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ヴィンランド・サガ

旧版1巻 旧版2巻
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■1巻
デビュー作にして傑作「プラネテス」を世に送り出した作者であるから、次作はいったいどうするのかと心配していたら。
今度は歴史ファンタジー、しかも題材はヴァイキングときた。
スケジュールの厳しい週刊誌、おまけに雑誌のカラーとはまるで違う方向性、と不安要素ばかりが見え隠れしていたが。

力のある作家は何をかいても巧いのでした。私が余計な心配をしすぎました。心の底からごめんなさい。
「プラネテス」は決してまぐれの産物じゃなかった。

歴史ファンタジーという、ちょっとばかり一般受けしにくく、しかもマニアからは重箱の隅をつつかれるようなやりにくいジャンルに、あえて斬り込むその姿勢。
小手先の裏技(萌えとか)に走ることなく、真正面から堂々と描こうとする作者の気合が、画面を通して匂い立つほどに感じられる。
それを支える、緻密で確かな画力とハードなストーリー、魅力的なキャラ。
どれをとっても非凡な才能の賜物。本物だよ、この作者。

父の仇を討つために、あえてその仇の元で海賊として生きる主人公。
それを、単なる少年の成長物語だと高をくくれば、たちまち痛い目を見るはめに。
殺し殺される描写にはまったくの遠慮がない。だが、単純なグロ的な露悪趣味ではなく、あくまでも戦いから生ずる、現実的な無慈悲さとして描かれており、言い知れぬ迫力がある。
人としての尊厳や、激動の時代をバックに、この先も重厚に展開しそうな物語は期待大。
まだ1巻という船が乗り出したばかりでこんなこと言うのも気がひけるが、あまりの画面密度のためか、確実に不定期連載になりつつあるのと、雑誌の方向性とは全然別の方向を向いちゃってるのが不安だが、何とか無事に最後までゴールしてほしい。


■2巻
ますますもって素晴らしい。
父の死の真相とその背景、世界情勢や各キャラの思惑、すべての歯車がガッチリ噛み合った物語は、堅牢な城塞そのもの。
アクションを描かせれば、剣の風圧すら感じとれるような躍動感を、腹の探り合いでは、身を切るような緊張感を。
場の空気をしっかりと感じ取れる画面は、静と動の使い分けが非常に巧みで、グイグイと読ませる。
誇り高く、最後まで「戦士」だった主人公の父が、今の、復讐に目をぎらつかせた、抜き身の刃のような主人公を決して良しとはしないであろうことは、読者には分かるだろうが、その真実は、今の主人公には届かない。
動乱の世の覇権を巡り、否応なしに戦火に巻き込まれていくであろうこの先の展開は、きっと、重く苦難に満ちたものであろうことが予想でき、いったい次はどんな手段で私を打ちのめしてくれるのだろうかと楽しみで仕方がない。
案の定、週マガからアフタヌーンに掲載誌が変更。ま、当然ですね。
むしろどうして最初っからアフタにしなかったのかと問いたいくらいでした。

……ちょっと待って。ってことは、新装版で1・2巻新しく出る危険性があるってこと?
(また買い直しなのかー!!)

白貌の伝道師

単行本
注! この本は一般書店では(たぶん)置いてません。

お気に入りゲームメーカー、ニトロプラスの一押しシナリオライター、虚淵玄氏の新作。
というわけで、一般書店にはおそらくほとんど売ってませんのでご注意されますよう。
ご購入はメーカーor各種ネット通販か、そっち系の専門店でどうぞ。

今作ではファンタジー世界を舞台とし、エルフだのオーガだのゴブリンだのの単語に免疫がない人にはもうたまらない。
しかも漢・銃器・火薬弾薬を書かせたら業界で右に出る者なしの虚淵氏、たとえそんな世界であってももちろん大暴れ。
さすがに銃器こそないものの、その分おぞましくも凄艶な異形の武器がわんさか。

いつもより登場人物は少ないものの、その分濃密でスピーディーに展開する物語は、それが異世界のものであっても難なく入りこめる。
ただそれが、

超・どす黒い

ので、「ハッピーエンド至上主義」とか、「それでも最後に愛は勝つ」とか寝ぼけたこと言ってる人は今すぐ回れ右してお帰りなさいませ。
そうじゃないと、たちどころに痛い目を見る羽目になり、立ち直れなくなりますよ?

この物語に救いはない。
哀しいくらいに切ない愛もないし、「沙耶の唄」のような形のいびつな幸福もない。
あるのはただ、破壊、破壊、破壊。
死、死、死、死、死。
絶望、絶望、絶望、絶望。
それによってもたらされる凄惨なカタストロフのみ。

ただ、今作の主人公はたぶん歴代虚淵ヒーローのなかでもナンバーワンクラスの強さを誇っており、その圧倒的な存在感に脳ミソ蹂躙されるのはとても楽しい。
これほどのピカレスクヒーロー像は昨今では珍しいと思う。
悪役が強いとうれしくなる私はすっげー気に入った。目下誰にも倒せなさそうなのがまた良い。

