Fate/hollow ataraxia
| シナリオ | 絵 | 音楽 | 演出 | システム | 総合評価 | オススメ度 |
| 8 | 8 | 8 | 10 | 10 | 87 | ★★★★ |
※注! 当然ながら、「Fate/stay night」のネタバレが含まれますので、まさかいないとは思うが本編未プレイの人は要注意!
1年9ヵ月ぶりに満を持して発売された、TYPE-MOONの新作は、「Fate/stay night」のファンディスク。(以下FD)
「月姫」の際の名作「歌月十夜」の例もあるし、FD作りには定評のあるTYPE-MOON、当然今作も鳴り物入りで登場したわけだが。
作り込みの度合いが完全にFDを逸脱してます。これは紛れもなく新作です。
その、あまりにも長期に渡る開発や、FDにしては高すぎる価格設定等、正直不安を拭えなかったのだが、実際にプレイしてみたらば、なるほど、と納得できる作り。
おそらく、現時点での総力を結集したのであろう豪華な作りは、随所において前作よりも格段にパワーアップを実感でき、貴重な土日を惜しげもなく費やしてクリアしてしまった。
大幅に増強が図られたグラフィックチームは質量共に素晴らしい仕事ぶり。
武内氏の表情豊かな原画が、膨大な立ち絵と繊細な色遣いによって情感たっぷりに仕上げられており、イベントの大小に関わらず、それらを惜しげもなく次々と投入する物量作戦は圧巻。
FDなのだから当然前作からの使い回しもあるけれど、こちらの予想を遙かに上回る新規追加グラフィックの数々にはかなり満足できた。
また、全身図や没ラフなども拝める別のモードもあり、これもサービスたっぷり。
そして、これらの静止画を使った演出。
もはや、現時点でこれを上回る静止画の表現方法はないだろう、というくらいの多彩っぷり。
メーカー特典のアレ本2にも記載されていたが、これ以上だとアニメになってしまう、というのも頷ける。
それほどまでに、限界まで追求された絵と動きとエフェクトの相乗効果は、他の追随をまったく寄せつけないレベル。
それが別にビッグイベントではなく、単なる日常の一コマにも至るのだから、そのこだわり具合はハンパでない。
またそのエフェクトのかけ方やカメラワークも、非常に洗練されていて飽きさせない。
演出のつくりものじ氏のセンスに脱帽。
今までは音楽が弱かったTYPE-MOON作品だが、今回はこちらもかなり頑張った。
無音の箇所はほとんどなくなり、曲自体のレベルも進化。効果音は実に多彩で場を盛り上げる。
残念ながら、ボーカル曲のパンチが弱いのは相変わらずで、ここが未だ泣き所の一つではあるのだが、あえて外注にせず自社スタッフで健闘を見せているので、今後のレベルアップに期待したい。
(と言いつつも、テーマソングの「hollow」は結構好きだ)
システムに関してはもう何も言うことはない。ここまで揃っていれば文句なし。
デバッグを専門の外注に出しただけあって(スタッフロール参照)バグはないし、名物(?)であった誤字も、以前よりはかなり減っている。
高スペックを要求されるが、非常に安定しているし、TYPE-MOON作品ではお馴染みのシーンスキップが、繰り返しプレイを
要求される今作ではありがたいことこの上ない。
さらに、すべてのイベントを回想モードで見られるし、CG・サウンド・ムービーに関してもこれは同様。
ゲーム内で新規に登場したイベントには「NEW」や「!」といった目印も付くし、誰でも無理なくフルコンプできる仕様になっている。
まさにファンのために至れり尽くせりなのだが、その分、「ゲームをクリアした」という達成感は薄くなっている。
この点、「歌月十夜」はかなりの難易度で、終わった後の喜びもひとしおであったため、その点が惜しい。
シナリオは、とうとう奈須氏一人の手に負えなくなり、半分をサブライターが担当。
もちろん、メインシナリオは奈須氏が担当しているのだが、このゲーム、ユーザーの遊び方によっては、評価が大きく分かれてしまう危険性を秘めている。
メインだけを追っていけばボリューム不足。どうも食い足りない気持ちが強くなってしまうし、その後で日常パートを補完しようとすると、それがダレに繋がってしまう。
できれば、メイン→日常→日常→日常→メイン、くらいののんびりペースをお勧めする。
日常の些細な箇所にメインの伏線も張られていたりするので、いろいろと反芻しながら、じっくり取り組んだ方がよい。
また今作は、キャラを補完するエピソードがかなり盛り込まれており、その点で誤解しがちになるが、本編のどのエンド後にも当たらない状況下で繰り広げられるため、それを踏まえてIFの話と割り切った方がよい。
それが、TYPE-MOONのFDに対する姿勢なのだと思う。
思えば、「歌月十夜」も「お祭りディスク」だった。
随所で表現されてはいるが、「本来ありえない世界」の上に成り立っている、誰も失われていない、サーヴァントも現界したままという、多くのユーザーが願ってやまない世界観を、一作限りの夢として、祭りの非日常的な空気を纏わせて送り出してきたことの意味。
FDを購入するようなユーザーなら誰もが知っている本編EDの数々。
数々のキャラが消えていき、多くの別れを強いられたそちらがあくまでも本流であるのだから、それを考えると、どんなにはっちゃけた明るく楽しいエピソードも、切なくてたまらなくなる。
幻での約束は叶えられない。だから約束はしない。その日も訪れない。
一連の文化祭エピソードなどはまさにこれを体現しており、今遊んでいるこの世界が幻想なのだ、と分かってはいても、この幸せを終えたくない気持ちでいっぱいになり、同時にその幸せや楽しさが儚く得がたいものであることを実感し、ただただ愛おしい。
決して本編の感動をねじ曲げたりはしないその割り切り方が、潔いと思う。夢は夢であるからこそ価値がある。
全員助かってわーいハッピーなFateに、あそこまでの感動は生まれないはず。
さて、日常エピソードはかなり多めなのだが、残念ながらその出来には少々ばらつきがあり、同じネタを引っ張ったり力の入れどころを間違ってるような箇所も散見される。(蒔寺とか、そんなにいいキャラか?)
総じて悪くはないし、楽しくはあるのだが、できれば奈須氏一人で手がけてほしかった、というのが本音。
逆に、メインを張るバゼットのエピソードはやはり読み応えがあり、物語に吸引力がある。
ともすればメインエピソードだけを追ってどんどん進みたくなるのを、何とか堪えるので必死だったほどだ。
しかし、あれだけ宣伝材料で大きく取り上げられていたカレンの出番が今ひとつであり、キャラ立ちは良かっただけに、もう少し掘り下げがほしかった。つくづくメインシナリオのボリューム不足が悔やまれてならない。
お遊びとしてのミニゲームも充実しており、長くたっぷり楽しめる良質のFD。
値段分の価値は充分あると思います。本編をプレイされた方、ランサーファンの方はぜひ。
私はアーチャーが一番好きなのだが、今作で危うくランサーが下克上しかけたよ。
それくらい、彼にとって見せ場の多いシナリオです。
ひょっとして、本編でイマイチ報われなかった救済措置なのか? と邪推するくらいに。
ヒロインでなく、サブを補完するあたりがTYPE-MOONだと思います。いいわ、その姿勢。
ところで、花札のバランスが厳しすぎます。調整パッチ希望。_| ̄|○(ヘタレですんません)