1  |  2  |  3  | All pages

空の境界

新書版 上 新書版 下 文庫版 上 文庫版 中
読み終えた後、久しぶりにカタルシスを味わえた作品。
なのだが、実はレビューを書くつもりはなかった。
本当に大好きな作品であることは確かなのだが、それをうまく言葉で伝えられる自信がなかったし、何より読み手を選ぶこと、感覚に訴える部分が多すぎて、とてもレビューの書きにくい作品であると思っていたから。
だが、私自身、奈須きのこ氏の大ファンであり、先日行ったアンケートでもかなりの方がレビューを希望していたので、玉砕覚悟で挑もうと思う。
この無謀な試みを笑ってスルーできる方のみ、しばしお付き合いください。

”新伝綺”と銘打たれてはいるが、中身は実に正統的な血脈の流れを汲む伝奇小説。
「痛覚残留」と「矛盾螺旋」はまさにそれを地で行っており、テンポも良く、非常に読みやすい。

だが、「矛盾螺旋」は「空の境界」というストーリー群の中で根幹を担う話でもあり、それまでには小出しにされてきた世界観が、さらに圧倒的な質量を伴って読者に襲いかかる。
この小説の売りの一つでもある緻密な世界観は、どうしても文中では説明的になってしまうきらいがあるが、ゲームや漫画といった、いわゆるオタク文化に慣れている人なら、たぶんさほど苦痛にはならないだろう。
だが、純粋な文芸畑の人が初めて手に取るこの手の本としてはかなり不向き。
どっぷりオタク文化に馴染んだ人間ですら、時に難解な設定に混乱を余儀なくされることしばしば。
まずこの段階で投げ出してしまう人、多数いるんじゃないだろうか。
今レビューは、それでもめげずにエピローグまで読破できた方を対象にしています。

読み始めからしばらくは、膨大な情報量と錯綜する時系列に翻弄されがちなのだが、最終章が佳境に入った頃からエピローグに差し掛かると、もう息が詰まるくらいに加速する切れ味に全身の皮膚が粟立つ。
作中はあくまで静かな場面であるのに、だ。

読者を圧倒せずにはおれない作品が持つオーラというのは、打ち倒されるほど激しい熱風か、まるで鋭利な刃物のような寒波との二通りあると思うのだが、この作品は後者。
吐く息すら凍りつきそうな、冷たく澄み切った空気のただ中に、たった一人で佇んでいるような凛とした厳しさと緊張感がある。
かといって湿っぽさは一切なく、どこまでも無色透明でがらんどうなイメージは、まさにタイトル「空の境界」にふさわしい。

私は、ライトノベル・同人系にありがちな、「自キャラ萌え」や商業発表した自分の作品の同人誌を自分で作るような手前味噌な行為も、度が過ぎれば興ざめしてしまう質だ。
だが、それ以前に、作者が自分の作った世界観を大事に思わず、その作品世界を単なる表現の道具として使い捨てることの方を不快に思う。
(庵○秀○監督とかね。私がエ○ァを高く評価できない理由がこれ)
しかし、奈須氏はこの辺のバランス感覚が非常に優れているクリエーターだと感じた。
同人作家にありがちなこういう傾向や、途中で突拍子もない方向から現れる後付け設定もなく、あくまでも道を見失わずに一つの世界観をきちんと貫き通している。
そして、その冷静な意志の元に閉じられたこの物語にある種の美しささえ感じる。
しかも、その世界観が緻密に強固に編まれているもんだから、一度その固有結界に捕らわれてしまうと、脱出はもはや不可能。
かくして、ドツボにハマった人間の末路がこれ

ラスト、一見幸せな予感に満ちた最終章を終え、エピローグ「空の境界」へと読者は進む。
そして、そこであまりにも切なく、だがある種の爽快感すら覚える喪失を体験する羽目になるに違いない。
(日本語変ですが、本当にそうなんだよ……たぶん)

