※この作品は同人ゲームです。ついでにかなり女性向け。苦手な人は回れ右でお願いします。
BL業界では相当に評判の良い同人ゲーム、しかも現在(05/6月)、同人作品でありながらアニメイトでは複製原画のキャンペーン中というほど力が入ってるのだから、どれやってみるか、と重い腰を上げてみました。
確かに女性の手を感じる、実に繊細な美意識に彩られた佳作。
オープニングからシステムの細部に至るまで、きっちりと細やかに統一されたセンスが世界観と抜群にマッチしており、パッケージも含めて一つの「作品」として完璧な調和を保っている。
この美しく儚い物語を違和感なく表現するために、画面の端々にまで相当こだわりを持って作り上げたのだなぁと感嘆させられることしきり。
このこだわりこそが同人ゲームの証であり美点だ。
基本的に商業作品は一つの意志が通りにくいから、ここまでの統一感を出すことはなかなか難しい。
(多人数で作るから当たり前、かつ仕方のないことだが)
システムは吉里吉里2で作られており、動作も軽快で難解な単語にはルビを振る機能も実装しており、ファンタジー系ビジュアルAVGとして充分及第点。
メッセージウインドウなどのカスタマイズもできるが、せっかくのこのセンスをできればこのまま味わってほしいので、デフォルトでプレイすることをお勧めしたい。
AVGとして当然既読スキップもあるが、エフェクトは飛ばせないので、再プレイ時はやや作業感を伴ってしまうのが難点。
ED数は多いものの、メインシナリオからの派生となるものが多く、その補完をする際はこのエフェクトの発生が鬱陶しく感じてしまう。
物語自体はさほどボリュームもなく、最近の長大なゲームに比べれば短編くらいのサイズしかない。
だが、その中に詰まっているストーリーは、どんな最後にたどり着いても違和感なくまとめられている。
よく言えば予定調和、穿った言い方をすればどれも意外性がないのだが、下手にいじると簡単に崩れてしまいそうな、危うい均衡の上に成り立つ美しさ、とでも言うのだろうか。
とにかく、繊細で洗練されていて、まさに手のひらに落ちて消えてしまう雪のような儚い印象。
一歩間違えば(良い意味で)「乙女チック」ささえ漂う、古き良き時代のコバルト文庫ファンタジーの世界がここに。
よって、これは、BLというよりは、BL風味の作品。
はっきりと「ラブ」を匂わす描写はなされておらず、もちろんそういった行為に及ぶこともない。(ちゅーすらない)
生々しさの伴わない、プラトニックでひたすら精神的な関係は、世俗に汚れまくったねーさんにはかなりまぶしい。
そういう点で言うと、より若い女の子に好まれる作風かも。
(でも最近の小中学生ってすげーからな……)
そんな世界を最大限に盛り上げる珠玉の音楽。
久しぶりにサントラが欲しいと思ったほどです。素晴らしい。
音楽に関してはあまり詳しくないのだが、奇をてらった転調や、小手先の面白さに囚われない正統派の印象。
実に品良く、旋律がそのものが幻想的で美しく、場面場面にしっかり溶け込み、演出面に多大に貢献している。
挿入歌が入るある場面などは、曲の格調高さと相まって、震えがくるほどぞくりとさせられた。
この壊れやすい世界観に音楽を付ける、という作業は並大抵の労苦ではなかっただろうに、まさに完璧な仕事ぶり。
惜しみない賛辞を贈りたい。
グラフィックもかなり頑張っている印象を受けた。
塗りもしっかり、背景にも手を抜かず、立ち絵も豊富で、とにかく丁寧な仕事。
滅びに向かい静かに進む物語ゆえ、どうしても起伏が乏しくなりがちなのだが、立ち絵の微細な表情の変化や、雪や心情の揺らぎ、夢のシーンなどで画面の視覚効果が巧みに使われており、単調になるのを防いでいる。
ただ、どう考えても人物が人間的に怪しすぎる骨格をしており(驚異のなで肩、戦慄の細腰)、淡く綺麗な絵柄ではあるが、やはりかなり少女漫画っぽさがある。ちょい前の「花とゆめ」風味。
ただ、これは好みが分かれると思うが、ハマればこの淡泊ながらもクセのある絵柄にのめり込むこと必至。
私はこの色遣いや服のデザインセンスなんかは結構好き。
