギャグパートでのへたれ絵も、ぴょこぴょこ動いたり、表情が変わったりして楽しくかわいい。
見せ方はかなり研究しているな、という印象を受けた。

さて、冒頭で高評価をしたシナリオ。
とにかく、日常パートの描き方が非常に巧い。いつまでもダラダラと描写を続けたり、毎日が同じことの繰り返しではなく、小さいけれど様々なエピソードが用意されている。
そして、そこでは登場人物ほとんどすべてにスポットが当てられる。
それも、取って付けたようなものではなく、その人物の個性や能力を生かした見せ場であるため、キャラそれぞれが強烈に印象に残り、物語を大きく盛り上げるのに一役買っている。
何よりも、皆クセの強いキャラなのに、ちっとも嫌らしさがなく、そんな彼らが織り成す空間はとても心地が良い。

肝心の攻略可能キャラは、黒髪ロングで戦う巫女さん(兼先輩)、プラチナブロンドのクールな戦闘美少女、見た目はロリで実は年上、でも無垢な人外、自らを殺して戦いに身を投じた軍服ねーさん。
死角がないよ、この布陣。何てスキがない。
展開も、この手の作風が好きな人ならたまらないシチュエーションばかりを、確実にピンポイント爆撃してきやがります。
マスター、このミサイルはファティマコントロールです、当たりますッ!(C)ファイブスター物語
ああそうだよ、斬り合いも撃ち合いもカーチェイスも復讐も大好きなんだッ!
東出祐一郎、恐ろしい子……!

プレイ時間だってそれなりに長いし、普通ならたるみがちな日常生活の描写も多いのに、途中、ダレをほとんど感じさせない、絶妙のさじ加減。
ギャグとシリアスの配分が、綿密な計算の元にきっちりと機能している。この構成力・調整力こそがプロの技、と素直に感心した次第です。
どちらかというとこの業界、ハイテンション突き抜けギャグ系が多く、実際そっちの方がウケやすいのに、決してそっちに流れることなく、あくまでも物語の雰囲気を壊さない、それでいてきっちりと笑いのツボを押さえたテキストは、かなりテンポ良く、ストレスをほとんど感じずにサクサク進むことができる。

シナリオの数少ない難点を挙げるならば、入れなくていいところにエロを入れてしまったことがまず一つ。
エロゲーだから、その姿勢はある意味正しいとは思うし、サービス精神も見上げたもんだとは思うが、いくら何でも、敵地に突入してまで3Pとかしないでください。あまりにも緊張感がなさすぎるよ。
しかも、当人たちは主人公除いて戦闘のプロ。そんな油断がどんな事態を招くかは分かりきったことなのでは。

そしてもう一つは、もういちゃもんの類なので軽く聞き流してほしいのだが、あまりにもきれいにオチすぎていて、逆に驚天動地の衝撃というのがないこと。
ネタとキャラを余すところなくきっちり使い、実に手堅くまとめている。それが確かに全体的なバランスが保たれた、高レベルの作品という評価につながったのだから、その選択は間違いではなかったのだが、どうしても落ち着きすぎちゃってる感が否めない。
良い意味での、「そんなアホな!」というツッコミどころがなく、伝奇物の魅力である、ド派手な荒唐無稽さを楽しむ余地が少ないのが残念。

また、ラストバトルをムービーにしてしまったのが痛い。文章の表示スピードが遅すぎて、スピード感や緊迫感がガタ落ち。
決戦という最大の山場では、決してプレイヤーの熱を冷ましてはいけないのに、コントロールを奪われてしまうことで、我に返らざるをえない。
それによって、有無を言わせぬ勢い、というものが削がれてしまったため、最後だというのにイマイチ乗り切れなかった。
しかも、(ネタバレ危険!)主人公も敵も、すでに人としての面影をほとんど残していない形状と化しているため、それまでの感情移入がどうしても途絶えてしまう。
RPGのラスボスなどではお馴染みの手法だが、私個人の好みが、「人の姿でありながら、人としての力を超えた者」なので、見た目が変わってしまうのは違うだろー、
と思ってしまうのだ。
絶望的な状況を打破するため、禁断の領域に踏み込むというのは大好きなシチュエーションであるだけに、余計にそれが
悔やまれる。

以上、色々と小うるさいことを言ったが、かなり多くの様々な要素をここまで盛り込んだのに、それらを破綻することなく、一つのカラーにまとめ上げたパワーは素晴らしい。
ただ、ほんの少々惜しむらくは、すべてにおいて冷静すぎた。シナリオは暴走しすぎれば興ざめだが、燃え系においては、多少突っ走るくらいがいいのだろうということ。
中には、冷静な筆致だが、それでも熱くてシビれる物語を生み出せる虚渕玄という稀有なライターもいるわけだが、これは確実にその系譜をリスペクトし、そこに連なる作品だと思う。

最初から最後まで非常に気持ちよく楽しめる、良質のエンタテインメント。快作、というのに相応しいと思います。
学園伝奇AVGという単語に身悶えできる人はぜひ。決して損のない一本です。