悪役は悪くあれ。ただ強くあれ。己の目的を叶えるためだけに邁進せよ。
情を持つな。「実はいい人」になるな。最初と最後で立場を違えるな。
常に余裕を持ち、すべてを嘲笑い、腹の内を見せるな。

というのが私の「悪役の哲学」なのだが、今作主人公は全部当てはまる。つーか軽く凌駕。
負のエネルギーに満ちあふれた、世界の破滅の物語。そういう話が好きな人だけ読めばよい作品。
虚淵ファンは読むべき。いいです、この黒っぷり。

虹のつばさ

新書版 文庫版
……俺様久しぶりに大失敗。とても値段分(¥940)の内容であるとは言い難い。
誤解無きよう言っとくと、私、赤城氏の作品そこそこ読んでます。
時折書き急いでるな、と思う箇所がいくつかあるけど、総じて分かりやすいエンタテインメントでさらっと読めるし、読後のザラザラ感が少ないので、疲れてるときとか良い感じ。

が、しかし。今作はとてもじゃないが斬らせていただきます。

盛り上がらねぇ。

最初っから最後までぼへーっと話が進み、ぼやーっと話が終わる。
血湧き肉踊る冒険活劇を期待した私は、肩すかしをくらった挙げ句に頭から床に突っ込んだ。
それくらいの平坦さだった。

だいたい、主人公が誰なのかいまいちはっきりしないし(たぶん少年なのだが)、そのわりに活躍の度合いが少ない。
ヒロインである王女もキャラ造形が弱く、ありがちなただのおてんば姫でしかない。
謎の風来坊ミッキィも、こういうおいしい設定でありながら、ちっとも格好良くない。

(´・ω・`)ショボーン(´・ω・`)ショボーン(´・ω・`)ショボーン

悪役も、ただの電波野郎と、暗い復讐に燃える冷徹な元同僚、という超ありがち設定。
そこには何の魅力的な味付けもされていない。先が読めすぎる。緊迫感がない。
「どうせ(主人公一行は)助かるんだろー」と、分かってはいてもハラハラドキドキさせる力がまったくもって皆無。
そこを力ずくにでも物語世界に引き込むのが作家の力量というものだと思うのですが如何。

同じような舞台設定、キャラ設定なら、田中芳樹中期の名作「アップフェルラント物語」をオススメします。
実際、びっくりするほど近い雰囲気を持っておりながら、作品の出来は全然違う。
(↑パクリじゃないよ。この二人は同じ事務所で仲がよいので、たぶん今作はオマージュであろうと思われます)

とりあえず、これは本棚には置いておけない。
次の機会に売らせていただきます。合掌。

チキタ★GUGU

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■4巻
ギャーーーーー!!
……「ネムキ」掲載当時にファンの間で大騒ぎになったエピソード、ようやく分かったよ。

鬱だ。もうほんと苦しい。読んでる途中から手が痺れて冷たくなった。
どうしてこの作者、こんなかわいいほんわか系の絵柄で、こんなどうしようもないギャグ漫画みたいなタイトルでありながら、こうも残酷で容赦なく、痛くて優しく切ない話を描くのか。

泣いちまうだろーが。

異世界ファンタジーなのに、徹底的に現実的で冷たく鋭い感性には毎度心臓えぐられる。
「シニカル・ストーリー」なんてキャッチコピーは軽く超越しちゃってるよ。
年齢制限必要なんじゃ……?

常に無色透明の毒を盛られてるようで読むのが怖いけど……続き…を……(⊃дT)

プラネテス

1巻 2巻 3巻 4巻
悪食の私が、万人に、初対面の人にも臆面なく勧められる本。
(普段は人格を疑われるのが嫌なので、人に合わせて作品選びます)

何て言えばいいんだろう。この話大好きなんだけど、適切な言葉が見つからない。
いい作品、すごい作品、素敵な作品、いずれも合ってるけど、微妙にニュアンスが違うんだなぁ。
強いて言えば、「素晴らしい作品」ってことになるのか。

宇宙を舞台に繰り広げられるこの圧倒的なまでに重厚な人間ドラマ。
それでいて宇宙空間としての設定もおろそかにせず、「なんちゃってSF」になるのを防いでいる。
何より、SFでありながら分かりやすい、ってのがミソだ。
こうして、生粋のSF者にも、SFに拒否反応示しちゃう人にも受け入れられる深さと間口の広さを併せ持っておきながら、そのどちらにも偏りがないってだけで相当の力量が伺われるのだが。

1巻では宇宙の緩やかな広がり、2巻では主人公の葛藤、そして3巻ではそのすべてを許容する宇宙の大きさ、と見せつけられて、一介の読者としては、もう諸手を挙げて全面降伏するしかない、といったところか。

ツッコミ所がないんだよ、この話。完成されている。
そのくせ、「読まされてる」感がない。むしろ、むさぼり読みたい。

主人公が自分の内面と対峙し、自身が「弱さ」と思っていた部分を強引にねじ伏せ、自ら望んで盲信しようとする道に進むくだりなんかは本当に痛い。
本当は、わずかな躊躇や欺瞞を抱えつつ。その進む道の意義を誰よりも疑っておきながら。

