1  |  2  | All pages

オーデュボンの祈り

単行本 文庫
伊坂幸太郎のデビュー作。私にとっては読破3冊目になる。
他2作もそうだったが、この作家、伏線の張り方と着地の仕方が素晴らしい。
無駄なく、無理なく、それでいて実に鮮やかですっきりとした仕掛け。
「カカシがしゃべる」というシュールな世界を、軽妙なテンポでさほど違和感なく納得させる手腕は、デビュー作だというのに、新人らしからぬ洗練されたもの。
スタイリッシュな作品が陥りがちな、浮ついた空疎さはなく、むしろ、一つも無駄な部品のない、精巧な時計細工のようだ。
だが、その陰にある緻密な計算を感じさせない軽い読後感、爽やかな読み口。そしてそれが嫌味じゃない。
最後の1ピースまで、きっちりとはまる気持ち良さが味わえる、最近珍しいミステリ。

魔王

単行本
2005年最大のヒット。と言っても、比較対象にできるほどの新刊を読んでいないのであまりあてにできたものではないが。

いつもの伊坂作品からすれば珍しく、好き嫌いのはっきり分かれる作風だと思う。私はもちろん大好きだ。
「自分で考えない」「結論を他者に委ねる」ことの危険性を、じわりと不気味に、けれど必要以上にくどくならないようによく書けている。
今作に対しては、政治や世間への警鐘とか、作者が意図した以上の過剰な反応をよく目にするが、そんなの、実は二の次じゃないのか。

作品は、兄が主人公の「魔王」と、弟とその妻が主人公の「呼吸」で構成されている。
そして兄は「魔王」の前に敗れ、物語は夭逝した兄から弟へと継承される。
だが、主人公サイドから見て「敵」とされる登場人物は最後まで倒れることはない。

兄が悲運に倒れたエピソードを考えれば、ハッピーエンドでなく、一般的な結末とは言い難いそれを、まったく理不尽さや不快感を伴わずに読者に受け入れさせる物語構成力が素晴らしい。
基本的に「面白いか否か」で物語を評価しがちな私が、久しぶりに、ああ、良い話だったと思えた。
文章は相変わらずさほど巧いとは言えないのだが、ビジュアルを非常に想起させる書き方だと思う。
だが、映像化すれば確実に陳腐になるであろう作品。この余韻は小説でないと味わえない。

登場人物の誰もがそれなりの価値観を持っていて、一般的にバカっぽいと思われがちな人物でも、そこにはきちんとした行動理念と知性が感じられて非常に好感が持てる。
娯楽の中でまでもバカにげんなりさせられるのにはもううんざりだ。
(何のアレということはあえて言わない。各自、思い当たる節でお楽しみください)

何より作中、不必要なキャラがいない、無駄のないプロットの妙。
だが、ちゃんと計算されてはいるが、純粋なテクニックだけでなくて情動も感じさせる。
軽妙洒脱で、重いテーマを扱っても必要以上に重苦しくならなかった伊坂作品の中でも、少し異質な雰囲気を持つ作品だが、それくらいでないとこの余韻は出せないと思う。
今まで私が読んだかぎりでは、アクは強いが、良い意味でどこか現実感の欠けた物語が伊坂作品の持ち味だと思っていたのだが、今作はかなり地に足のついた印象を受けた。
確かに説明しようのない不思議なエピソードや設定はあるのだが、メインはそれではなくて、どう生きるか、何を考え、何を成すか、ということに焦点が当てられていて、その結果、弟がラストで選んだ道というのが、少し切ないのに、すっきりとした爽やかさをも感じさせてくれる。
派手さはないけれど、滋味深いとでも言おうか。良作です。

砂漠

単行本
伊坂流青春小説、というところか。
ごく普通の、気ままで、ユルくて、それなりに起伏のある一般的な学生の平穏な日常に、ちょっとだけ異質な体験を絡ませるというプロットなので、本来なら退屈になるきらいがあるが、テンポがいいのでさほどつらくはない。
学生生活を題材にした作品というのはすごく青臭くなりがちなものだが、嫌味がなくてさらっとしているのは相変わらず。
ただ、他の伊坂作品のように思わぬところで思わぬ伏線が明かされるサプライズはない。

基本的に、予定調和のラストはぼんやりと予想できながらも、箱庭の中の人物がちょこちょこと動き回るのを俯瞰で眺めてのんびり楽しむ、という生活シミュレーションゲームの雰囲気に近い。
とてもリアルな学生像でありつつ、現実的な生臭さを感じさせない作風が、さらにそれに拍車をかけているのかもしれない。
ちなみに、現実に西嶋みたいな奴がいたら絶対ウザい。私だったら友達になる以前に避けて通りたい。

ラッシュライフ

単行本 文庫
うわぁ、どうしよう、この作品。
すごく感想書きたいのに、何を書いてもネタバレになる。
というわけで、反転させていただきます。
未読の方で読破予定の方はくれぐれも見ちゃダメよ。

