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白貌の伝道師

単行本
注! この本は一般書店では(たぶん)置いてません。

お気に入りゲームメーカー、ニトロプラスの一押しシナリオライター、虚淵玄氏の新作。
というわけで、一般書店にはおそらくほとんど売ってませんのでご注意されますよう。
ご購入はメーカーor各種ネット通販か、そっち系の専門店でどうぞ。

今作ではファンタジー世界を舞台とし、エルフだのオーガだのゴブリンだのの単語に免疫がない人にはもうたまらない。
しかも漢・銃器・火薬弾薬を書かせたら業界で右に出る者なしの虚淵氏、たとえそんな世界であってももちろん大暴れ。
さすがに銃器こそないものの、その分おぞましくも凄艶な異形の武器がわんさか。

いつもより登場人物は少ないものの、その分濃密でスピーディーに展開する物語は、それが異世界のものであっても難なく入りこめる。
ただそれが、

超・どす黒い

ので、「ハッピーエンド至上主義」とか、「それでも最後に愛は勝つ」とか寝ぼけたこと言ってる人は今すぐ回れ右してお帰りなさいませ。
そうじゃないと、たちどころに痛い目を見る羽目になり、立ち直れなくなりますよ?

この物語に救いはない。
哀しいくらいに切ない愛もないし、「沙耶の唄」のような形のいびつな幸福もない。
あるのはただ、破壊、破壊、破壊。
死、死、死、死、死。
絶望、絶望、絶望、絶望。
それによってもたらされる凄惨なカタストロフのみ。

ただ、今作の主人公はたぶん歴代虚淵ヒーローのなかでもナンバーワンクラスの強さを誇っており、その圧倒的な存在感に脳ミソ蹂躙されるのはとても楽しい。
これほどのピカレスクヒーロー像は昨今では珍しいと思う。
悪役が強いとうれしくなる私はすっげー気に入った。目下誰にも倒せなさそうなのがまた良い。

悪役は悪くあれ。ただ強くあれ。己の目的を叶えるためだけに邁進せよ。
情を持つな。「実はいい人」になるな。最初と最後で立場を違えるな。
常に余裕を持ち、すべてを嘲笑い、腹の内を見せるな。

というのが私の「悪役の哲学」なのだが、今作主人公は全部当てはまる。つーか軽く凌駕。
負のエネルギーに満ちあふれた、世界の破滅の物語。そういう話が好きな人だけ読めばよい作品。
虚淵ファンは読むべき。いいです、この黒っぷり。

ブルー・ヘヴン

1巻 2巻 3巻
う~~~~~~ん……高橋ツトムにしては、最後に救いがありすぎるような。
もうちょい不気味な終わりにしてもよかったな……と考える私は人でなしなのか。
これよりは3巻同時収録の短編、「69」と「ROUTE69」のキレの方が断然良い。
イッちゃってるカップル描かせたら第一人者かもね、この人は。
内容はまさに高橋ツトム版「ボニー&クライド」。
好きだなぁ、こういう突き抜け方。

プラネテス

1巻 2巻 3巻 4巻
悪食の私が、万人に、初対面の人にも臆面なく勧められる本。
(普段は人格を疑われるのが嫌なので、人に合わせて作品選びます)

何て言えばいいんだろう。この話大好きなんだけど、適切な言葉が見つからない。
いい作品、すごい作品、素敵な作品、いずれも合ってるけど、微妙にニュアンスが違うんだなぁ。
強いて言えば、「素晴らしい作品」ってことになるのか。

宇宙を舞台に繰り広げられるこの圧倒的なまでに重厚な人間ドラマ。
それでいて宇宙空間としての設定もおろそかにせず、「なんちゃってSF」になるのを防いでいる。
何より、SFでありながら分かりやすい、ってのがミソだ。
こうして、生粋のSF者にも、SFに拒否反応示しちゃう人にも受け入れられる深さと間口の広さを併せ持っておきながら、そのどちらにも偏りがないってだけで相当の力量が伺われるのだが。

1巻では宇宙の緩やかな広がり、2巻では主人公の葛藤、そして3巻ではそのすべてを許容する宇宙の大きさ、と見せつけられて、一介の読者としては、もう諸手を挙げて全面降伏するしかない、といったところか。

ツッコミ所がないんだよ、この話。完成されている。
そのくせ、「読まされてる」感がない。むしろ、むさぼり読みたい。

主人公が自分の内面と対峙し、自身が「弱さ」と思っていた部分を強引にねじ伏せ、自ら望んで盲信しようとする道に進むくだりなんかは本当に痛い。
本当は、わずかな躊躇や欺瞞を抱えつつ。その進む道の意義を誰よりも疑っておきながら。

結果、主人公の目は落ちくぼみ、頬は削げ、眼光だけが爛々と光り、ありのままの「自分」としての姿をだんだん失いながらあがき続ける。
夢に向かって努力しているはずなのに、その姿はまるで「生ける屍」のようにすら見える。
読者を突き放してるんじゃないか、と思うくらいに展開に追い込みがかけられ、そのギリギリ感で読むのをやめたくなるほどだ。

だが、そこで読者の離れかけた心をするすると引き戻す、海の中に宇宙を見出すくだり。
ひいては、
「この世に宇宙の一部じゃないものなんてないのか。オレですらつながっていて、それではじめて宇宙なのか」
と気づくくだり。
これは東洋的思想だったと思うのだが、あえて日本人にも馴染みの深いこの手の世界観を、(西洋偏重のきらいがある)SFに持ってきた、という演出の巧みさ。
月を見て、「綺麗だ」とか「美しい」より、「おいしそう」と言ってしまうマヌケさ。

この力加減の絶妙さが、未だ宇宙に馴染みの少ない我々にも居心地の悪さを感じさせない、そして、この話に引きつけてやまないキモだと思う。

読後、「ああ、この本を読んで良かった」と素直に思える貴重な良本。
続巻が楽しみです。遅筆なのがなんとも……(Tд⊂)

余計なお世話だが、この作者、デビュー作でこんなすごいのを描いちゃってどうするんだろう。
次作からがものすごいプレッシャーだと思うのだが。

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