起源が「普遍性」である黒桐は何も望まない。何も得たがらない。そして何一つ、得られない。
それが、彼が惹かれた少女とようやく邂逅し、そして永遠の別離になるときでも。
式は自分の「虚無」を黒桐を得ることで満たすことができるけれど、何も得ない黒桐は今後も空っぽであり続ける。
そして、その自分に疑問も不満も抱きもしない。その状態は「幸せ」で、彼は何も望まないのだから。
それが、この一文に集約されている。

ああ、それは――。
「なんて、孤独――」

この鮮やかすぎるエピローグに、私は寒気すら覚えた。
誰の幸せも壊していない。でも、この心の隙間は埋められない。
それこそ作中何度も登場する「  」であり、たぶん、多数の読者が分かっていたようで分かりきれなかった感覚だ。
それを、この大ラスで味わわせてくれるとは。
このキレ。構成。破壊力。クセになる人にはたまらない中毒性があることを忠告しておきます。
いやホント、「きのこ中毒」って死に至る病になりえますから。(それは毒きのこだよ……)

ちなみに、「月姫」「Fate/stay night」プレイ済みで今作未読の人。
上記ゲームが気に入ったなら、ぜひ読むことをお勧めします。
オーバーラップする世界観を、別角度からの切り口で味わうことができてとってもお得間違いなし。

きみとぼくの壊れた世界(体験版)

新書
……どうしよう。
メフィスト5月増刊号に載った作品のうち、一番面白かったのがコレだったなんて(汗)
西尾維新にだけはハマるまいと心に決めていたのに。

なぜかと言えば、メフィスト系若手作家の中でも、ずば抜けて量産型、そして舞城王太郎とは別の方向に突き抜けちゃってる感が強い、ヤバイ作家だから。
必定、読者も圧倒的に若い世代が多く、私もそろそろ中年領域かな~、と思い始めてた矢先だったのに。
今回載ったのは、作者からの「読者への挑戦」を含む謎の提示部のみ。
解決編は製本版で……ってことはこれ、私に買えってことですか!?

--------------------------------------------------------------------------
それではさようなら倫理。もう二度とお目にかかることはないでしょう。
今までありがとう道徳。本当にお世話になりました。僕は、妹を、愛します。
(本文より引用)
--------------------------------------------------------------------------

……そういう(それだけじゃないけど)話なんです。くそっ、うかつだった。
うあぁぁぁぁ~確実に墜ちてるぅ(⊃дT)
早く製本版出ないかな(死)

塊根の花


超ひっさしぶりに登場のJ&Jシリーズ、続編。
ああもう、この時々垣間見える毒々しさがたまらない。
全編に漂う禍々しさより、少量の毒の方が、効果が劇的だったりするアレですね。
(もちろん、全編はっちゃけてるのも大好きだけど)

今回の作品中では、「妻弾き」と「話しちゃいけない」が双璧かな。
「話しちゃ~」では前巻「仙木の実」からの伏線も消化されていることだし。
絵も相変わらず綺麗な描線だし。荒れてる回ってのがほとんどないのが良。
単行本だから、そこそこ描き直し等入ってるとは思うけれど。
総じてレベルが高く、安定してるいい漫画家です。

これでもうちょっと単行本の値段が安かったら言うことはないんだが……。

吸血殲鬼ヴェドゴニア MOON TEARS

吸血殲鬼ヴェドゴニア MOON TEARS
前作「吸血殲鬼ヴェドゴニア WHITE NIGHT」に続く完結編。
力業ですね。よくぞここまでまとめ上げました。ノベライズとしては十分に及第点です。
モーラの出番が少ないのが泣けたが。

すいません、前作もそうだったんだけど、各章題が主題歌とリンクしてんのね。
今気づいた愚かな私。
しかも内容ともマッチしてるし。なかなかのアイディアです。

多少ゲームのシナリオとは変わっているものの、主題は変わっていないし、ラストでリァノーンのエンドを選択したのも手堅い仕事だなぁと。
こういうとき、小説って一つのエンディングしか採れないのが辛い。
ゲームだったら複数用意できて、プレイヤーが一番気に入ったエンドを覚えていればいいわけだから。