結果、主人公の目は落ちくぼみ、頬は削げ、眼光だけが爛々と光り、ありのままの「自分」としての姿をだんだん失いながらあがき続ける。
夢に向かって努力しているはずなのに、その姿はまるで「生ける屍」のようにすら見える。
読者を突き放してるんじゃないか、と思うくらいに展開に追い込みがかけられ、そのギリギリ感で読むのをやめたくなるほどだ。

だが、そこで読者の離れかけた心をするすると引き戻す、海の中に宇宙を見出すくだり。
ひいては、
「この世に宇宙の一部じゃないものなんてないのか。オレですらつながっていて、それではじめて宇宙なのか」
と気づくくだり。
これは東洋的思想だったと思うのだが、あえて日本人にも馴染みの深いこの手の世界観を、(西洋偏重のきらいがある)SFに持ってきた、という演出の巧みさ。
月を見て、「綺麗だ」とか「美しい」より、「おいしそう」と言ってしまうマヌケさ。

この力加減の絶妙さが、未だ宇宙に馴染みの少ない我々にも居心地の悪さを感じさせない、そして、この話に引きつけてやまないキモだと思う。

読後、「ああ、この本を読んで良かった」と素直に思える貴重な良本。
続巻が楽しみです。遅筆なのがなんとも……(Tд⊂)

余計なお世話だが、この作者、デビュー作でこんなすごいのを描いちゃってどうするんだろう。
次作からがものすごいプレッシャーだと思うのだが。

LOVELESS

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■2巻
この人の描く「変態」はサイコーです。
たとえ絵が劇的に変わっても、作品に当たり外れが大きくなってきても、やっぱり私は「高河ゆん」が好きだ。

アーシアン別巻 秘密の花園

1巻 2巻 3巻 別巻 秘密の花園
「私は神を信じてない 神は人の愛を知らないから  神は公平だ 神にとって全ての人間は同じだ
だけど どいつもこいつも同じ様な人間達の中で  ただひとりを特別に思うことが愛じゃないのか」

これが、足かけ15年に渡りこの作品を読み続けてきた者への答えだ。
諦め、投げ出していく読者が多い中で、最後の最後までこの作品に付き合ってきて本当に良かった。
満足です。

スカイ・クロラ

単行本 新書 文庫
私が03/01/28までの時点で、現在の森博嗣作品の中での最高傑作だと思う一品。
真っ青な空と白い雲、それを少しも邪魔しない、作中の一文が入った透明のカバー。
計算され尽くしたデザインの装丁で、のっけから度肝抜かれます。これだけで買いだろう、卑怯にも。

この本には、「作者が森博嗣である」とか、「ミステリを多く書いている」とかの情報を一切遮断し、こういう書評にも目を通さずに、まっさらな気持ちで向き合うのが一番いいスタイルだと思います。
余計なことを考えていると、きっと、読後に思ったことを失ってしまうと思うから。
というわけで、当然ネタバレも激しいので以下反転にしています。できれば既読の人のみ読んでね。

作品自体は、小説、というよりも詩的だ。
全編に漂う低い温度。
感情を排し、冷静で突き放した雰囲気が嫌いな人は絶対に馴染めない世界観だと思う。

そして、職業的戦闘機乗りだが軍人じゃない、という人物像に「子供」を設定したのがさすが。
あくまでも「パイロット」であって、それ以上でも以下でもない主人公、カンナミ・ユーヒチ。
「生」と「死」という重いテーマを抱えながら、どうしてここまで冷たく美しい物語に仕上がってるかというと、この設定に負うところが大きい。(以下引用)
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「僕たち子供の気持ちは、大人には決して分からない。
 理解してもらえない。
 理解しようとするほど、遠くなる。
 どうしてかっていうと、理解されることが、僕らは嫌なんだ。
 だから、理解しようとすること自体、理解していない証拠。」

「ただ、一つだけいえることは、
 間違っていても、生きている、ということ。
 間違ったままで飛んでいる。
 飛んでいることが、間違っていることなのだ。
 わからないだろう。
 きっと誰にも、わからないだろう。
 そして、
 誰にも、わかってもらいたくない。」
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と、永遠に子供である「キルドレ」のカンナミの姿は、礼を失しない程度に他者とは付き合うが、己の内面においては誰の干渉をもすべて拒絶し、「死」にすら大した感情を覚えない。

「僕はまだ子供で、
 ときどき、
 右手が人を殺す。
 その代わり、
 誰かの右手が、
 僕を殺してくれるだろう。」

と、語るカンナミは、ラストにおいて、「キルドレ」でありながら「永遠を生きること」を拒んだ草薙を、確固たる意志でもなく、激情でもなく、「誰のためでもなく、何も望まずに、純粋な気持ちで」「右手」によって殺す。
そしてその後、カンナミ自身の内面は何一つ変わりもせずに、物語は閉じられたまま終わる。

そこにあるのは、ただただ「純粋な空虚」。
「虚無」ではなく「空っぽ」、しかしそれは純粋であるがゆえに、読後にはこの表紙のような、果てしなく曇りのない、そしてどこか悲しい「青」を感じ取れるはずだ。

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