ひぐらしのなく頃に

※この作品は同人ゲームです。出題編の「ひぐらしのなく頃に」と、解答編の「ひぐらしのなく頃に解」の二枚があります。

この作品を語るには、まずその特殊な形態から説明しなければならない。
ジャンルとしてはサウンドノベルに該当するが、肝心の選択肢がない。(理由は後述)
それぞれ、基本の世界観を同じくする、「鬼隠し編」「綿流し編」「崇殺し編」「暇潰し編」という、出題編と呼ばれる4本のシナリオが2002年の夏コミから順次発表されており、これの解答編として、「目明し編」「罪滅し編」「皆殺し編」「祭囃し編」の4編がある。
それぞれのシナリオでも単品として成り立つが、作品の根幹の謎というのは、この8本すべてをプレイすることで初めて明らかになる仕組みになっており、8本で「ひぐらしのなく頃に」という1つの作品であるといえる。
だが、読むだけなんだからゲームじゃないだろ、と早とちりすることなかれ。
例えプレイヤーが自ら選ばなくとも、立派に「ゲーム」と言えるだけのインタラクティブ性を兼ね備えている、かなり特殊な作品なのだ。

重ねて言うが、この作品には、まったく選択肢がない。
そして出題編では、当然ながら謎が提示されるのみで、解答は与えられてない。
そればかりか、ラストは必ず凄惨なバッドエンドで、後味の悪いものばかり。
当然、初めてプレイした人は、大混乱に陥るに違いない。
各出題編のラスト、何をすることもできなかったプレイヤーに対し、初めて作中からメッセージが提示される。

「これを読んだあなた。どうか真相を暴いてください。それだけが私の望みです。」

最後の最後にようやく与えられるプレイヤーの役割とは、「作中の謎を推理し、真相を見つけ出す」というもの。
つまり、推理する過程をゲームとして楽しむ作品なのだ。
その方法に規制はない。自サイトで考察を展開してもいいし、BBSやチャット、オンラインに限らず、オフで友人同士と議論を交わしてもいい。
タイムテーブルを作り、証拠品を挙げ、巧妙に張られた伏線を解きほどく、そのプロセスをゲームとみなす方法論は、これまでのコンピュータゲームとは一線を画したもので、まさにアイディア勝利。
さらに、この発表のフィールドが同人ソフト界だったというのも重要な要素の一つ。
夏・冬2回のイベントに合わせてシナリオを発表、という、適度なインターバルを空けることによって、各所の考察にも拍車がかかるし、その謎にじっくりと取り組む余裕も生まれる。
何より、商業的なリスクを危惧する必要がない同人業界、当然、こういう実験的で特殊な形態に耐性のあるユーザーが多い。
結果、驚異的な価格の安さも相まって、あっという間に広まったわけだが。

最初は本当にシナリオのインパクトだけで勝負していた感もあったのだが、制作を重ねるごとに演出や音楽のレベルアップが図られ、全体的なクオリティもかなり底上げされている。
特に、シナリオ中の文章はさほどでもないのだが、パッケージや作中でのアオリやキャッチコピーのセンスはかなり良い。
適度にシニカルで、適度に挑戦的。その言葉の選び方が洗練されていて、思わずやってみたい、と思わせる力がある。
もちろん、最大のメインなのはシナリオで、発表当初、しばらくは「正解率1%」を誇っていただけあって、非常に意地が悪く(※褒め言葉)、凶悪な謎の数々。
また、ミスリードや伏線張りが実にさり気なく、巧妙に行われていて、決して容易には解けない仕掛けになっている。

そして、尻が飛び上がるほど怖い。大抵のホラーには耐性がある私だが、この作品は本当に怖かった。
さほど回数は多くないのだが、ここぞという箇所での演出が群を抜いて光っており、嫌が応にも印象付けられるのだ。
しかも、その怖さが、思ってもみなかった方向から突然やってくるため、不意をつかれること数知れず。
今ひょっとしたらくるかも、というドキドキ感より、いきなり背後からワッ、と驚かされる感覚に似ている。
よって、心臓が悪く、怖いのが苦手な人はやめた方がいいかもしれない。部屋の隅でガタガタ震える準備はOK?