ゲーム本編でもそうだったけど、ギーラッハの最期には燃えたよ。騎士はいいねぇ。

KLAN 5 苦闘編

文庫

※注! 分類上、著者を田中芳樹としていますが、実際には原案参加です。

……うわぁ。やっちゃった。
はっきり言って、「黄土の夢」(注1)になっちゃってるよ。
どう考えても田中芳樹案じゃない展開、どっから降って湧いてきたのか知らん後付け設定、隠しきれてないしょうもない伏線、お粗末な脇キャラ扱い、とおおよそ挙げるにいいだけ挙げられる、ダメノベライズの見本みたいな作品。

4巻まで執筆してた、霜越かほる氏はどこへ行ったんですか?
氏がかなりの健闘を見せていたので、わりかし納得して読んでたのに。これじゃ、購買意欲が低迷。
ラストだけは田中氏本人が書く、って以前言っていたけど本当だろうか。

著者が今回の浅野氏に変わってから、キャラの人格が変わってしまったのはいただけない。
おまけに文は下手だし、三点リーダの使い方とかも変だし。
しかも、ライトノベルの悪癖がモロだし。
「とりあえず恋愛話絡ませとけ」な展開で、キャラの人格は薄め、知性も薄め。理性も薄め。
言っておくが、田中作品に複雑な恋愛話は不要。
元々作者が「苦手」って公言してるんだし、読者もそんなの求めとらんわ。

ただラストのためだけにこのシリーズ買ってますが、限界近いです。
頼むから早めにラストにこぎ着けるか、たぶん大量に届いているであろう非難の手紙でも読んで、早々に軌道修正してくれることを望みます。


注1.田中芳樹がまだ絶好調に執筆してた頃、本当に筆が追いつかなくて原案という形で参加した作品。
が、執筆者がとんでもなく力量不足だったため、稀にみるつまらない本となり、全3巻のうち、この生粋の田中信者の私ですら2巻までしか買っていないという、ある意味すごい本。
実際、この作者はこれ以来何の執筆もしておらず、読者からどういう感想が寄せられたのかが伺い知れる。

吸血殲鬼ヴェドゴニア

吸血殲鬼ヴェドゴニア WHITE NIGHT
あまりにもゲームが面白かったので、うっかり買ってしまったノベライズ。
ま、ライターである虚淵玄氏がノベライズの際も監修してるんだから、間違いないだろうと思っての購入でしたが。
「つづく」って何だー!!

一冊で終わりだと思ってたのに! 聞いてないよ!!
ああああ、確認してから買えばよかった(;´д`)

中身は大変満足。
確かに「小説」としてはライトノベルの域を出られないんですが。
ストーリーはゲームと大筋変わらず安心。
このままだと、たぶん一番好きなエンディングの展開に持っていく……はず。
サウンドやビジュアルがない分、こっちの方がゲームよりも直球勝負かも。
骨太で飽きることのない展開で、この手の吸血鬼物が好きな人にはお勧めです。

殺しも鯖もMで始まる

新書
未だデビュー作にお目にかかっていない、ここ最近の気になる作家「グレさん」(通称)。
 ↑
(初版が少なすぎ、しかもまだ文庫化していない)
どちらかというと、ミステリよりメタ・ファンタジーやハードボイルド寄りの作風だったが、今回は文三(※1)、最大の地雷企画「密室本」(※2)で密室ミステリに初挑戦! ……だったのだが。(注釈は一番下に記載しました)

相変わらず地味だが抜群のトリップ感で、すらすら読める。
だが、実に「変なミステリ」。
別にダイイングメッセージが「サバ」、「ミソ」だからじゃないけど。<本当にそうなんだよ

殺しも出てくる密室もある、名探偵も謎解きもある。
でも、読後にあるのは「爽快感」じゃなくて「浮遊感」。
綺麗にオチもつくし、多少強引なトリックではあるものの、許容範囲であることは確か。

