天外魔境II 卍丸

PCエンジン史上最強最大のRPG。私も未だにこれの呪縛から離れられない。
脚本はあの枡田省治氏。
後に「俺の屍を越えてゆけ」「Linda3」を作る、私の偏愛を一身に受けてやまないゲームデザイナーだ。
そして今作はNECが、ハドソンが、スーパーCD-ROM2の命運をかけて放った超大作なだけに、どんなおきれいな作品が仕上がってくるかと思っていたら。

桝田節だよ天外は。

下品。猥雑。残酷。シニカル。泥臭い。ベタなギャグ丸出し。あああと何か適切な罵倒の言葉はないか。
……ってくらい、日本神話を題材にしてるのにも関わらず、高尚なニオイがかけらもしない。
(これは桝田氏本人がエッセイでも書いていた)

世界の命運をかけているのに、あっけらかんとした雰囲気や人間の図太いまでの力強さが押し出され、勧善懲悪物にありがちの「説教臭さ」が全然感じられない。
なのに、「俺様勇者!」な気分は存分に味わえる。たとえそれが京の町に住む「おミルさん」(※1)に、せっせと戦闘で貯め込んだ金をつぎ込むアホ勇者でも。
(※1:顔は見えないが美女と名高く、貢ぎ物をすればその品の程度によってちらっとだけ顔を見せてくれる。
しかし実は、店頭にある最高額の貢ぎ物をしてもその顔は完全には見られない。
ご尊顔を拝むためにはあるアイテムをあげればいいのだが、そうすればかなりの装備の入手を諦めざるをえないという、極めてえげつないイベント)

この、普通にプレイすれば5~60時間はかかると言われている(16ビット機の時代だよ!)化け物級のRPGをプレイするため、冬休みはバイトに明け暮れ、昼飯を最大限にケチった挙げ句、修学旅行の小遣いを全額つぎ込んで手に入れたDuOの神々しさったら!
(だが度重なる酷使のため、数年後に壮絶な最期を遂げた)
一介の女子高生だった私にはあまりに高額な買い物だったが、ゲーム機+ソフト代を合わせても全然惜しくないと思わせる凄まじい完成度だったのだ、この天外IIというソフトは。

CD-ROM媒体でありながら戦闘←→フィールド←→町の切替がほとんどノーアクセス
広大なマップをストレスなく探索させるため歩く速度は通常の2倍、
比較的高い難易度を持ちながら、戦術次第でいかようにもできる戦闘システム、
シナリオの展開上、移動やイベントに常に制約を設けながらも単なるお使いゲームと感じさせない演出のさじ加減。
そして、どんなにレベルを上げて強くなっても「ボスは強かった!」と感じさせる戦闘ルーチンの妙

当時のゲーム業界で足かせとなっていたすべての問題に対して、これでもか! と力業で応えた結果がここにある。

だが、何よりも私がこのソフトを評価するのは、音楽には久石譲氏を迎え、贅の限りを尽くしたスタッフでのゲームとしては類をみないレベルのアニメーションでもなく、当代の実力派声優を多数起用し、その名に恥じない名演技を見せつけてくれたことでもなく。
究極王道スタイルの「勇者が国を救うRPG」でありながら、どこにも見たことのない形のゲームに仕上がっている、アクの強いシナリオにほとんどすべてがある。

上記のおミルさんのイベント然り、他のいったいいくつあるのか数知れないイベント然り。
特にユーザー間で話題になったのは以下の二つ。

中ボスによって砂嵐に閉じこめられた国を訪れた勇者一行。当然RPGの基本、とばかりに村の人に話しかける。
が、話の途中で村人の足下には砂の渦が発生し、村人は穴に吸い込まれてしまう。
苦心の末ボスを倒した一行は村に戻るが、一度吸い込まれてしまった人々は誰一人として戻っていなかった
調子に乗って村人に話しかけまくったプレイヤーなど、ほとんど無人の村で呆然としたらしい。

ある城下町では中ボスが人を豚に変えてしまっていた。その町から一番近場の村まで逃げ出した豚(元は人間)は、必死になって町の現状を訴えるが、村人には豚の鳴き声にしか聞こえないため豚汁にして食べられてしまう。
今度も苦労してボスを倒した一行は村に行くが、その村では海岸で多数の人間がゲーゲー吐いていた。
そして、必死になって訴えた豚は実は自分の娘や孫で、そうと知らずに食ってしまった老夫婦までいた。

だが、このイベントの一番イヤらしいところは、この村には非常に安いが強力な豚皮の装備品が売られている、ということなのだ。
(もちろん、呪われたりはしていない)
この時点で買える武器防具よりも破格に安く、しかも強力な装備を、材料元は人間と知っていても使用するか。
勇者として、人として、とてもそんなことには耐えられないと涙を飲んで我慢するか。

そして勇者たちにことあるごとに語られる、一般人や天狗様(巻物をくれる)のありがたーいお言葉。
(正確に覚えてはいないのでニュアンスで勘弁)

「戦闘なんてなぁ、勝ったもん勝ち、生き残った者勝ちよ。勝つためならどんな手でも使った奴が、生き残って今えらそうに説教垂れてるってわけよ」
どんな手段で集めようと金は金。誰にも文句は言わせないよ!」

と通常の「勇者像」をことごとく否定してくれやがります、このゲーム。

これ、スーパーCD-ROM2のキラータイトルなんです念のため。

このあまりにも後味の悪い、だが人間的には異常にリアルで精神年齢の高いシナリオと、古事記ベースの枠組みが奇妙に融合しており、史上類を見ない形での、最もお下劣な大作ソフトだと自信を持って言える。

だが、ここまでメチャクチャなことをしても大多数の人間が支持しているのは、そのシナリオに破綻がなく、かつRPGとしての基礎部分が揺るぎなく完成されているからであり。
要所要所に勧善懲悪ストーリーのキモとなる達成感や爽快感を過不足なく配置しているからであり。
一歩間違うとキ○ガイ扱いされかねないキャストを好演し、演出に華を添えた各声優陣がいるからであり。
やはり、「大作ゲームを作る」という意気込みが製作者側に頑としてあったからだと思うのです。

ラスト、勇者一行(そして人間たち)は人を創った神の手を離れることを選択し、神は宇宙へ還る。
神はその際、戦いで失われた者を人々に返してくれる。
その人々が喜び合い、京都の五山の送り火から徐々に宇宙空間へ移っていくエンディングを見たときの満足感を私は忘れない。

10年以上前の、リメイクすらされない、このまま風化してしまうゲームの一本にすぎないのかもしれないけれど。
このゲームをプレイできて本当に良かったと思うのだ。
(03.9.25にGCでリメイク版発売。別にレビューあります)

そしてFXで続編が出ると聞き、慌ててかのマシンを購入した愚か者が一人……。
(もちろんそのタイトルは現時点でも出ていない)