ヴィンランド・サガ

旧版1巻 旧版2巻
1巻 2巻 3巻 4巻 5巻
■1巻
デビュー作にして傑作「プラネテス」を世に送り出した作者であるから、次作はいったいどうするのかと心配していたら。
今度は歴史ファンタジー、しかも題材はヴァイキングときた。
スケジュールの厳しい週刊誌、おまけに雑誌のカラーとはまるで違う方向性、と不安要素ばかりが見え隠れしていたが。

力のある作家は何をかいても巧いのでした。私が余計な心配をしすぎました。心の底からごめんなさい。
「プラネテス」は決してまぐれの産物じゃなかった。

歴史ファンタジーという、ちょっとばかり一般受けしにくく、しかもマニアからは重箱の隅をつつかれるようなやりにくいジャンルに、あえて斬り込むその姿勢。
小手先の裏技(萌えとか)に走ることなく、真正面から堂々と描こうとする作者の気合が、画面を通して匂い立つほどに感じられる。
それを支える、緻密で確かな画力とハードなストーリー、魅力的なキャラ。
どれをとっても非凡な才能の賜物。本物だよ、この作者。

父の仇を討つために、あえてその仇の元で海賊として生きる主人公。
それを、単なる少年の成長物語だと高をくくれば、たちまち痛い目を見るはめに。
殺し殺される描写にはまったくの遠慮がない。だが、単純なグロ的な露悪趣味ではなく、あくまでも戦いから生ずる、現実的な無慈悲さとして描かれており、言い知れぬ迫力がある。
人としての尊厳や、激動の時代をバックに、この先も重厚に展開しそうな物語は期待大。
まだ1巻という船が乗り出したばかりでこんなこと言うのも気がひけるが、あまりの画面密度のためか、確実に不定期連載になりつつあるのと、雑誌の方向性とは全然別の方向を向いちゃってるのが不安だが、何とか無事に最後までゴールしてほしい。


■2巻
ますますもって素晴らしい。
父の死の真相とその背景、世界情勢や各キャラの思惑、すべての歯車がガッチリ噛み合った物語は、堅牢な城塞そのもの。
アクションを描かせれば、剣の風圧すら感じとれるような躍動感を、腹の探り合いでは、身を切るような緊張感を。
場の空気をしっかりと感じ取れる画面は、静と動の使い分けが非常に巧みで、グイグイと読ませる。
誇り高く、最後まで「戦士」だった主人公の父が、今の、復讐に目をぎらつかせた、抜き身の刃のような主人公を決して良しとはしないであろうことは、読者には分かるだろうが、その真実は、今の主人公には届かない。
動乱の世の覇権を巡り、否応なしに戦火に巻き込まれていくであろうこの先の展開は、きっと、重く苦難に満ちたものであろうことが予想でき、いったい次はどんな手段で私を打ちのめしてくれるのだろうかと楽しみで仕方がない。
案の定、週マガからアフタヌーンに掲載誌が変更。ま、当然ですね。
むしろどうして最初っからアフタにしなかったのかと問いたいくらいでした。

……ちょっと待って。ってことは、新装版で1・2巻新しく出る危険性があるってこと?
(また買い直しなのかー!!)

プラネテス

1巻 2巻 3巻 4巻
悪食の私が、万人に、初対面の人にも臆面なく勧められる本。
(普段は人格を疑われるのが嫌なので、人に合わせて作品選びます)

何て言えばいいんだろう。この話大好きなんだけど、適切な言葉が見つからない。
いい作品、すごい作品、素敵な作品、いずれも合ってるけど、微妙にニュアンスが違うんだなぁ。
強いて言えば、「素晴らしい作品」ってことになるのか。

宇宙を舞台に繰り広げられるこの圧倒的なまでに重厚な人間ドラマ。
それでいて宇宙空間としての設定もおろそかにせず、「なんちゃってSF」になるのを防いでいる。
何より、SFでありながら分かりやすい、ってのがミソだ。
こうして、生粋のSF者にも、SFに拒否反応示しちゃう人にも受け入れられる深さと間口の広さを併せ持っておきながら、そのどちらにも偏りがないってだけで相当の力量が伺われるのだが。

1巻では宇宙の緩やかな広がり、2巻では主人公の葛藤、そして3巻ではそのすべてを許容する宇宙の大きさ、と見せつけられて、一介の読者としては、もう諸手を挙げて全面降伏するしかない、といったところか。

ツッコミ所がないんだよ、この話。完成されている。
そのくせ、「読まされてる」感がない。むしろ、むさぼり読みたい。

主人公が自分の内面と対峙し、自身が「弱さ」と思っていた部分を強引にねじ伏せ、自ら望んで盲信しようとする道に進むくだりなんかは本当に痛い。
本当は、わずかな躊躇や欺瞞を抱えつつ。その進む道の意義を誰よりも疑っておきながら。

結果、主人公の目は落ちくぼみ、頬は削げ、眼光だけが爛々と光り、ありのままの「自分」としての姿をだんだん失いながらあがき続ける。
夢に向かって努力しているはずなのに、その姿はまるで「生ける屍」のようにすら見える。
読者を突き放してるんじゃないか、と思うくらいに展開に追い込みがかけられ、そのギリギリ感で読むのをやめたくなるほどだ。

だが、そこで読者の離れかけた心をするすると引き戻す、海の中に宇宙を見出すくだり。
ひいては、
「この世に宇宙の一部じゃないものなんてないのか。オレですらつながっていて、それではじめて宇宙なのか」
と気づくくだり。
これは東洋的思想だったと思うのだが、あえて日本人にも馴染みの深いこの手の世界観を、(西洋偏重のきらいがある)SFに持ってきた、という演出の巧みさ。
月を見て、「綺麗だ」とか「美しい」より、「おいしそう」と言ってしまうマヌケさ。

この力加減の絶妙さが、未だ宇宙に馴染みの少ない我々にも居心地の悪さを感じさせない、そして、この話に引きつけてやまないキモだと思う。

読後、「ああ、この本を読んで良かった」と素直に思える貴重な良本。
続巻が楽しみです。遅筆なのがなんとも……(Tд⊂)

余計なお世話だが、この作者、デビュー作でこんなすごいのを描いちゃってどうするんだろう。
次作からがものすごいプレッシャーだと思うのだが。