実にシャープな切れ味の、スマートな群像劇。
それぞれ5人の人物から成る独立したストーリーが、いったいいつクロスオーバーするんだろうと考えた時点で、すでに読者は手遅れ。
むしろ、「あ、これはあっちと繋がってるな」とわざと読み取れるような記述がそこかしこにあり、ミステリ初心者ならそれを鵜呑みに、上級者なら「ミスリードだろ」と懸命に作者の目論みを看破しようとすればするほど、巧緻に張り巡らされた罠のドツボにはまっていく。
作品中、全編に渡ってものすごく巧みな叙述トリックが駆使されており、一ミステリファンとして単純に騙されて悔しいのと、その素晴らしさに感銘を受けたのと半々の複雑な気持ちです。

そうして物語が進めば進むほど、「あれ?」と思うことが多くなり、読者はとうとう気づいてしまう。
同時進行だと思っていた5つの物語すべてが、意図的に時系列を入れ換えて配置されていたことに。
それぞれの物語の収束(だと思っていた記述)が、この先もずっと連環していくであろう別の物語を発生させる様は、どんなに登っても登りきれない、まさに冒頭のエッシャーの騙し絵のようだ。

そして、いくつもの意味に取れる「ラッシュライフ」という言葉をタイトルに据えるセンスの良さ。
この実に心憎い演出や、小説の利点を最大限に生かした巧妙なテクニックに、決して騙されないよう気をつけていたはずだったのに、まんまとそれに引っかかり、、思わず「やられたっ!」と膝を打つことうけあい。

これは、私が初めて読んだ伊坂作品である「陽気なギャングが地球を廻す」のときも感じたのだが、良い意味で読後感にヘビーさがないのがこの作家の持ち味なのかも。
たぶん意図的なものだと思うが、随所に施された寓話的な設定が効果的。
現実がんじがらめでどうしようもない閉塞感に彩られることの多い現代物に、少量のファンタジーを加えることで、実は結構ハードな各登場人物のストーリーが、必要以上に重たくなるのを防いでいる。

また、映画的なセリフ回しも気が利いていて、そこからくるフィクションっぽさが妙にはまっている。
世界観にどっぷりつかることはないけれど、一歩引いた視点で、俯瞰で物語を眺められる気持ちよさ、というのはまた格別。
さらっとしていて、ユーモラスで軽妙洒脱、それでいて奇妙に満足した気分にさせられるのは、この「神」視点が実に効果的に演出されているからだと思う。

全編にゆるやかなスピード感があって、後半それが一気に加速し収束(または拡散)していく様は圧巻の一言。
とにかく伏線が鮮やか。この罠にはまるのが、一度は煙に巻かれて、それがまた晴れるのが最高に気持ちイイ。
読破2冊目にして「作家買い」(←その作者の作品は問答無用ですべて買うこと)認定。
すごいぞ、伊坂幸太郎。

陽気なギャングが地球を回す

新書 文庫
世評がだいぶ高くなってきて気になっていたところに、趣味の合うサイト常連様からもオススメをいただいたので、とりあえず自分が一番読みやすい形態であるノベルス作品から、とチョイスの初・伊坂幸太郎作品。

こりゃ面白い。深い余韻や私好みのカタストロフがあるわけではないのだが、とにかくキャラが立っていてちょっとクセがあるくせに、セリフ回しも展開も軽快で実にサクサクと読みやすい。
4人の主人公グループは銀行強盗なのだが、その行動の裏に悲壮な理由や陳腐な政治観とかないのがまた良し。
ぶっちゃけて言えば、倫理観が奇妙に欠落しているのだが、おかげで良い意味でリアリティを感じさせず、「これは物語だから」と非常に割り切った楽しみ方ができる。
強盗なんだから本当は悪事なんだけど、それが痛快だと感じることに対して後ろめたさを覚えることがなく、実に爽快な後味で読み終わることができるのが良。
純粋な娯楽作品として、非常にレベルの高い作風だと思う。

また、伏線の張り方がかなり巧みで感心させられた。
最近は、「そんなこと書いてあったっけ?」というレベルのものが多すぎて、実際作者が後書きで伏線の解説をしちゃってるようなダメ作品すらあるのだが、本来、伏線というのはそんなものがなくても分かって然るべきものだ。
この作品では、後から「うわっ、確かにあそこにそういう記述があった!」と思い至ることができ、しかも瞬時にそのシーンを明確に思い出すことができた。
あまり書くと強烈なネタバレになってしまうので控えるが、それに途中で気付いた人も、ネタを明かされるまで気付けなかった人も同じくニヤリとできる、実にセンスの良い仕掛けです。

どこかとぼけたところがあるけど、おおむねクレバーな人物達が繰り広げる、二転三転の銀行強盗ストーリー。
手軽に楽しい作品を読みたい方にお勧め。
私は……伊坂作品を買い集めねば。(←ハマったらしい)

 1  |  2  | All pages