そうして身構えて、固い木の床に足を踏み出したつもりで、実はその床がゼリー状にグニャグニャしていたかのような驚きに満ちた一冊です。
分かりにくくてすまん。
本編を読むのが一番手っ取り早い、ということで。<逃げ


※1.講談社文芸図書第三出版部の略。文芸史上最も玉石混合な受賞作を乱発する「メフィスト賞」の生みの親。諸悪の根元。又は類い希なる目利き集団。

※2.講談社ノベルス20周年企画。小説の本文自体が「袋とじ」(つまり密室)となっており、これにちなんでメフィスト賞受賞者たちが「密室」をテーマにした作品を刊行。
この袋とじに「応募券」が付いており、それを5枚集めると、メフィスト賞選出の際、編集者たちが作品について論じた座談会をまとめた本がもらえる。
……もちろん私は5冊買ったよ(死)

ガンスリンガー・ガール

1巻 2巻 3巻 4巻 5巻 6巻 7巻 8巻 9巻
■1巻
うっわ、この絵でこの設定、そりゃエグイでしょ。
ってのが読後の第一印象。
絵はすっごくかわいい。「萌え」人口にすごく受けそうなタッチ。
でも、このどっちかと言えばあっさり風味の絵で、こんな嫌な設定の話を描くか、普通。
だって、
「国中から集めた『障害者』に機械の体を与え、『洗脳』を施して、政府の汚れ仕事をさせる」
って、あたりまえの倫理観を持っている人間なら、眉をひそめないか。

このミスマッチのアンバランスさが、この作品の恐ろしさと言いようのない虚無感を引き立てている。
黒くはない。だけど、限りなく暗い灰色の中でもがいているような閉塞感。
(ここから先、超ネタバレのため反転)

先天性の全身麻痺患者だった少女が、機械の「義体」を与えられ、毎朝自分の体が思い通りに動くことに喜びを覚えるのは当然だ。
そして、親からも愛を与えられなかった彼女が、たまたま知り合いになった男の子に好意を寄せられ、「もし私なんかを好いてくれる人がいたら幸せだな」と感じるのも分かる。
でも、「仕事」の際に彼に現場を見られ、彼女は悪意のかけらもない、一片の曇りもない笑顔を浮かべながら、「ごめんね」の一言と共に彼を射殺する。
翌日。彼を射殺したことをまったく悔いも、思い起こしもせず、彼女はいつも通りに自分の体がちゃんと動くことを確認して安堵を覚え、満足する。

単純に「萌え」対象としてこの作品を捉えることは簡単だけど、この作品の持ついびつさに気づいておかないと、後でものすごいしっぺ返しを喰らわされるような気がする。
今後の動向を要チェック。
「電撃大王」を侮ってたよ。今、あの雑誌でこれだけ力のある話を描ける作家なんていないと高をくくってたので。(失礼)


■2巻
恐! アニメ化。
それはそうとクラエスぅぅぅー!! あんた何て哀しい子なんだ(⊃дT)

2巻目に入り、ほぼ義体の子が全員出揃ったのかな?
10人近くいるはずだけど、他の子は片鱗も出てこないし。
このまま行くんだろうか。

いよいよ物語がカタストロフに向かってゆっくりと進み出しているような。
この話、きっとハッピーエンドはありえない。
衝撃のラスト、ってのでもないだろうけど、きっと読む者が沈鬱な気分に陥るような、ざらついた終わりを迎えるような気がしてならない。
そして、読者サイドもそれを望んでいるような。(私だけか?)

一つのエピソードが綺麗に、明るくオチればオチるほど身構えなければいけない気分にさせる、静かな迫力に満ちた作風は大変に好み。
この先、どんな展開を迎えるのかは想像の余地もないけれど、ガッチガチに防御を固めておかないと、あっという間にノックダウンさせられる予感。
常につきまとうこの不安感は決して不快ではなく、じんわりとした快感ですらあるのだけれど。

……って私ゃマゾかい!!

ちなみに私はトリエラが一番好き。かわいい

 1  |  2  |  3  | All pages