よく、未プレイ者から、「あの絵がダメ」と言われるのだが、気持ちは分からなくもない。私も苦手な絵柄だからだ。
だが、極端にデフォルメの効いた、一見シリアスとは無縁の明るさを感じさせるこの絵柄だからこそ、それが歪んだ際の恐怖が助長されるという効用もある。慣れればあまり気にならなくなる上、ストーリーが展開するにしたがって、絵などどうでもよくなっていくので、食わず嫌いせずにぜひお試しを。

ところで、これからプレイされる方に、一つお願いを。
「ひぐらし」の前半は、はっきり言ってクソだるい。初回、私は危うくプレイ序盤でやめるところだった。
初めて1時間近くは、メインのキャラ紹介も兼ねているため、いかにもオタク好みのハイテンションな掛け合いが続く。
さらに、平和でのどかな村の暮らしを強調するため、特筆することもない冗漫な日常がダラダラと繰り返し描写される。
そこには、パッケージに記述されているような陰惨な雰囲気は微塵もない。自分の買った作品、ひょっとして間違った?
と疑いたくなるほどに、謳い文句とのギャップがある。
そうして、まるで出来の悪いギャルゲーのような応酬に辟易し、あと30分やって面白くならなかったらやめよう、と思っていた矢先に、突然足元が崩れて、奈落の底が現れたのです。
その、陰と陽のギャップがあまりにも大きすぎ、気が付いたときには、もうどっぷりゲーム世界にのめりこんでいた始末。
だからどうかお願いです。どんなにダルくても、どんなに眠くても、どんなに飽きても、世界が反転するまでは我慢して。
そこからこそが「ひぐらし」の真骨頂、そして、そこまでプレイして初めて、それまでのダルさは演出だったと気付けるので。

今回は、各エンドがどうこうというネタバレらしきことは書かないし、書く必要もない。
「推理すること、自分なりの回答を見つけて楽しむこと」を前提に作られた作品に対し、それは野暮でしかないので。
ただ一つ、最終シナリオの祭囃し編、「カケラ紡ぎ」のアイディアには、素直に感心した。
すべてバラバラに思えた伏線が、一つの目的へと向かって急速に集約されていく快感。
7つのシナリオで辛酸を舐めてきたプレイヤーが、ようやく反撃に転じることができると分かった際の高揚感。
「鬼隠し編」~「皆殺し編」という、7本もの前段階がなぜ必要だったのか、という根本的な謎に対する、明確な回答。
それを、今まで一切なかった、「ゲーム」らしい手法によって表現する演出。
最終シナリオに相応しい、優れた手法だと思った。

正直、これからプレイする人に対し、羨ましいと思うのが半分、残念だね、と思うのが半分。
最初の羨ましいは、夏、冬の間の新作までのもどかしさを味わわなくて済むから。
後の半分は、新作が出るたびに各所で新たな推察が飛び交った、リアルタイムでの熱気を感じることができないから。
そして、自分がそのムーブメントに少しでも参加できたのをうれしく思う。

諸々のエピソードに関して、多少のツッコミや不満はあれど、それはこの作品自体の味を損なうものではなかった。
値段の安さや、ある程度の素養を持ったゲーマーをターゲットに据えた同人作品という立場を、今までにない方法論で最大限に活用した作品。こんな手法があったのか、と思わず膝を打たずにはいられない。
怖いの平気な未プレイ者は、今すぐ公式サイトへGO。第一エピソードの「鬼隠し編」、丸々一本体験版にてプレイできます。

総ボリュームCD8枚分ものエピソードに加え、思わず誰もが考えずにはいられない謎を提示し、それを夏・冬という短い期間内で、毎回ほぼ狂いなく出してきた生真面目な姿勢。
そして、それを破綻させることなく、見事な大団円へと着地してみせた製作者に拍手と敬意を。