魔王

単行本
2005年最大のヒット。と言っても、比較対象にできるほどの新刊を読んでいないのであまりあてにできたものではないが。

いつもの伊坂作品からすれば珍しく、好き嫌いのはっきり分かれる作風だと思う。私はもちろん大好きだ。
「自分で考えない」「結論を他者に委ねる」ことの危険性を、じわりと不気味に、けれど必要以上にくどくならないようによく書けている。
今作に対しては、政治や世間への警鐘とか、作者が意図した以上の過剰な反応をよく目にするが、そんなの、実は二の次じゃないのか。

作品は、兄が主人公の「魔王」と、弟とその妻が主人公の「呼吸」で構成されている。
そして兄は「魔王」の前に敗れ、物語は夭逝した兄から弟へと継承される。
だが、主人公サイドから見て「敵」とされる登場人物は最後まで倒れることはない。

兄が悲運に倒れたエピソードを考えれば、ハッピーエンドでなく、一般的な結末とは言い難いそれを、まったく理不尽さや不快感を伴わずに読者に受け入れさせる物語構成力が素晴らしい。
基本的に「面白いか否か」で物語を評価しがちな私が、久しぶりに、ああ、良い話だったと思えた。
文章は相変わらずさほど巧いとは言えないのだが、ビジュアルを非常に想起させる書き方だと思う。
だが、映像化すれば確実に陳腐になるであろう作品。この余韻は小説でないと味わえない。

登場人物の誰もがそれなりの価値観を持っていて、一般的にバカっぽいと思われがちな人物でも、そこにはきちんとした行動理念と知性が感じられて非常に好感が持てる。
娯楽の中でまでもバカにげんなりさせられるのにはもううんざりだ。
(何のアレということはあえて言わない。各自、思い当たる節でお楽しみください)

何より作中、不必要なキャラがいない、無駄のないプロットの妙。
だが、ちゃんと計算されてはいるが、純粋なテクニックだけでなくて情動も感じさせる。
軽妙洒脱で、重いテーマを扱っても必要以上に重苦しくならなかった伊坂作品の中でも、少し異質な雰囲気を持つ作品だが、それくらいでないとこの余韻は出せないと思う。
今まで私が読んだかぎりでは、アクは強いが、良い意味でどこか現実感の欠けた物語が伊坂作品の持ち味だと思っていたのだが、今作はかなり地に足のついた印象を受けた。
確かに説明しようのない不思議なエピソードや設定はあるのだが、メインはそれではなくて、どう生きるか、何を考え、何を成すか、ということに焦点が当てられていて、その結果、弟がラストで選んだ道というのが、少し切ないのに、すっきりとした爽やかさをも感じさせてくれる。
派手さはないけれど、滋味深いとでも言おうか。良作です。

阿修羅ガール

単行本 文庫

舞城新刊キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
何で私、こんなアッタマ悪そうな文章の本をいつもいつも喜んで読んでるんだろう。
ああもう、この壊れっぷりも、常軌を逸した表現も、読者が思わず目を背ける暴力の嵐もすべてが許せる。

テーマがものすごく真面目だから。

どんなに下品な表現をしようとも、この作品世界に嫌悪や侮蔑の感情が湧かないのは、ひとえにこの作品がこれ以上ないくらいに真摯な「小説」だから。
舞城作品の魅力はここにある、と私は見ている。

しかし、今回の作品は極めて難易度が高い。
これは舞城初心者には絶対にお勧めできない。
冒頭の主人公の突飛な人間像から、ラストの落ち着きっぷりに至るまで。

主人公の女子高生は昏睡状態で瀕死になったり、「行ってこい大霊界」になっちゃったり、途中から怪物に追いかけられるゴシックホラーになったり、殺人犯の視点に立っちゃうサイコミステリになったり。
そりゃもうめまぐるしく移り変わる世界に、読者は否応なしに放り込まれ、大混乱し、引きずり回される。
が、読後全然疲れないのは、このラストがとてもゆったりとして据わりが良いから。

今を楽しむ女子高生アイコが手に入れた結論は、
「判んないってことだけは判った」
で、
「楽しい、と感じている気持ちは本当だから、それなら結局全部オーライ」
と腰を据えてしまう。ある意味悟りを開いた、と言うのかも。

こういう結末を舞城以外の人が書くと、諦念になってしまったり、心を閉ざしてしまったり、という身も蓋もない描かれ方をされてしまい、興ざめするのだが。
今作のラストはじわーっと明るい突き抜け感を醸し出しており、私はとても気に入った。実にいい本です。
以下、今回の文中、一番印象に残った部分を引用。かなり長いけど。
(マジでこういう風に句読点も段落替えもない文章。私のミスじゃないよ)

「宗教心そのものもパクリだ。なんか心に穴開いた奴らがあ~やべ~何かに夢中んなりて~ってきょろきょろまわり見て、何かよくわかんないけど一生懸命空やら十字架やら偶像やら拝んでる奴らを見つけてあ、あれ、なんか良さげ~とか思って真似すんのが結局宗教の根本。布教ってのはそういうぼさっとしてるわりに欲求不満の図々しいバカを見つけてこれをパクって真似してみたらなんとなく死ぬまで間が持ちますよって教えてあげること」

こういうこと、一介の女子高生に言わすか、普通。
……だから好きなんだよ、舞城王太郎が。