でも男は肩と背中。という持論なので、筋肉の一つもなさそうな兄ちゃんたちはちょっと残念でした。
軍人ですら細っこいのってどうなのよ。私の方が強そうだよ。←おい
さて、ハマる人続出、乙女系ねーさんたちに旋風を巻き起こしたシナリオだが。
大変に良くできた、究極の「セカイ系」。
(当サイトのレビューを読むような方で、「セカイ系」の概念を知らない人はいないと思うので、註釈はしません。
万一知らない人はググれ)
ただ、通常のセカイ系なら味方、もしくは近い関係同士で展開するはずなのに、「世界で唯一の加害者と犠牲者」という設定を施したところが、このシナリオのキモでいやらしいところ。(※めっちゃ誉めてます)
そして、「滅びゆく世界・滅びを免れない運命」という、物語が始まった時点ですでに終局を匂わせる手練がまた憎らしい。
大抵のプレイヤーはこれで、「ちょっと、アンタたちどーなるのっ!」と釘付けになるはずだ。
ただし、この手の世界観は、もんのすんごく人を選びます。確実に受け入れられない人もいるのでご注意を。
はっきり言って、私は一般人には勧めない。
元来、セカイ系が好きなら別だが、この手の物語というのは基本的に寛大な人か、架空物語経験値の高い人じゃないと、
「苛つく・意味不明・納得不可」で切り捨てられる危険性があるので。
まぁ、同人ゲームの存在を知っていて、かつ手を出すような人なら、ある程度の素養は持ち合わせていると思うので、その辺は自己責任で。
ストーリーは短めだが、かなり堂々巡りの印象もあるのが否めない。
なんせ、主人公が選べる道は、「自分が殺される=世界は救われる」、「自分は生き延びる=世界は滅びる」しかないのだから。
極めて単純、かつ不条理な箱庭システムの中で揺れ動き、逡巡を繰り返す中で刻一刻と滅びに向かう世界。
設定はシンプルだがドラマティックで、それゆえに登場人物たちが織りなす群像劇は興味深い。
ただ、物語の下敷きに人を殺めることは絶対悪という概念があり、それでも戦争が起こってしまうのに、その描写はほとんどなされない。
どうしても主人公対関係者の理屈でのみ物語が進行してしまい、そこに物語としての薄さが出てしまう。
世界の滅び方も、「すべてが雪で白く覆われ何もなくなる」という、究極の静寂を感じさせる、ある種の美しさを伴ったものであるため、あまり「世界が滅びること」への重みが感じられないのだ。
(これは自分と世界が直結しているがゆえの、セカイ系共通の命題でもあるのだが)
そこで、いくら主人公が滅ぼしたくない、失いたくない、と言っても、「別に滅んでもいいんじゃない?」と思ってしまう私は、ひょっとして魂が魔王ですか。
まぁ、そう思わない人が多いからこそ、このゲームの支持者が多いわけですが。
別に私、この物語が嫌いなわけじゃないです。むしろその逆。
どうあっても絶対に犠牲が出てしまう、嘘のない結末は好むべき展開だし、世界を限りなくシステマティックなものとして捉えた、ある意味冷たいまでに突き放したその感性も好き。
自分に優しくなかった世界よりも、誰よりも心を寄せてはいけない、絶対の殺害対象をそれでも選ぼうとする、そのエゴイズムも大好き。
だから、各EDで誰の犠牲が出ても、人によってはそれがバッドにもグッドにもなりうるし、しかもそれが決して物語の枠組みからはみ出さない。
ED数が多いゲームにありがちな、「えっ、それはこの展開でないんじゃない?」といった違和感の発露がない。
完璧に製作者に管理されたレールの上で踊らされるのも、ここまで強固な美意識に彩られているのならむしろ快感。
最後までただ静かに、この物語の余韻を楽しみたいという気持ちにさせられる。
良くも悪くもプレイヤーの介入を許さない、確固たる世界観。
キャラ萌えや妄想の余地はかなりあるので、脳内補完能力の高いねーさん方にはお勧めできます。
あと、確実に男性プレイヤーは対象から除外されてますが、それでもやってみたいのなら止めはしません。
むしろ、直接的なBL描写はまるでないので、かえって取っつきやすいかも。
でも、普通の男性的な感性の持ち主だと、さほど面白くはないのでは、と思います。
これは、まごうことなき女性による、女性のための乙女ゲームに認定。逸品です。